出会い
現代もので若者を描きたかった。昔見たドラマをヒントに描きました。
部屋の隅。画面が暗く待機電力状態のテレビの前。いつそこに置いたのか、自らの携帯電話が鳴った。アラームの音だ。危険を知らせるアラーム音ではなく、出かける時間のお知らせであった。
「あ、いけない。もうこんな時間」
携帯電話を拾い上げて、アラーム音を消す。そして携帯電話をそばのテーブルの前に置いた。
急いで靴下を履き、持ち物が入ったカバンを持つ。弁当箱と水筒をそのかばんに入れて、そして部屋の鍵を持った。部屋を出ようとして携帯電話の存在に気が付く。
「あ」
部屋に戻って携帯電話を取り、鞄に軽く投げ入れる。
どこにとか定位置にとかいう細かなことは今は無しだとカバンに放り込んだ。靴を履いて鍵を手にして、家を出る。
玄関扉を開けた瞬間に風が前髪を揺らして持ち上げた。急いでセットした前髪が崩れていくことに気が付かずに、扉を閉めて鍵をする。
鍵を鞄に入れると、足元をしっかりと整えてから歩き始めた。エレベーターで一階まで下りて、道行く他の出勤・通学をする人々に交じって駅へと急ぐ。
目的地は大学だ。大学に通うのも後一年もない中、卒業するための論文は進んでいるのに、就職活動は全く進んでいなかった。
電車に揺られ、どうしたものかといつものように考えながら、視界に次々映る会社や工場の看板を目にしては自分がもしそこで働いたらと想像してみるのだ。すると新人として緊張して慣れるまで時間がかかる自分の姿が目に浮かぶ。そして慣れてきたら慣れてきたで、気になっていたことと同時にストレスもためるだけためて、ぽっきり心が折れてやめてしまいそうというのがいつものセオリーだった。
朝からため息を吐く代わりに、口を閉じて、鼻から息を吐いた。
「スー」
と鼻息が鳴った。電車に揺られているので周囲の乗客に聞こえはしなかった。
やや右を向いて窓の外を眺めていたこともあり首回りの筋肉のために左を向いた。すると自分の左隣を開けてひとりのサラリーマン風の男性の向こうに同じ大学で同学年の男性が居た。
相手が有名という訳でもうわさ話に出てくるわけでもなかったが、もともと同じ高校出身という共通点があったので大学入試に数えるほど顔を合わせたことはあった。名前は確か菅原。歴史に出てくる人物と同じ苗字だから覚えていた。
彼と目が合う。
目礼しつつ軽く会釈する。すると相手も会釈をした。
正面を向いていると、左隣に誰か来た。左を見ると、さきほどの彼が来ていた。
「え」
小さな声で驚いたはずだが、
「あ、ビックリした?ごめん。実は少しお時間頂戴したくて」
「どういうことですか?」
「相談にのって欲しくて」
「相談?ご友人じゃなく?」
「うーん。ま、そうだね。ご指名で」
「ご指名って、そうされるような心当たりがありませんが」
「俺も頼まれた手前断れなくて」
「意味が分からないので断りたいくらいです」
「分かる。ただ話だけでも聞いてくれるとありがたいです。頼まれた俺が救われるので、俺を救うと思ってどうか五分お時間ください」
「改札出てすぐあるベンチで聞くだけ聞くで構いませんか?」
すると相手の顔がぱぁっと明るくなって目が輝き始めた。
「ありがとう。助かります」
同じ駅で下車すると、二人で歩く。改札口を続けて出て、すぐそばのベンチを示して、
「ここでお願いします」
とわたしはお願いする。
頷きながら、笑顔で先に座るように促される。失礼して先に座り、隣を一人分開けた隣を示して座っていただく。
「それで、相談と言うのは?」
「同じ大学の友人で足田という男が居るんですが」
「足田さん」
「そうです。同じ学年で俺と同じ学科です」
「その彼がなにか?」
「その、俺とあなたは同じ高校を出た仲だということを知って、色々と情報を教えて欲しいと言ってきたんです」
「えっ」
正直気持ちが引けてしまった。勝手に個人情報を友人に教えないで欲しいという気持ちが体の中でサーっと血の気が引くような反応が出た。
菅原さんは、慌てたように言った。
「あ、安心してください。教えてません。彼はまだ名前と所属している学科を知っているくらいでした」
「そ、それで」
「その彼の写真があるので見てもらえますか?」
「え、えーっと。なんだか知らないと知らないで怖いので見ます」
「分かりました。ちょっと待ってくださいね」
彼はポケットから携帯電話を取り出すと写真を表示させてこちらに向けてきた。
「彼が足田という男です。地元は隣の県で、ひとり暮らしをして学校に通っています」
写真を見ると、短髪にして明るい表情で笑っているその顔はやんちゃな少年を思わせた。考えるよりも行動をすぐに起こしそうなタイプに見える。
「ど、どうですか?」
「どうですかって、第一印象ですか?」
「そうです。明るい性格そうで、行動的なタイプ、ですかね」
「そうですね、確かにおっしゃるとおりです。他に、その男性としての魅力と言いますか」
「え、えっと。その整った顔をされていると思いますし、その、指名されている身の私が言うのもなんですが、彼、モテるんじゃありませんか?男性・女性問わず」
「ええ、交友関係は広いです。確かに好意を寄せるのは初めてではなくお付き合いされていたことがあります」
「こ、好みのタイプではありませんか?」
「こ、好み・・・・・・うーん。自分の好みについて考えなければならない私には好みのタイプじゃないともそうだとも言いかねますので、なんとも」
「ははははは。じゃ、お付き合いしたとして想像してみてください」
「は、はい」
「隣を手を繋いでか腕を組んで歩く。アリですか無しですか?」
「先に歩いて行っちゃいそうな気がします」
「はははははは!大正解です。彼はそういうタイプの人間です」
「そうですよね。行動あるのみって印象があるので、もしかしてせっかちですか?」
「なんてことだ。そうです、彼はせっかちが欠点です」
「私では、足田さんが私とお付き合いして本当の私を知ると徐々にイライラさせてしまって上手くいかない気がします」
「はぁー、やっぱりダメですか」
「ええ。おそらく足田さんが私とはこういう人なのだろうという姿が本来の私とあまりにかけ離れているように思います。私、行動する前に考えては動かないことも多いですし」
「そうなんですね」
「ええ。朝も携帯電話を忘れそうになったし、何故かその携帯電話がテレビの前の床に落ちていたし」
「ああ、なるほど。足田とは関係なく、今現在彼氏は居ますか?」
「居ませんが」
「欲しいと思っていますか?それとも今は良いですか?」
「正直な話、欲しい気持ちはありますが、今は自分のことで手一杯です」
「就職活動うまく進んでないんですか?」
「これが、さっぱりで。どこを受けたいっていう願望が湧いてこなくて。せめてどこの業界だとか分かるといいんですけれど」
「それで説明会や面談は?」
「いえ、それも億劫になったり場違いなような気がして」
「行ってないんですか?」
「恥ずかしながら。ね、足田さんと真逆でしょう。きっとこのことで喧嘩になるか説教を受ける気がします」
「あははははは。そんな未来はいくら自分が例え悪くても嫌ですもんね」
「ええ。なので断らせてください」
「分かりました。もしかしたら彼があなたを導いてくれるかもしれませんが、そういう未来は・・・・・・」
「うーん。ちょっと」
「ああ、外に出かけるのも苦手ですか?」
「そうです」
「なんだか俺はあなたの将来のために足田の行動力で導いてもらって明るい未来を手に入れてもらいたくなってきました」
「付き合う云々は置いておいて、友人として足田に相談してみませんか?」
「足田さんは就職先決まっているんですか?」
「ええ、彼職場にするならあそこだって大学に受かってから一年の夏に知ったバイト先にその頃から正社員として働けるように先輩とともに社長にお願いしていたそうで、条件付きでオッケー出してもらえたらしくて楽しそうに大学生活満喫していますよ」
「なんだか、羨ましいですね。職もそうなんでしょうけれど、良き人に巡り合えたのですね」
「ええ、そうみたいですね」
「くっ、それで今度は恋愛に動かれているんですか。はぁ、何だか最初の印象よりも好印象を抱きました」
「おお、じゃ。お付き合いは?」
「友人で。叱らないでくれるなら」
「ははは。あっ、すみません。五分オーバーしてしまいましたね」
「あっ講義の時間」
「ええ、俺も遅刻しないようにしないと」
「急ぎましょう」
「すみません」
「いえいえ」
菅原さんと駅構内を出口に向かって小走りする。駅の出口から大学まで歩いて十分はかかる。それも入り口の門のあたりまでの話で講義を受ける教室までの移動時間を考えると走ってギリギリというところだった。
「構わず先に行ってください」
「そういう訳にはいきません」
「あははは。こういう時に限って、喉がカラカラ」
「お話しをしてましたからね」
「確かに」
途中で息を整えながら、何とか時間には間に合った。菅原さんも同じ教室に到着して「間に合った」と言っている。
「あ」
という驚く声が聞こえた。声の方を見ると、さきほど写真で拝見した足田さんだった。菅原さんは足田さんへ手を上げて答えている。
私は菅原さんに会釈して、「じゃ、私はこっちに座るので」と移動する。こちらを見ている足田さんにも会釈して、彼らとは違う方の空いている席まで移動した。
すると、菅原さんが私の隣に着席した。
「な、なんで」
「友達だからです」
「え」
こちらで戸惑っている間に、足田さんは「おい!」と言ってから自分の荷物を持ってこちらにやってきた。私は一番右端にいるので菅原さんの隣の空いている席に着席した。
「なんでお前が彼女の隣なんだ?」
「同じ高校のよしみで。もう友達だし」
「いや、友達っていっても」
「ほら、そう言ってるぞ」
「確かになったばかり、いいだろう」
「なんでお前がなるんだよ」
「俺に聞いてくれって頼んだお前が悪い」
「ちぇっ」
「ふふふっ」
「あはは」
「二人して」
「いや、ごめんなさい。ちぇって拗ね方可愛いですね」
「な、からかわないでください」
「からかってません。本心です」
「もっと立ち悪いです」
「ははははは」
笑っていると教授が教室に入ってきた。私たちはこうして友人となった。卒業までの数か月の間に、足田さんとはお付き合いはしなかった。足田さんは念願の職場へ正社員としてバリバリ働き、その過程で出会った女性と結婚して、三児のパパとなっている。
菅原さんは大手企業で働いたのちに、講師を務めて、その後中小企業でマネージメントを務めている。大手企業で働いたいた時にお付き合いをしていた女性は、仕事を辞めた時に別れてしまった。その後講師をしていた時に知り合った女性との間に子ができたことをきっかけに結婚をして、奥さんの希望で新天地での転職を果たしたのであった。マネージメントを任されて行うようになった頃には二人の娘さんのパパとして頑張っている。
私はと言うと、足田さんの念願だった職場の人の知り合いの紹介で出会った文具専門の物販を行っている会社に就職し、なんだかんだと結婚と出産をしても辞めずに長い育休の後に職場復帰して夫婦ともども働いている。
夫は同窓会で再開したもともとクラスメートだった人だ。
大学生活では忙しいのか暇なのか。バイトを少ししながら仕送りで生活していていたが、今は全寮制の高校に進学した息子との連絡のやり取りと下の中学と小学生の子たちの成長が楽しみでしょうがない。
一人は私に似た性格をしている。その子のためにも自分のためにも整理整頓とはから始めて自分で整理できるように育ててきた。
若い頃の自分を思い出して、これから先の年齢を思い浮かべる。まだまだ下の子供たちは未成年だ。成人するまではどうにかこうにか頑張って支えていくって決めている。
駅のベンチで話をしていた頃の私が今の私の生活を知ったら驚くだろう。そんなにやることがある日常を送っているのかと。
それでも今が一番楽しい。
今日と言う日よ、こんちにわ。太陽の光を浴びてリフレッシュ。夜には今日と言う一日をありがとう。また明日。全ての家事ができているわけではない日々に誰にとも分からずに心のうちで申し訳ないと思いながら、寝に入る。
子供たちの子供と出会って、子守を手伝ってなんだかんだと楽しく往生していくんだ、私も。その気持ちを胸に、今日と言う日を生きています。
ドラマのようにもっと細かく描けれたらいいのだが、すっ飛ばしてミドル世代になってドラマの最終回の今こうなっています紹介で締めくくってしまった。ドラマみたいな雰囲気が少しでも伝わったら幸いです。




