表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/64

第一章「吸血王のゆくえ」#3

「親父!」


 玄関先で待機していた梗吾は、島民からの信頼も厚く、腕も人柄も含めて評判の良い医者であった。その上で真中を育てあげた実の父親でもあり、真中もまた絶対の信頼を置く唯一人の家族だった。


「手伝おう。処置室まで運ぶ」


 ルビアを診察台に寝かせて次の指示を仰ぐ。


「俺はどうしたらいい?」


「いや、ここから先は医者の領分だ。待合室でも自室でもいい。信じて待っていてくれ」


「分かった。後は頼む」


 真中はやるべきことはやり尽くしたと悟り、処置室のドアを静かに閉めた。


 スリガラスのウインドウ越しにまだ声が聞こえる。


「O型RH+だったかな。思った通り輸血が必要のようだ……」


 天動医院の二階と三階が二人の居住スペースであり、真中のパーソナルスペースは三階にある。ただ祈ることしか出来ない真中は自室に戻り、ようやくそこでカバンがないことに気が付いた。


「しまった教室だ。撮影に直で行ったから」


 なにぶん個人情報ともなる学生証や、財布もカバンの中。ヒロに頼んで持ち帰っておいてもらいたいとメッセージを送る。


 数秒して了解との返事。


『ルビアは今、治療中だから心配するな』


 そう返してからベッドに横になった。


「今はこれしか言えない」


 ベッドから見えるサイドテーブルには写真立てが置いてある。写っているのは二人。いつかの母親と、今と変わらない眼鏡の奥、幸せそうな笑みを浮かべる父親。そこに自分はまだいない。


「映画の展開じゃありがちだけど、生き別れの妹とかだったりな。俺に妹か……にしては似てないんだよな。でも腹違いとかならワンチャン……」


「それはないよ。真中」


「っ!」


「ノックはしたんだけど、どうも聞こえていなかったみたいだね」


「驚かすなって……それよりルビアは!」


「下においで」


 梗吾の後を追って階段を降りると、入院患者用のベッドには血色の良くなったルビアがいた。


「良かった。元気そうでなによ……」


「よくなーーーーいっ!!」


 それは真中の科白を遮るほどの声量であった。


「このわたしが二度も他人に助けられるなんて! こんなにもやわじゃなかったはずなのにまったくもって不本意よ!」


「何だそんなことか」


「そんなことって……一応今はこんなでも、二、三日前までは吸血体相手でも軽くひねってやって、世界半周飛ぶことだって訳ないことだったんだから!」


「何言ってんのかはイマイチ分かんないけど、気にするなって。ちょうど家が病院だったことだし。そもそも目の前で人が倒れてるのに俺は無視なんか出来ない」


「真中の言う通りだよ。誰にだって一人きりじゃ乗り切れない時がある。病気や怪我をした時は尚更だ。他人を頼ったっていい。助けられたっていい。それを恥じだとは言わない。生きてく以上、持ちつ持たれつさ」


「名前、まだ訊いてなかったわね」


「僕の名前は梗吾だ。よろしくルビア君」


「あなたにも世話になったわ。何かお礼をしないと」


「僕は医者としての務めを果たしたまで。礼なら彼に言ってやってくれないか。汗だくになって君をここまで運んで来たんだからね」


「そうなの?」


「そりゃあもう必死な形相だったよ。心から心配してたんじゃないかな」


「……じゃあ、一応。真中もありがと」


「ああ。どういたしまして」


「見ず知らずのわたしのためにここまでしてくれて。二人とも、お人好しなのがよく似てるわ」


「まぁ親子だしな」


「家族……なんだ」


 身体こそ快方に向かっているのが一目見て分かったのだがその反面、真中は心奥に存在する寂しさや孤独感のようなものも見てとれた。


「そんな身体をおしてまで、この島に何の用があったんだ?」


「それよ! ここは一体、日本のどこなの? 東京を目指してたはずなんだけど」


「ここは東京から300キロ南下した場所に位置する鳳凰島と言う田舎島さ。一応住所自体は東京都に間違いはないけれど」


「それからもう一つ質問してもいいかしら。最近この島にショートカットでメイド服姿の無愛想な女の子を見かけたりは……」


 前のめりに質問を重ねるルビアから腹の音が聞こえてきた。


「輸血や点滴はしたけれど、食事は何よりも健康体に繋がる基本だよ。ちょうど夕食時ときてる。食べて行きなさい」


「ごちそうにまでなるわけには……適当にコンビニで済ませるわよ」


「ああ、この島コンビニ一軒しかないし、多分この時間店じまいの準備してるんじゃないかな」


「嘘でしょ、24時間じゃないの!? なら、ファミレスよ! そこなら遅くまでやってるでしょ!」


「ないよ。そんな大層なもんこの島には」


「うう……」


 今も鳴り止まぬルビアの空腹を告げる響き。


「俺は構わないし、親父もそうした方が良いって言ってる。特に医者の言うことはきいておいた方がいい」


「じゃあそういうことなら……今晩だけ特別よ! 特別!」


 診療所を閉め、今度はキッチンに立つ梗吾。エプロン姿もサマになっている。


「家は母親がいないからほとんどの家事は親父がしてる。だから料理の腕もいい」


「オムライスでいいかな? 卵を使い切りたくてね」


「オムライス? 大好きに決まってるわ!」


「そうか。それなら良かった。ホワイトソースをあらかじめ皿に敷いておいて、魚介を混ぜたバターライスを盛り付けて、上からオムレツを乗せる。卵は贅沢に使おう」


 数分後。テーブルの上、ルビアの前に出来立ての梗吾特製シーフードオムライスが運ばれた。


「召し上がれ」


「これって……卵を普通より多く使わないと出来ない自分で切って開く、トロトロのやつじゃない! 伽耶乃だって節約だとか言ってなかなか作ってくれなかったのに」


「さぁ、冷めないうちに」


「いただくわ!」


 ルビアが上機嫌で食べ始め、梗吾は次に真中の分に取り掛かる。


 そうして慣れた手つきで三人分がさっと出来上がった。


「うーん美味しい! こってりしてるかと思いきやしつこくなくて、でも濃厚で。毎日食べても飽きない自信があるわ」


「お褒めに預かり光栄だね。さぁ、僕らも食べようか」


 食卓を囲むのはいつぶりだろうか。ルビアはカヤノがいた時のことを思い出していた。


「ここにはたった一人の家族を探しに来たの」


 スプーンを置き、食べ終えたルビアが神妙な面持ちで語り出す。


「それが伽耶乃さんって人か」


「わたし、昔誘拐されかけたことがあってね。それがきっかけでボディーガード兼使用人として、お父様が雇い入れたのが白雪(しらゆき)伽耶乃なの」


「名前からして日本人だな。だから日本に?」


「ええ。あの子の故郷だから。たとえ入国してなくっても、行きそうな場所の手掛かりくらいは掴めると思って」


「そもそも何があって出ていったんだ? ケンカでもしたのか?」


「伽耶乃は争いを好まない方よ。ううん。本当は何も知らなかったのよね。知らずにわたしの大切なものを奪って消えた。だからこそ知りたいの。わたし、伽耶乃に嫌われるような何かを知らず知らずのうちにしてたのかもしれないから。もしそうだったら、悪いとこを直してきちんと謝らないと。でもそうじゃないなら理由をせめて訊きたい。また二人で暮らしたい、帰ってきて欲しいから……」


 ルビアの表情に後悔や憂いが先にも増して見えた。


 夕食後、このまま泊まっていくよう進言されるも、カヤノの所在の特定を急ぎたいのに加え、奪われたあるモノを取り戻さないといけないからとルビアは丁重に断りを入れた。


「本当に行くのか?」


「ええ。最後の定期便がまだ間に合うそうだから、それに乗って都心部に行くわ」


「行く宛ては?」


「何とかするわよ。子供じゃないんだから」


「たくましいんだな。それならお大事にってことで。最後に一つ訊いてもいいか?」


「何かしら?」


「気になってたんだけど。その取られたものって何なんだ? そんなに大袈裟なものなのか?」


「ええ。放っておいたら世界の縮図は変わり、すぐにでも人間社会は滅びるわ」


 さらりと言い放つルビア。


 この時点ではまだそれが冗談半分くらいにしか聞こえていなかった。


「何かの比喩か?」


「じゃあね。いつかこの体操服と一緒に借りを返しに来るわ」


 その言葉を最後に診療所を後にしたルビアは、船着場へと向かい歩き出す。


 本日最後の患者ということもあり、入院中のものもいないため、診療所はそこで消灯された。真中は自室でヒロに向けてメッセージを送り、梗吾はキッチンの片付けをしていた。そこへ、急患用のチャイムが鳴る。


「どうかされましたか?」


 取り急ぎ診療所のドアを開けて伺う梗吾。


「てっきり偽名でも使ってるものと思って探しまくってたら、まさか本名でお医者さんごっこしてるなんて。しかも子連れで。驚くなってほうがムリ」

 

 立っていたのは梗吾を追って日本に入国した聖堂騎士団第八騎士団騎士団長、日護(ひご)リツカだった。


「同行願えますよね、第六騎士団騎士団長、天動梗吾さん」


 梗吾の表情が曇る。と、瞬時に虚空を握りしめる動作に移った。


「ーー!」


 わずかコンマ1、2秒か。反応は遅れ、聖剣を発現するのに時間差が生じた。


「っ!?」


 リツカの右上腕は刎ねられ、宙を舞う。それから聖剣が地に落ちた。


「君の発言には誤りが二つある。一つはごっこではない。国家試験を通った上で二年間の臨床研修も受け医者になったんだ。医師免許も取得している。それからもう一つ。天動梗吾というのは僕の本名ではないよ。諜報部門を司る第八騎士団でも知らなかったのかな」


 梗吾の持つ聖剣の刀身が煌々と光輝く。


「何、それ……」


(ことごと)く無知をひけらかすのだね。これは元々の聖剣を僕なりにアレンジしたものだよ。原理は単純。魔力を刀身に流すよりも、魔力そのもので刀身を創り出した。これなら常時有り余る魔力を解放状態にできる。分かりやすいのが切断面だ。君の右腕の斬り口を見てごらん。焼け焦げているだろう。出血もなく痛みもないはずだ。もっといえばこれは斬る刀剣にあらず、魔力をもってして溶断する、レーザーカッターに近い僕の改造聖剣さ」


「そんな余裕綽々で解説してるあたり、私って舐められてる?」


「聖堂騎士団の階級を示す番号の若さが実力と比例するのは知っての通りだ。一から八までしかない騎士団の中でも君は最底辺の八。今の僕は六。これは余裕ではなく、格の差さ」


「私共々証拠を隠滅するつもりならざーんねん。総騎士長経由で〝教会〟には提出、共有済みだから。どうやったってもう逃げられない」


「逃げる? 誰から? 僕は真っ向から戦うつもりでいるのだけれど」


「それ、本気で言ってる?」


「無論だ。その証拠にほら、僕が欲しかったものがそっちからやって来てくれた」


 リツカの左手にある、手錠で繋がれたジュラルミンケースを梗吾は見た。


「狙いは、吸血王の心臓……」


 ここで初めてリツカの額に冷や汗が滲んだ。


「ご名答。僕の連行を急ぐがあまり、持ち歩いてしまったのが君の失策だ。白雪伽耶乃の襲撃を警戒しての行動だろうけれど、浅慮(せんりょ)だったね」


「『どこまで知ってんのよ……こいつ』」


 魔力の塊でもある刀身を振い、鍵を溶かし斬った。


「さぁ、ご対面だ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ