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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第五章

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第五章「ジャッジメンター」#7

「甘い考えが手に取るようにはっきりと分かったわ。甘過ぎて胃もたれしそう。今度は上手く鬼から逃げないと、またとって喰われるわよ」

「……っ!!」


 飛び起きた真中の呼吸は酷く浅く荒かった。


「何だ今の……どうなったんだ……?」


 記憶に混乱が見られる上に厭な感覚が全身に渡って染み付いていた。生来的な恐怖観念に囚われたのか身震いを覚える。あの日置き去りにして来た死の観念が両の震える掌の中にあった。


「実感がある。さっきまで死んでた。それも肉片にされたか、それすらも残らないような殺され方……」


 ベッドから裸の上体を起こす。先までの空間とは全く異なる、高度な医療器具の揃った個室をあてがわれていた。

 窓があって夜景が一望出来る。ネオン街の光が眠らぬ夜の訪れを告げていた。


「時間の感覚も分からない。ここも何処なんだ?」


 病室を抜けてエレベーターで降る。その間もずっと思考を巡らせていた。


「一撃かそこらで上半身が吹っ飛んだ。だから上だけ服がない。これなら説明がつく。あとここには人の気配がしない。あいつの隣にもう一人居たな。あの男の魔術か……」


 一階の中央エントランスに出た辺りで耳をつんざくサイレンが響き渡り、眩いばかりのヘッドライトが真中へと焚かれた。

 目が眩む中、救急車両が猛スピードでガラス張りの正面玄関を突き破って来た。

 間一髪、素早く身を翻し回避するも運転手らしき人物は見当たらない。


「何なんだ……」


 またもやクラクション一つして突撃を果たす車両。それも一台や二台ではなく、数十台が次々に真中目掛けて放り込まれていった。


「『1台数トンクラスに轢かれればグシャリだが、幸い動きは直線的で読み易い。それに弾も無限じゃなさそうだしな』」


 弾丸と形容した救急車両のストックもなくなり、夜闇を照らす明かりも落ち着きを見せる。が、そんなものを優に超える巨影が露わになっていった。

 米シカゴを走る8両編成の地下鉄、通称シカゴ・L。ステンレス製二扉の無骨な佇まい。加えて半壊した車両の山で周りを取り囲まれ、行動範囲も狭められていることに気が付いた。


「『そっちがメインか……それよりも誘い込まれて……』」


 鉄塊に手をつく銀音は一つ笑みを浮かべながら、まるでショッピングカートでも転がすかの様に真中目掛けて滑らせていった。


「やっぱりかよ……!」


 遮蔽物を薙ぎ倒し地響きを立て、時速100km近い速度を有しながら先頭車輌が突っ込んで来る。


「『幸い此処は天井が高い。流身送血で跳躍すれば……いや、爆発炎上でもすれば防ぎきれない。そもそも逃げ手に回ってるだけなら遅かれ早かれまた殺されるのが落ちだ。なら』」


 回避行動を止めた真中は集中して劣勢を覆す策を練った。


「ルビアが一番最初に見せた技……」


 右掌をガラス片で斬り、出血させた上で手前に翳すと赤黒い渦が出来上がった。やがてそれを掴むと槍状に変化し、固着。


「穿て、槍血ーー!!」


 真中が投擲すると血気が二重の螺旋を描き、轍を作りながら一直線状に駆け抜けた。

 車体を貫いていく血の槍。一両毎に風穴を空けていき、勢いは衰えることを知らぬままに、いよいよ最後の車両を貫通し、真紅の一閃が銀音を捉えた。

 しかし、あろうことか渾身の血槍は片手で事もなげに受け止められ砕かれる。


「反抗的な態度は素敵よ。そっちの方がアレを引き出せるもの」


 同時に銀音の姿も消える。集中力を高めつつ必死で索敵する真中。


鈍間(のろま)は何処を向いているのかしら?」


 仰ぎ見ると銀音は華麗なる宙返りを披露していた。


「『まずい、また後手に……』」


 本体を軸として、しなやかに回転する左脚の爪先から波動エネルギーを溜めた衝撃波が迸る。

 腕を交わし、翼も広げて自身を包み、出来得る限りの防御策を取るも、敢え無く吹き飛ばされてしまう。

 その間に回り込んでいた銀音が右腕を引き絞る。


「身体ごと消し飛ばすには充分な威力だったのに、憎らしい程の幸運ね。でも二度は無い」

 

 既に腕が転化の兆候から黒く変色していたのを察知した銀音は、転化を焚き付けるように攻撃を重ねていく。

 そんな自身の変化に気付く余裕もない真中は、殺気立つ拳を回避すべく、生やした左翼で身を強く包み、もう一方の右翼を目一杯に広げて空気抵抗を最大にした。

 拳が触れるかどうかの間際で左翼を広げ弾く。放たれた突きは身体のギリギリをすり抜けていった。

 拳圧で崩壊するエントランス。窓硝子は粉々に割れ落ち、地面は抉れ、建物自体が振動。まもなく上層階が大粒に破砕された瓦礫となって降り注いだ。

 巻き添えを喰らう前に外へ流れ出る真中。


「『両腕の転化……これがなかったら初撃で今頃は顔面ごと削り取られてた。あんなのも魔術だって言うなら何でもありだな』」


 逃げ手に使用した両翼は潰され、転化した腕にすらも痺れが走る。


「『今まで戦ってきた相手とは明らかに格が違う。小手先だけの血術も効果がまるで無い。転化するしかないのか……』」

「そろそろ。貴方の本気が見てみたいのだけど」

「っ!?」


 咄嗟に顔を逸らす真中の鼻先を掠める銀音から繰り出された手刀。

 距離を置く暇すら与えられず近接戦に持ち込まれた。

 流身送血と部分転化して強化された拳をカウンターとして放つも、片手で払われてしまう。一分の隙もない構えから絶えず追撃するものの、全てが軽くいなされ空振りに終わる。


「『こっちはシームレスに打ち続けてるってのに何で一撃も当たらないんだよ……』」

「今思ってるだろう疑問の種明かしをしてあげましょうか?」

「っ!?」


 その上で喋りかける余裕すら銀音にはあった。


「筋肉の縮小音や、骨の軋み、挙動、瞳孔、全ての要素から予測を立てて、先読みする。将子さんはこの能力を〝未来感知〟と呼称した。だから分かるのよ、貴方のこれから起こす行動の全て」


 今まで会得してきた徒手空拳で猛攻をしかけるも、悉くはたき落とされ銀音本体には届かない。挙句には胸倉を掴まれる始末。思い切り引き寄せられて頭突きを受け、頭蓋が陥没し、脳組織の一部が飛び散る。そんな真中の耳元で囁かれる煽り。


「もう一つ上のレベルがあるんでしょ?」


 いよいよ鳩尾を蹴られ、通り向かいのガンショップに突っ込んでいった。


「がはっ……っ!!」


 痛みはなくとも再生が間に合っておらず、呼吸をするのがやっとの状態が続く。防衛本能なのか真中の意に反して両腕の血は凝固し、黒い籠手の様な外殻を形成していた。


「『奴には決まった型がない。全部が力任せな押し切りの攻撃だ。そんな大味な戦術も能力で上手くカバーしてやがる。さっきの説明もブラフじゃないなら格闘戦は分が悪い。でも裏を返せば同等の力、転化して隙を作って一撃必殺の血術に持ち込めれば可能性はある。真っ向勝負の力比べ……それも転化さえすれば……か』」


 脳裏に浮かぶ自分が自分に殺されそうになる感覚。初めての転化の経験が二の足を踏ませる。


「思い出せ。俺の背中にはルビアが居る。アルが居る。蒼生が居る。それにカントクとライタ先輩、ヒロにも何も言わずここに居る。負ければ何も残らない。こんなところで折れてたらあの日常には戻れない!」


 飛び出しこちらから仕掛ける真中。転化での強化を図って放つ打撃。銀音の拳と正面からぶつかるも纏った血は右腕ごと飛散。しかし臆する事なく超速再生させた右拳を再び見舞う。

 再生能力を活かした一撃に仰け反る銀音。生まれた隙を真中はずっと待っていた。素早く右手人差し指と中指を立てる。


「仕留めろ血獣・赫龍皇王!!!!」


 銀音の足元から滲み出た血液の塊が龍の形象を得て顕現する。顎で銀音の身を裂きながら天高く舞い上がった。

 手掌で方向を高層ビルに定めて衝突させる。粉塵を撒き散らし、次々と倒壊するビルを背にして、遂には地面へと叩き伏せた。

 霧散した鮮血の瘴気が晴れていく。


「終わった……」


 見ると銀音の上半身、右胸部から上は鋸歯状に噛み千切られた生々しい傷痕が残っており、てらてらとした筋質や砕かれた胸骨が露出していた。


「転化もしてない状態で私に傷を付けるとか……生意気」

「嘘だろ……あれを出してまだ倒せないのか……」


 ここに来て最大のダメージを与えることに成功するも、真中は血を一気に使い過ぎた反動で疲労感が訪れ、次の行動に直ぐには移れなかった。

 その間にも銀音の欠損した肉体は徐々に再生を果たし、新しく生え変わった人差し指で真中の心臓部を弾いた。

 バンッ! と音を立てると、直径30センチメートル程の穴が空き、真中は両膝を折った。


「二度目はよく喰らい付いて来たって感じかしら。まぁ、転化する気がないならもう興味は無いわ。着替えを取り行かないと。誰にも見られてないとは言え、さすがに裸じゃあ彷徨(うろつ)けないし。ジャックに上着だけでも借りて後処理もついでに任せ……」


 肉体は持ち直すも、着ていたスーツまでは用意出来ず。一度結界から出ようと踵を返した時、事態は起こった。

 空けられた真中の穴から光輪が出現し、流れ出るどろっとした血液もまた黒く変色を遂げながら真中を包み込んだ

 むくっと起き上がるや否や結界中にその獣の威嚇にも似た雄叫びが轟いた。

 猛り狂う真中の様子に立ち止まり、振り向く銀音が微笑う。


「アレが天動真中の完全転化。眷属が持つ奥の手」


 両眼にあたる真紅の妖光が銀音を睨み付ける。


「良い顔付きになったんじゃない? そっちの方がタイプよ」



ーー*ーー



 同時刻、真中達が先刻まで監禁されていた第四神殿監獄廻廊。普段使いされることもなく、灯りも手入れも行き届いていない雑居房に五つの一際濃い影が蠢く。じっと息を殺し、気配を消してきた彼らが目に見えない指令を受け取った。


「砂夜様の御導きだ」


 同胞が頷き続く。


「にしても面白いシチュエーションになってんな。警戒すべき吸血王は行方知れず。その後継者は丁度第三騎士団長の怪物、比嘉辻銀音と交戦中。副団長は一人を除いて戦闘不能。完全に追い風になってやがる」

「油断するに至るにはまだ程遠いかと。騎士団長の力量は我々、夜の眷属(シュバリエオプスキュリテ)と同格。それらがまだ四人健在とあらば然り」

「だからじゃねぇか。こっちは五人。雑兵なんざ頭数に入れる価値もねぇゴミだ。結論その四人さえブチ殺せば戦争するまでもねぇ。俺達の勝ちは揺るぎようのねぇものになる」

「はぁ? アンタちゃんと聞いてた? アタシ達に与えられた役割を理解してる発言じゃないんですケド」

「両方こなしゃいいだけの話じゃねぇか。十眷王(シュバリエカタストロフ)になるにはそれぐらい出来て当然だと認められる必要がある。チャンスを放棄するなら構やしねぇ。その空くだろうテメェの穴はオレが埋めてやっからよ!」

「間違ってもアンタに代役は務まらない。アンタみたいな脳筋が真っ先に殺されんのが王道の筋書きってものだからよ」

「何もオレが殺る一人目が聖堂騎士団の連中である必要なんてねぇんだぜ!」


 まぁまぁと、感情的になる二人を(いさ)めに入る。


「頭に血をのぼせ過ぎだって。優先すべきは砂夜様の為に何が成せるか、だろ? そうすりゃ自ずと成果として評価されるさ」

「…………」

「チッ」

「難しいことは頼まれちゃいない。要は例の在り方である座標(・・)だ。後は死体の山築きながらでも、恐る恐るでもいい。奴らに存在を認知させれば上出来」

「簡単と言ったがテメェは何をすんだ?」

「勿論、総騎士長日護長寿郎を殺すのさ」


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