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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第六章

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第六章「シェア・ザ・ダークネス」#4

「要約すると、ジャックとか言う騎士団長が作った結界の中で稽古をつけてもらってるのね。まぁ、アニメや漫画で主人公が修行して強くなるシーンは数あるけれど、どれも冗長気味になるのが苦しい所よね。思うに真に命のやりとりがないからかもしれないわ! どこか何とかなるだろうって。やっぱり流れる滝の水を切らせたり、ジープで追いかけ回すぐらいしないと!」

「君は比嘉辻銀音(ヘックス)を知らな過ぎる」

六角形(ヘックス)?」

「彼女は人の命に塵程の重みも感じない魔女だ。吸血体となれば尚更。スペックも底が知れない以上、真中が完全転化を果たしても互角か或いは」

「そんなこと早く言いなさいよ!」


 それを聞いて大慌てで感応に入るルビア。


「具体策はあるのかい? 闇雲に飛び込んでいっても逆に取り込まれてしまう危険性も存る。精神状態だけは外部からは読み取れないからね」

「意識の海で溺れてる真中を引き上げて、二人で肉体の手綱を握り直すのよ!」

「それから?」

「実体験で学び得た転化をコントロールする術をわたしが直接教える! それでその魔女とやらを倒すわ!」

「部分転化も完全転化もモノにしている今のルビア君は適任だろうね。ならばここは一任して僕は僕で騎士団長としての最後の仕事をしてくるとしようか」


ーー*ーー


 結界術を展開後、術者であるジャックはその場を動けずにいた。内部の様子を探りつつ、魔力供給は決して絶やさない。


「『随分と派手にやってくれるな。若い頃に住んでいたシカゴを再現したワケだが、今思えば街一つ分作っておいて正解だった。冗談抜きでこの大聖堂諸共、ヴァチカン、ローマ一帯は消し飛ぶところだった』」


 ジャックは騎士団長の中で最も魔力保有量が高く、門崎将子のスカウトに応じた時から既に抜きん出ており、それらを最大限に活かすべく常時魔力を消費し続ける結界術式を会得し、昇華させた。

 結果として銀音が加減なく縦横無尽に動ける程の環境を作り出せるまでに成った。


「『日本の学生が吸血王の心臓を受け継いだと聞いた時はさほど危機感を覚えなかったが、なるほど。彼女に聖剣を抜かせたか。完全転化とは飛躍的に身体機能を向上させるだけに止まらず、環境への適応能力に伴う形態変化に加えて、外敵から身を守る特殊な攻撃法まで身につける進化と定義すべき事象。これでやっと対等か』」


 どちらかに加担するわけでもなく、(もたら)される結末を腕組みしてじっと待つジャック。そこへ手の甲に痣に似た紋様が浮かび上がる。


「『禍紡紋(かほうもん)の出現は夜の眷属の侵入を赦した証。大聖堂に異常はなかった。なら一体どこから……』」

「ラッキ! そのネクタイ。あんた騎士団長でしょ」


 声のする方へ視線を向けると、騎士団員の死体を引き摺り歩く信徒の姿があった。地面には大量の血痕。正装すらも血に塗れたその女は、上機嫌で謳うように語り出す。


「こんな雑魚集めて本気であたしら潰そうとしてるなら、死人が増えるだけって忠告しといたげる。10年前とは何もかもが違うんだって。あたしらの上には十眷王も居るし、アンシェル様に伽耶乃様。そして砂夜様が居る。お手を煩わせる必要もなく、あたしら夜の眷属で障害はぜーんぶこんな風に片付けちゃえばいい。そう難しいコトじゃなさそうだもんね」

「俺に出逢ったことをお前はラッキーではなく運の尽きと後悔するべきだな、よく喋るお嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんーじゃなくて夜の眷属(シュバリエ・オプスキュリテ)、リリー・エルレット」

「口振りから察するに道中、騎士団長とは出会さなかった様だな」

「だったら何? 所詮魔術師だって人の子。ワタシからすればどいつもこいつも変わんないから」


 執拗に甚振(いたぶ)られ殺された団員の姿を見て再び視線を戻す。


「ああ、コレのこと? 戦時中は人間同士もバンバン殺し合ってたんでしょ? よくは知んないケド。アタシたち吸血体と何が違うって話」


 息絶えた団員を乱雑に放り投げ、依然として軽口を叩く彼女に対しジャックの纏う空気が一変する。表情は曇り鋭い眼光で彼女を睨みつけた。


「お前は真に人を殺す苦さを知らない」


 その圧にリリーは一瞬でも萎縮してしまうのだった。


「……なーんか地雷踏んだカンジ?」

「本当の戦争はこうして会話する余裕すらないもんだ。お互い名乗ることもなく銃口を向け照準を合わせ引き金を引く。そこに英雄はいない。有るのは殺して、殺されての死体だけ。平等に築かれていく果てのない地獄も知らず、盲目的に人の命を軽々しく奪うお前達を俺は軽蔑し、この手で叩き潰してやると決めた。二度と思い上がらぬように」


 ジャックが聖剣を握る動作に移る。


「吸血体が死なずで何よりだ。理由はどうであれ、もう人は殺さないと誓いを立てて俺は魔術師になった。封殺してしまえば(まか)り間違っても殺すことはないからな」

「御託はいいってば。もしかして、もうワタシを斬った気でいる?」

「いや、俺は剣術など習っちゃいない。ただ唯一得意の結界術でその骨身ごと()して破壊するだけさ」


 顕現する両刃を持った大剣。それはジャックの身の丈程もある特殊な聖剣だった。


「その態度が舐めてるって言ってんのよっ! 転化・可惜夜月(あたらよづき)

詠唱誓約特許掟項(マギアコード)・ホロウキューブ」


 二枚重ねの巨大な円盤を出現させるリリー。太い血管を巻いてヨーヨーと同じ要領で回転を加えながらジャックに投擲した。


「この盤の側面をよーく見てみなさい。小さな三角の刃が付いてるでしょ? 例えるならこれは10万キロメートルまで届くチェーンソー。100階層のビルだって真っ二つにしてやれ……」


 ガキンッーーーー。


「?」


 鈍い金属音が鳴り渡る。と同時に高速回転する円盤はジャックより1メートル手前で弾かれた。


「何で……」


 しかし視界は開けており、リリーが凝視しても遮蔽物の類は一切見当たらない。


「マギアコードという言葉を発しただろう? あれは先人達が編み出し、特許を申請。魔術省で管理されている術式を特例として使用させて貰うといった意味合いがこもっている」

「だから?」

「自らがこの世に生み出し、詠唱破棄を許されたものなら兎も角。俺は術式の使用を前もって口にした。その時点で警戒すべきだと言ってる」

「警戒する程のものか今、この目で見定めてあげるわよ……っ!?」


 立て直すリリーは二投目の為に一度距離を取ろうと、跳躍するも背中が思い切り何かにぶつかった。


「また見えない。でも何かある……前後に何か」

「結界術の基本のキ。ピグミーキューブは許可した自身含めた最大二人を閉じ込めておく限定魔術。ホロウキューブは魔力障壁によって任意のエリアを区切り、定めて閉じ込めておく範囲魔術。俺は今、お前の心臓を起点に半径10メートルを区切って前後左右上下に壁を作った」

「余裕の種明かしってワケ? 上等。こんな壁、ぶち壊してやればいいだけ!」


 振りかぶる右腕が衝突する。魔術師ではないリリーには変わらず見えていないものの、それが意味する所は理解していた。背後に聳え立つ壁がこちらへと迫って来ている。


「まさかさっきの〝圧して破壊する〟って……」

「六方向からの障壁は掌に収まる程度まで収縮を続ける。俺はただお前の詰まった箱を持って帰れば良い」

「…………」


 地面より迫り上がる足元。低くなる天井。挟まれていく肉体。

 自分の敗北よりも、これから起こる惨劇を想像して途端に恐怖するリリー。


「何で壊れないの! 早く割れなさいよ! こんのクソがぁっ!」


 迫る見えない壁に何度も繰り返し刃を突き立てるも、傷一つすら付かない。


「安心しろ。この術式程度で吸血体が死ぬことは無い。ただ呼吸も思考も出来ない小さな箱になってこの世に残り続けるんだ。いずれ俺も報いを受ける。地獄に堕ちる身ではいるが、まだ死ねた方がマシだと思うのは俺だけだろうか」


 身体が物凄い強さで圧迫される。肋骨は全て折れた上、内臓もトマトの様に潰れ、顔面も音を立てて歪んでいった。リリーは充血して真っ赤になった両眼で乞う。


「嫌、嫌よ! 誰か! 誰か助け………………」


 やがてジャックの足元に、カランと音を立てて赤黒い肉塊が詰まったガラスケースにも似た立方体が転がった。


「怨みごとなら全部引き受けてやる。いつか死んだら晴らしに来い」


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