第六章「シェア・ザ・ダークネス」#10
同時刻、ローマのトラットリアにてディオサンから渡された端末より配信動画を見入る梗吾とペリーナ。
藤澤砂夜からのメッセージは続く。
「『我々は約束を取り付けてもらいたくこの配信を行っています。中には我々に対して不信感を抱いている方もいらっしゃるでしょう。ですが我々はこの社会の在り方が好きです。スクラップアンドビルドでのし上がってきたあなたたちが大好きなのです。だからこそ、我々を偉大なる先人たちが築き上げてきた、その社会に組み込んで頂きたいのです。要求は三つ。一つ、ハルモニアシィア全信徒を人類の上位存在として公認すること。二つ、ハルモニアシィアの信徒による傷害及び殺人行為を例外なく詰責せず不問に付すこと。三つ、ハルモニアシィアの行動に対して何人も不介入であること。それらが護られる限りあなたたちの生命を保障致します。しかしながら以上の要求がのまれない場合、ヒト社会は未来永劫、混沌に満ち溢れることでしょう。それを今から端的に証明して差し上げます。ほんの一瞬の出来事ですので、これから目の前で起きることをよくご覧になって下さい。そして民意によって受け入れるか否か、ご決断下さい。わたしはあなたのすぐそばにいます』」
そこでぷつりと動画は終わり、藤澤砂夜の言葉の真意を梗吾が思慮していると、隣の席の若い女性の客人がふっと立ち上がりバターナイフを右手に持った。
次の瞬間。使い回された切れ味の悪いバターナイフを右目に勢いよく突き入れると、より深く差し込みぐるりと一周。血溜まりが出来上がると共に、グラスの中に抉り取った眼球がポシャリと飛沫を上げて墜落した。
「ペリーナ騎士団長は引き続き状況を報告! 僕は手当てに入る! これが感応……動画の口振りでは世界中で同じ事象が起きてる。全世界の人間の思考をジャック出来るのか」
我に返り崩れ落ちる彼女を抱える梗吾はすぐさまそれが藤澤砂夜の感応による自死行為だと判断する。
ペリーナからの連絡を受けた総騎士長以下騎士団長及び副団長。真中やルビアもまた同様の映像と、世界各地で起きている原因不明の自死事件の速報を観ていた。
犠牲者の数が暇なく桁違いに増加していく。飛び降り、自傷行為、首吊り、飛び込み、薬物の過剰摂取、溺死等々。報道するキャスターまでも自身で首を絞めて自殺を図る始末。一千人だったものが一万人、十万人、いよいよ百万人にまで達した。
藤澤砂夜の持つ残虐性を識り、呆然と立ち尽くす真中。何故ここまでルビアや聖堂騎士団が彼女一人に固執し警戒するのか、その疑問もようやく氷解に至る。
「あれ……俺たちも使える心の声、だよな……」
「似て非なるもの、かしら。彼女はこの力を感応と呼び、これほどまでに力そのものを昇華させた。わたしたちのものとは本質も規模も違う。あれは人間の脳にある〝死にたい〟という欲求を最大限に膨らませたものよ」
「そりゃあ、生きてれば死にたくなるような最悪な日だってある! でもほとんどが思うだけで、踏み留まるだろ! 実行には移さない!」
「そのトリガーを一斉に外したのよ。藤澤砂夜は一線を越えさせた。このデモンストレーションのために。全人類を脅迫するために」
「だからすぐそばにいるって……もし奴らを受け入れなかったら……」
「おそらくは各国連携して交渉に入るわ。そしてその間に……」
ルビアが視線を居並ぶ騎士団長に向ける。
「藤澤砂夜を殺す。それしか道はなくなった」
依然として画面からは物々しい緊急報道特別番組と、つなぎのフィラー画面が延々と流れていた。
結論として藤澤砂夜が引き起こした同時多発自死事件は11623746名の死亡者と、72811名の意識不明者を出し、前代未聞のテロ事件として記録された。




