第七章「神の島」#3
浮き輪を小脇に抱えてサングラスを思い切りはずしたルビアが高らかに謳いあげる。
「気持ちいいほど晴れた空に果ての見えない紺碧の海。そして本命水着初お披露目のわたしたち! 遊んで遊んで遊び倒すわよ!」
対照的に木影から、ちらちらと真中の方を覗き見ながら蒼生は身を捩らせている。
「せっかく真中の視線を釘付けにする、ちょっとセクシーなんだけど、年相応な可愛いらしさもちゃんとあるビキニを注文通り選んであげたのに。それじゃ落とせるものも落とせないわよ」
「裸を見られるよりはまだ……しかしいざこの僅かな布面積で兄さんの前に出るとなると顔が熱くなってきて……」
「そ、れ、を見せるために着てるんでしょ! ほら、似合ってるんだから感想聞きに行くわよ!」
ふんわりとしたシアー素材の袖付きのオフショルに、チュールが二枚重なったスカートタイプのショーツ。ウェディングフォト等でも使用される純白の水着を纏うルビア。
ほどよいボリュームのフリルが付いたオフショルにハイウェストショーツ。発展途上な体型こそカバーしつつも、胸やおへそはしっかりと出していく、少し背伸びしたビキニタイプの蒼生。
眩いばかりの水着姿の二人が真白い砂浜に出揃った。
「いや、海岸沿いでふと倒れるより、名所の前で倒れた方が見映えするんじゃないすかね?」
「あのな真中。事切れる時ってのは不意に起こるもんなんだぜ? ああここで主人公死ぬんだなって観客に分からせてどうすんだ。予測出来ない日常の中の死の方がリアルで鮮烈なインパクトを残す!」
「ホラー映画とかの手法だよ。誰が死ぬのか、どうやって死ぬのかギリギリまで悟らせないっていう」
当の真中はと言うと、広げられた沖縄本土の地図越しに、撮影のプランやロケ地決めでカントクやライタと白熱した議論を交わしていた。無論、ルビアと蒼生の水着には何のリアクションもなく、目もくれない。
と、そこへ日焼け止めを塗り合い終えたリツカとヒロが合流した。パラソルを広げ、ヒロの車椅子にロックを掛ける。
「ありがとうございます」
「いいってコト。私たちが呼んだんだし。ま、学校には話通してあるから気にせず楽しんでよ。私はせっかくだしひと泳ぎしてこようかなっ!」
着ていた日焼け予防の味気ないパーカーを脱ぎ捨て、大きく伸びをするリツカ。大人の色気をこれでもかと醸し出す王道ビキニを見せつける。
露出度の高いツーピース型は勿論のこと、重ね着風のバイカラーデザイン。豊満な乳房が今にも溢れんとする頼りない三角のトップスに、際どいラインやヒップラインを魅せるボトムにと、もはや思春期男子の煩悩を刺激することは必然的と言えた。
目で追うカントクやライタの鼻の下が伸びる中、真中もまたごくごく自然と見入ってしまっていた。
その様子を見ていた蒼生がすたすた真中の元までやってきて、不満爆発と言わんばかりに背を両の拳で小突く。
「兄さんのすけべ。えっち」
「何だよ、痛、痛いって」
むすっとする蒼生にルビアが諭す。
「言ったでしょ蒼生。真中はまだ子供。おっぱいは大小じゃ測れない。そのおっぱいが好きな人のものかどうかで興奮度合いは決まるのよ!」
「余計にだめじゃないですか! 見てくれてもないんですよ、私のは!」
「何の話だよ二人とも」
「そもそも真中がリツカのおっぱいを視姦したのが悪い」
「言い方汚ないって。あ、あと見てないし……」
「兄さんは嘘つけないんですから容疑の否認はむしろ悪印象ですよ」
「リツカさんの胸見ただけで犯罪者扱いかよ! あれ、本人も見せつけてるやつだって!」
「言い訳無用です! 連行します!」
真中らの不毛な談義を横目にヒロと同じパラソルの下、フードを被ったアルが我関せずといった具合に入って来た。
「行かなくていいの?」
「日向は性に合わない」
「ふーん」
「君こそいいのか?」
「この足だしね。さすがにまだ海で遊べたりは無理かな」
「違う、天動真中への愛の告白だ」
「なっ、それ……」
いつもならば、はいはいと軽口で流せるヒロだったが、あまりにもいきなりで核心を突いたアルの発言に動揺が走る。
「見ていれば分かる。僕たちに作戦を提供したのも恋敵となり得るルビア・アンヌマリーを排除したかったから、という理由もまたあるのだろう」
「……うん」
「なればこそ。先を越されない内に、だ」
「私にその資格はないよ。あの日に失くしちゃったの」
「仲間を売った罪悪感か」
「まぁ、そんなとこ」
「そこに天動真中の気持ちは無い。あるのは罪悪感のせいにして傷つかない為の予防線を張っているに過ぎない君の弱さだけだ」
「でも私のしたことを真中とルビアちゃんが許してくれたとしても、この私が許さないの。ルビアちゃんを死なせたのは確かだから」
「手を下したのは僕たちシルフィムだ。君が改心したから、こうして共に居られることを忘れるな」
ヒロが見やるとルビアと蒼生によって無理矢理ビーチボールに誘われ、水着を引っ張られる少し困り顔の真中が確かに存在する。
「急かすつもりはない。ただ告白をするにはもう時間がない。天動真中が沖縄に居る今しかないんだ」
「それってどういう……」
「天動真中にしか成し得ないことがこれから起きる。大きな畝りだ。それに、勝てる保証もない」
「どうして真中ばっかり。あの聖堂騎士団って人に任せれば……魔術師、なんでしょ」
「何故彼らが映画研究会の3人をこの旅に誘ったのか。全ては天動真中の口から直接さよならを言わせる為だ」
「えっ……」
言葉を失うヒロの耳に、ただ行っては帰るさざなみの音が大きく響く。
「もしも、君が幸せになる邪魔をすると言うのなら、その罪は僕が背負おう」
「えっ?」
「同胞は救われた。もう戦う動機はなくなったものと思っていたが、違うな。僕は君と同じものを背負っている。だからこの戦いが終わるまでは希嶋ヒロ。君の荷物も僕が持って行く。だから悔いの無い選択をしてくれ」
徐に立ち上がったアルが踵を返す。
「僕は君の健闘を祈る。友として」
そのまま屋内へと姿を消していく。残されたヒロが見つめる先には、きらきらと波に乱反射した光に照らされる真中の姿があるだけだった。




