第七章「神の島」#2
「はいたーい! ここ二、三日地下と機内にこもりっきりだった分、満喫させてもらうわよ沖縄!」
凡そ18時間のフライトを終えて五人が到着した那覇空港は、10月と言えど未だ暑かった。思わず各人羽織っていた上着を脱ぐ。
「兄さん兄さん。どう、ですか……?」
真中の直ぐ隣を歩く蒼生が立ち止まり私服について恐る恐る訊ねた。
ボリュームスリーブのついた、透け感のあるオフショルブラウスをインしたミニ丈のチェックスカートとブーツという気合いの入った出立ち。蒼生が持ち得る限りの私服を重ねたデートコーデだった。
スーツ姿とは打って変わってのガーリッシュな衣装に真中は素直に驚く。
「良く似合ってるよ。流行りのことは分からないけど、その上のもチェックのスカートも、背伸びしてない感じでいいと思う」
それを聞いた蒼生はよし、と見えない所で小さくガッツポーズを取った。
「でも、少し隈出来てないか? 化粧のせいか?」
「イグザクトリー。公共の場では何故か眠れなくて。そういえば隣のルビアさんは熟睡していましたね。羨ましい限りです。しかし、寝入ったかと思うと突然、寝言を……」
「ああ、あれ。まぁまぁビクってなるんだよな」
「全て科白調なのですが、意味が分からなくて。御釈迦様でもご存じあるめぇ! って何ですか?」
「あいつの寝言、全部何かのキャラっぽいんだよな。本人に直接確かめたことはないけど」
「寝てても変わらずですねルビアさん」
「本当、昨日のことぷーすか文句言ってたくせになんだよあれ」
噂の当の本人はと言うと。晴天を仰ぎ、降り注ぐ太陽光を浴びながら、リツカから借りたサングラスを掛け、売店で買った麦わら帽子を被り完全に浮かれ気分だった。
そこへ乗り付けるオープンカー。運転席にはレンタルの手配を完了したリツカが座っており、親指を立てて後部座席を差した。
「お待たせ! 乗りな! なーんて」
「リツカさんもノリノリなんすね」
「当たり前でしょ! 要はお守りだけど、気張ってても疲れるだけ。それに頼り甲斐のある面子だし。楽しむ時は何も考えずに楽しむぞってね」
全員が乗り込み、リツカがアクセルを踏む。暫く走っていると、ヤシの木が左右道路に沿って植樹された通称ヤシの木ロードに差し掛かった。沖縄でも有数の絶景ポイントに約二名のテンションは上がる。
「見上げた夜空の星達の光ーー♩」
「風に想いを月に願いを力ある限り生きてくんだ今日もーー♫」
助手席に座るルビアと運転手のリツカが機嫌良く歌いあげる。
「僕らこんなことをしていて良いのか? 藤澤砂夜を止めなければならないんだろう? 一刻も無駄に出来ないはずだが」
アルは一人楽しむ様子にはなく、後部座席の端で怪訝そうにしていた。
「リツカさんの考えてることはさっぱりだけど、無駄なことをする人じゃない。この旅にもきっと意味があるんだって」
「意味、か……副団長になる京蒼生の所感を訊きたい」
「向こうの出方を待つ。というのも兵法の内の一つです。狙いは冠数魔法の黄金櫃というところまでは突き止めましたが、そう易々と開けられる代物ではありません。なので今は何も訊かず、未来の上司に付き合おうかと思います」
それから車を走らせること20分。事前に第八騎士団がブッキングしておいた宿に到着した。
「ホテル……じゃないっすよね、何すか?」
「ヴィラって言う戸建ての棟で一棟丸々が客室なの。加えて暫くは貸し切りにしてあるから好きに使っていいよ」
各自の部屋には沖縄の開放感を直に味わえるプール付きの庭と露天風呂まであり、ルーフトップテラスからは、眼下に広がる海と夜空も堪能出来る仕様。プライベートは守られつつしっかりリゾート気分も楽しめるうってつけの宿泊施設だった。
「聖堂騎士団も随分と張ったわね! プールもいいけど、10月でも泳げるって聞いたら行くしかないわね、海! 水着も新調したものね、蒼生!」
「二人、いつの間に買い物に行ったんだよ」
「昨日、空港での待ち合わせ前に少しだけ。私、水着は競泳用のしか持ち合わせがなかったため助かりました」
「蒼生の準備も万端だし。さぁ! 着替えて浜辺に集合よ!」
「……の前に。ちょっと」
意気込むルビアの科白を打ち消したのはリツカだった。
「逢わせたい人がいるの。特に真中君」
「俺?」
リツカの合図で玄関から出て来たのはカントクとライタ、そして車椅子に座るヒロに違いない。
「しばらくぶり? なんかお互い遠くに行ってたみたいだし」
ヒロの退院に、元気な姿に自然と笑みが溢れる。
「でも俺もヒロも戻って来た。また一緒に映画撮れるんだな!」
「うん。話したいことも途中だったし。こんなとこじゃ死ねないなって思ったから頑張れた」
ヒロより差し出された台本には決定稿IIとある。
「今撮ってるやつだろ? でも第二稿?」
補足説明に入るライタとカントク。
「本当は北に逃げる内容だったんだけど。今回の話を聞いて二人の行く先を南の島に変更したんだ」
「ソナチネみたいだろってライタを説得してな。だから映研揃っての合宿旅行も兼ねて東京の続きを撮るぞ! ここならいい画が撮れそうだ」
日常が戻って来た様な気がして四人との会話を愛おしむ真中。しかし、彼らの残された時間はあまりにも短く、夏の終わりと共に直ぐそこまで迫っていた。




