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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第六.五章

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第六.五章 「閑話休題」

「今日だけで色々あり過ぎだろ。俺に妹がいたり、馬鹿みたいに強い騎士団長とやり合ったり、親父が追いかけてた本当の敵も……」


 世界中が混乱する最中にも会議は再開され、ルビアと真中(まなか)は当面の間、藤澤砂夜(ふじさわさや)の対抗策として第八騎士団の監視下に置かれることとなった。それも全ては藤澤砂夜同様、精神の世界を認知出来るが故に、侵入された場合の対処が可能であるという結論に至った為だった。


「生かされたのって、俺に彼女を止めろってことなのか……そんなの……」


 あてがわれた天動梗吾(てんどうきょうご)の工房のソファーにて横になる真中。不意に目を瞑ると強烈な睡魔に襲われる。はっきりとした答えこそ出ないまま、深い眠りについた。


ーー*ーー


「首の皮一枚繋がったわね」


「意外でした。比嘉辻(ひがつじ)騎士団長が援護してくれるなんて」


「真中が口説き落としたんでしょ。助力した甲斐はあったみたいね」


 第八騎士団預かりとなったルビアと、その副団長となる蒼生(あおい)


「客間はシルフィムの皆さんで使って貰う手筈になりましたから少しの間、寝泊まりに際しては私の工房で我慢して下さい」


「お風呂と着替えさえあれば問題無いわ。でもまさかこの建物自体が魔術結界でアレまで完備してるなんて。疲れた体に粋な計らいじゃない」


 生活圏も兼ねて設計されているため、工房と一口に言っても不自由さは無く。着替えを取りに寄った足で二人は聖堂内に在るルビアが期待するアレ(・・)へと直行した。


「最っ高ね! 広いし洒落てるわ! まるで現代のテルマエ・ロマエじゃない!」


 石造りの湯殿(ゆどの)に広々とした円形の大浴場。中心部には湯が絶えず流れ出る花弁の彫刻と、それを取り囲む八本の石柱(せきちゅう)が優雅なる空間を演出していた。


 身体を洗い、薔薇の花びらが浮かべられた湯船に浸ると張り詰めていた気や、緊張した筋肉が一気にほぐれていった。


「少し熱いけど、今はこれくらいが心地良いわ。はぁー気持ちよくて溶けちゃいそう」


 おろした髪をタオルで束ねたルビアが目一杯に両腕を上に伸ばす。


「油断したら寝ちゃうわね、これ。まぁでも少しくらい気を緩めてもいいかしら」


 ふと隣を見ると、すっぽりと口元まで浸かり、物憂げな表情を浮かべ遠くを見つめている蒼生の姿があった。


「悩みごと? 部外者のわたしにだから話せることもあるかもしれないわよ」


「申し訳ありません。気を遣わせてしまいましたか」


「話しにくいことならなおさら本音を曝け出してもいいんじゃない。ここは温泉。誰も着飾らないし、汚れも簡単に洗い流せるもの」


「……なら少しだけ」


 起き上がり、縁に腰掛けた蒼生が胸の内を語り出す。


「私は会議の場で兄さんとルビアさんを護りきれませんでした。自分の進退を懸けて援護するつもりが、シルバート騎士団長の追求に何も言い返せなかった……魔術師としての半端さに少し落胆してしまいました」


「わたしは別に気にしてないけど。どうしてそこまで真中を助けてくれようとするの? 兄妹でも今日まで逢ったことも話したこともなかったはずでしょ?」


「兄さんが小学生時代に起こした傷害事案は知っていますか」


「ええ」


「兄さんが一番辛かった時、何もしてあげられなかった。側にいてあげることすら出来なかった。魔術の修行をほっぽってでも駆けつけるべきだったと、胸のつかえが今も残っているのです」


「まだあの子は子供なのよ。その内に上手く立ち上がる方法を自然と身につけるわ。それまでにもしあの子がつまずいた時があれば、わたしたちが手すりになって、ギブスになって、杖になってあげればいい。わたしが知ってる仲間ってそういうものだと思うから」


「……そうやって。ルビアさんはずるいです」


「え?」


「私は頑張って背伸びしてるだけなのに、ルビアさんはもうずっと大人で。ずっと先を歩いてて」


 そこで蒼生は急に勢いよく立ち上がった。


「私は兄さんが好き。家族としてじゃなく異性として好き。例え相手がルビアさんであっても、兄さんを譲るつもりはありません。必ず追いついて、追い越して見せます!」


 唐突な所信表明(しょしんひょうめい)に戸惑うルビア。


「それってどういう……」


「これは宣戦布告です。正々堂々と私、(かなどめ)蒼生は貴女と勝負します」


 何処か決意を宿した顔で出て行こうと扉に手を掛けた瞬間、向こう側から開け放たれた。


「はっ?」


「え?」


 蒼生と鉢合わせたのは、同じく服を脱ぎ捨てたあるがままの真中だった。


「うたた寝してたらこんな時間で、夜のルーティンこなしたら汗かいて……」


 濡れた髪から静かに滴る雫。新雪みたく白くきめ細やかな柔肌が張ったデコルテを通り、ルビアよりもやや膨らみのある胸の丘につぅーと流れ、やがて雫はおへその窪みに落ち、水たまりを作った。


「そんなじっと見ないで下さい……」


 頬を赤らめながら蒼生が必死に言葉を絞り出す。


「二度目の慈悲はない……って言いたいところだけど。男湯と女湯で時間帯が変わることなんて知るわけもないんだし、いいわよ今回だけ」


「いい……って?」


「他に先客も居ないし。ここ濁り湯だし」


「いや、後で入り直すって!」


「そんな悠長にしてたら明日になるわよ。その頃にはもうローマを出てる」


「…………」


 熟考に熟考を重ねる真中の元へタオルを巻いたルビアが仁王立つ。


「パートナーとして彼氏を労うのは当然よね。今日の頑張りの褒美として背中を流してあげるわ!」


「彼氏!?」


 タオルで隠し直すも先の単語に動揺してまた落としてしまう蒼生。


「役の話だろ? 誤解を招くから外ではやめろって」


「恥ずかしい?」


「何ていうか、慣れないんだよ。そういうの」


 洗い場にて。ルビアはボディーソープを泡立て、その小さな両手を真中の背中に押し当てた。


「小柄だと思ってたのに背中は筋肉質で大きいのね」


 黙って従う真中の元へ、脱衣所から声が聞こえてくる。


「トゥートラブル。問題発生です二人共!」


 蒼生の一声が反響する。そこへ引き戸を開けて入ってくる裸の騎士団長たち。


「全く。私も甘くなったものね。あんなちんちくりんに助け舟まで出すなんて。リツカのこと、とやかく言えないわ」


「以外。銀音(しろね)からそんな科白が聞けるなんて。ま、それだけ私に影響力があるってことかな」


「お互いに良い刺激を与え合う仲ということでしょうか。私も連れてくればよかったですかね……ん?」


 扉の前であたふたしている蒼生を発見したペリーナが不思議そうに見つめ返す。


「何か困り事でしょうか、京副団長?」


「そこで突っ立って何? 落とし物?」


「いえ、そうではなくて……あの……」


 騎士団長らの意識を自分に向けさせるため蒼生が必死に思考を巡らせる。


「湯冷めしちゃうから、早く上がるか……それともお姉さんたちともう一回、入る?」


「い、いえ……」


 背後を一瞥すると、洗い場には既に誰の姿もなく、ルビアだけが湯船に浸かっていた。


 そこに機嫌を悪くした銀音が詰め寄る。


「あーら、どうして私の唯一のお気に入りスポットに、我が物顔で吸血王なんかが入り(びた)っているのかしら?」


 性格上、言われっぱなしのルビアでもない。


「それは失敬、ごめんなさい。魔女(ヘックス)も真中というちんちくりんに惨敗した記憶を綺麗さっぱり洗い流したいものね」


「なんなら今ここで憂さ晴らしに貴女を封殺してあげても良いのだけど」


「やっぱりモヤモヤしてたんじゃない。言っておくけど今の万全なわたし、強いわよ」


 視線がばちばちとかち合う中、ルビアの周囲から泡が立ち始める。


「ちょ、ばか!」


 浸かっている湯に向かって言葉を浴びせるルビアを不審に思うリツカ。


「ルビアちゃん、何か変だよ」


「何かって? いつもどおり! 変なことなんてないわよ!」


 息継ぎに浮上しようとジタバタさせる真中をおしりで押さえつけているのは事実である。


「だってぶくぶくなってるし」


「えーと…………」


 考えた末のルビアの言い訳が冴え渡る。


「こ、これは……オナラよ! オナラ! ずっとがまんしてたからいっぱい出てるの!!」


 何と言い返せば良いか言葉を失うリツカ他一同。


「そ、そう、ね。ルビアちゃんも出るものは出るもんね。そっかー」


 それ以上は触れづらい淑女としての恥じらいを察してか、三人は無言で洗い場に向かった。


 隙を見て肩で息する真中が駆け足で大浴場から出ていった。


 赤面するルビアが虚しく独り言ちる。


「なぜかしら、乙女としてとても大切な何かを失った気がするわ……」


 真中が感謝の意味を込めて脱衣所からサムズアップするも。


「ぜんっぜん、ヨシ! じゃないわよ!」





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