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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第六章

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第六章「シェア・ザ・ダークネス」#2

 ざらついた兄の魔力の波長を感じ取った蒼生は言葉を呑んだ。


「どうかしたのか、京蒼生」

「兄さんが完全転化したみたいです」

「かなり追い詰められた状況にあるのか」

「今はまだ何とも。私たちはルビアさんを探しましょう。まだ遠くへは行っていないでしょうから」

「僕らのやるべきことはそうだな」

「は……やく……」

「?」


 息も絶え絶えな振り絞った声が背後から聞こえた。


「逃げ……て……蒼…………」


 てらてらとした槍状に研ぎ澄まされた奇形なる刃に穿たれ、上下左右揺り動くクーリエの姿があった。

 (はらわた)から20cm程突き抜ける突起物は赤黒く、やがて明滅を繰り返しながらクーリエの胴体部を真っ二つにした。

 撒き散らされる未だ生温かい臓物と鮮血。半分に分たれる身体の隙間よりその正体が明らかとなる。


「この手応えのなさは副団長かそれ以下だな。ゴミもゴミじゃねぇか。こっちは騎士団長と殺り合いてぇのによ!」

詠唱誓約特許掟項(マギアコード)・プライムアワーレイズシフト!!」


 即断の術式詠唱。直後に蒼生は瀕死状態のクーリエを介抱していた。


「僕らのやるべきことはそうだ……な……」


 そこでアルは一つの違和感を覚えた。同じ科白を何秒か前に既に発した記憶が僅かに存在する、と。加えて蒼生が大量の発汗に見舞われていた。


「ああ? なんでテメェがオレの自慢のスピアで串刺しにしてやったガキなんか抱えてやがる。オレの間合いにいつの間に入りやがった」

NRN(ノーリプライニーデッド)。答える必要の無い問いです。そういう貴方こそ、その身なり」

「こいつか? この一張羅に見覚えねぇワケがねぇだろ」


 白のフーデットコートに、胸に飾り付けられた三日月を二つ重ねた記章。それは聖堂騎士団の怨敵以外の何ものでもなかった。


夜の眷属(シュバリエ・オプスキュリテ)、リーガン・ベックバレットだ。主に脱会者の口封じと、不都合を書き立てるジャーナリストの監視を担当してる」

「聖堂騎士団第六騎士団副団長、京蒼生。これから斬り伏せられる相手の名前くらいは知っておきたいはずでしょうから」

「冷静にカチンときてんのが分かるぜ。仲間だもんな、そいつ。だが訊いてるのはこのオレだ。テメェがさっき何をしたのか。もう一度試せば理解出来るかもなぁ!」


 ガキンッーー鋭い金属音が空気を震わせる。


「何だ? テメェ」


 穿ち放たれる剣先の如きスピアを受け止める血術にて形象化された大鎌。


ローマ(ここ)へ連れて来られた時分より良い所なしなんでね。君を倒して挽回させて貰うとする」

「その刃の形。死神か?」

「いや、ただの人造人間だ」


 後背より生える尻尾にも似た器官をしならせ、勢いをつけて先端部のスピアを射出する。

 アルは構え直し、蒼生の盾になるよう打ち払っていった。


「京蒼生! 巻き添えを喰らいたくなければ彼女を連れて離れていろ!」

「今はその言葉に甘えておきます。くれぐれも深追いはしないでください」


 クーリエの治療に専念させるべく蒼生を戦線より遠ざける。リーガンは変わらず不敵な笑みを浮かべながら、この状況を楽しんでいるようだった。


「このスピードに追いついて来れんのか。いいぜこの感じ、普通じゃねぇ人間を相手すんのはよぉ」

「人殺しは狩猟感覚か。お前の様な卑劣漢を飼っているなど、藤澤砂夜も程度が知れるな」

「砂夜様は何でも与えてくれた。力も権力も地位も。そして何にでも寛容だ。鏖殺(おうさつ)も拷問も食人も。だが俺は現状に満足しちゃいない。ハルモニアシィアにも階級があってな。目指すべきは十眷王(シュバリエ・カタストロフ)。この世の10分の1を手に入れるのさ」

「お前の目的など興味はない」

「そうか? オレは俄然テメェに興味が出てきた所だぜ。どこまでやれるかってな!」


 連続して強烈な突きを繰り出すリーガン。

 アルが対抗策として流身送血にて身体能力の向上を図る。

 大鎌の刃で弾き返していくものの、その戦闘の最中とある変化に気付く。


「『初撃と明らかに受けた感触が違う……まさか、背面から生えているあのリーチを一撃毎に調節しながら撃ち込んでいるのか』」

「気が付いたかよ。オレのテイルは延長すればする程しなりは大きくなり、射抜く速度も増していく」


 スピア有するテイルの長さを最大にした刺突を受けきれずのけ反ってしまうアル。


「『しまっ……』」

「なんだ、こんなモンで終いか」


 伸縮の速度はここで止めを刺すかのように加速し、アルの胸部に先端が突き立てられた。


「?」


 渾身の刺突が硬い皮膚に阻まれ通らない。


「この隙はお前が作り出したものだとでも? 思い違いも甚だしいな。シルフィムには総じてデモニック・エルという防御法が存在する。そして待ちかねた隙がやっとお前に生まれたぞ」

「っ……!」


 アルが大きく踏み込み、根本近くからスピアを斬り落とす。


「お前が無駄骨を折らない為にも説明しておくと、超速再生出来ないよう切断面を血で凝固させておいた。これでも吸血体と戦うのは二度目なんでね」

「わざと最長のリーチで撃ち込ませるよう誘導したな」

「手の内はとっておくのが戦闘の基本だ。お喋りはあまり得意でもないが」

「奇遇だな。実はオレもそうなんだ」

「?」


 余裕綽々といった態度に疑問を持つも、その答えが今明らかになっていく。


「部分転化ーーまぁ3割ってトコか」


 そう一人独ちると、リーガンは後背より四つのスピアを備えた四本のテイルを新たに生やした。


「どこまで痛めつけたら死ぬんだ? 人造人間ってのは」


 一斉に向かって来るテイルは各々に意思でもあるかのよう、個々に動きを見せアルを翻弄した。

 やがて回避行動と鎌術での応戦だけでは対処しきれなくなり、デモニック・エルを常時展開し続けていないと防ぎきれない所まで追い詰められていった。


「『これで3割だと……しかも部分転化と言った以上、奴はそれより上の完全転化を残しているとみて間違いない』」

「達者なのは口だけか? まだまだ手はあるんだろ? 見せてくれよ、じゃねぇとマジで殺すぞ」

「そうだな護りに徹しているだけでは勝機は無い……打つとする。その奥の手ってやつを」


 流身送血を全開にし血液を回す。一本のテイルを切断。もう一本のテイルが頬を掠める。残る二本が迫るタイミングを見計らった上で攻撃の魔力回路に転換。五指を狙い定めて一気に弾く。


「っ……!?」


 アンリーシュ・アールの魔力の波状攻撃によって散り散りに向くスピア。

 アルは大鎌の刃に血流を纏わせながら回転を加えて巨大な渦を作り始める。

 精密動作性には欠けるものの、攻撃範囲が広く致命傷を与え得る大技。血液の消費量が多い為、多用は出来ないものの、威力だけで言えば今までの血術とは比較にならないものだった。

 真紅の逆巻く血流の塊を一気に叩き込む。


「見様見真似、ルビア式・紅渦花!!」


 ただ紅に飲み込まれていくリーガンの肉体を血流が圧砕していく。


「奪う側は大抵が自分優位でしか物事を捉えきれない。その傲岸不遜がお前の敗因だ、リーガン・ベックバレット。もう聞こえてもいないだろうがな」


 流身送血も解け、大鎌も血液に戻る。その時だった。


「ちっ、仕方……ねぇ……」

「何だ」


 回転を続けていた血液の渦は一斉に飛散し、中から黒光りする外殻と白い骨格が浮き出た様な体表を持ち合わせ、流線型の半透明なバイザーで顔を覆われた異形が顕現した。


「その姿……」

「こいつがオレの完全転化。神樂夜守(かぐらやもり)ーー」

「!!?」


 地面にスピアを突き立て高速移動し、アルに急接近する完全転化を果たしたリーガン。即座にデモニック・エルを展開するも、二本のスピアが身体硬度を超えて左肩と右脇腹を穿つ。


「ぐっっ……自らの速すぎる体感に身体がついていけてないのか、擬似霊核だけは逸れたぞ……」


 致命傷に至っていないことで超速再生に転じるアルだったが、リーガンがテイルを引き抜くと、発光するスピアだけが刺さったまま取り残された。


「なぜオレのスピアの先が点滅してるか分かるか? これは危険信号なんだよ。これからテメェを吹っ飛ばすってな」

「まさか」


 点滅が加速、そしてーー。


「砂夜様に与えられた能力の真髄。それなりに楽しめたぜ。人造人間」


 轟く爆音。発火を伴う衝撃にアルの身体は木っ端微塵に飛び散った。


「プライムアワーレイズシフト!!!!」


 アルが爆散した現時点より5秒前に時は遡る。


「ホワイトグレースーー凍て付け、氷結界(ひょうけっかい)!」


 すかさずの二重詠唱。起爆以前のスピアが突き刺さった状態でアルを凍結させることに成功する蒼生。スピアの爆破機能も停止させたそこで先の術式効果が切れる。

 二度の大掛かりな術式の使用に蒼生の霊核は悲鳴をあげた。黎剣があって尚魔力消費は想像以上に大きく、動悸は激しくなり心拍数も跳ね上がる。が、アルが死すべき未来は今ゼロへと立ち戻った。


「人間が行動を起こした時、必ず何かしらの痕跡が残るってな。殺したと思ったこいつが何故か氷漬けにされてるってのは、あのレイズシフトとかいう術、時間を巻き戻せるのに加えて時間の中を速く動ける、そんな類の(まじな)いで間違いねぇな? 副団長さんよぉ」


 返答に及ばず。無言にて黎剣を構える蒼生は既に次の手を思案していた。


「一つ訊きてぇ。術を掛けた本人であるテメェが死ねば、術も解けるのか?」

「現在進行形で発動しているものはそうなります。こちらからも一つ良いですか?」

「答えて貰った分構わねぇよ」

「貴方が封殺されれば転化後に付与された能力はどうなりますか?」

「オレに限った話じゃねぇが、解除されるな。無効化される。ある程度知ってて狙ったんだろ? テメェがオレに勝てばこの人造人間は助かる。が、オレに負ければ二人揃ってあの世行きが確定する。テメェの力量次第でやり直せるってワケだ」


 蒼生が死す時、アルにかけたホワイトグレースの氷は解けて一度目の過去通りになってしまう。逆も然り。リーガンが封殺された場合、転化能力は消えてアルの運命は変わる。

 魔力も無尽蔵ではないし、時間操作の連続使用は自らを結界化する術式である以上、肉体の方が追いつかない。まさに背水の陣。アルの命を賭けた、後のない一戦と言えた。


「それが聞けただけで充分です。未だ名も無き可能性に輪郭を与えて現実世界へと繋げるのが魔術師の役目ならば、私はこの12年間で得た魔術の叡智全てを以ってして貴方を斬る」

「まだガキだと思ってたが存外、肝が座ってやがる。騎士団長殺しの前座にしては悪くねぇ。宣言通り全身全霊で掛かって来い。オレも完全転化は解かねぇでやるからよぉ」


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