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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第五章

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第五章「ジャッジメンター」#1

 聖堂騎士団本部地下大聖堂第一神殿の最奥部にその部屋は存在する。ロマネスク調の扉は10メートル以上もあり、精巧なレリーフが装飾されている。

 平時は鍵を掛けられ、立入も禁じられているのだがこの日だけは違った。総騎士長を始めとする騎士団長と副団長全員が召集されていた。副団長は着席する騎士団長の背後に立ち、二つの空席を残したまま臨時会議は斯くして始まった。論点となるのは魔道律(まどうりつ)(そむ)いた天動梗吾の裁定にある。


「なかなかこの面子が揃うこともねぇからよ、始める前に老婆心ながら一言いいかい。結論ありきな処分を言い渡すんじゃあねぇ、有意義な弁論を望む次第だ。意見があるなら所属、階級問わず発言してくれて構わねぇ」


 第一騎士団騎士団長兼総騎士長、日護長寿郎(ひごちょうじゅろう)の卓上には代理石の灰皿が据え置かれており、紙の煙草を懐から取り出すと早々にマッチを擦って火をつけた。


「先だっての議題は第六騎士団騎士団長、天動梗吾の処罰について。総騎士長の仰る通り。あくまで慣例(かんれい)にならうならば死罪前提での話し合いとなりますが、それ以上に興味深い話があるようで。比嘉辻(ひがつじ)騎士団長」


 進行役を務めるのが第二騎士団騎士団長、シルバート・アッシュハーツ。

 手入れの行き届いた腰まである金色の髪に碧眼。併せて虹色の虹彩を持つ世にも珍しい瞳とのオッドアイが特徴的な青年。


「風通しを良くしてあげたのだけど、胸の穴は数時間も経たずに元通り。これは血分けされた眷属が有する超速再生能力に他ならない。ただし藤澤砂夜が彼を眷属にした記録も事実もない。じゃあアレは何時から、一体誰のモノなのか」

「消去法で吸血王ルビア・アンヌマリーの、だろうな。付き合いはなかったがそんな素振りなんて一度もみせなかった。やつらは人間社会にこうも溶け込むものなのか?」


 席を一つ空けて着席する恰幅の良い筋骨隆々の第五騎士団騎士団長、ジャック・コールドストーンが疑問を投じた。


「転化前の立ち居振る舞いは皆一様に至って人間的で見破るのは困難。人事院で確認した経歴も詐称されたものであり、誰一人疑問を持たなかったのも無理はない」

「彼は一連のシルフィムと称するホムンクルスの製造をハルモニアシィア壊滅のためと釈明した。これについて魔術師ではない私からは何もないわ。そちらサイドの意見を聞きたいところね」


 有罪か無罪か。最重要論点はそこにあった。情状酌量の余地があるか否か含めて話は進んでいく。


「どのような事情があろうとも、人に辛うじて出来ることは奪うことではなく〝救う〟ことだけです。魔術師であろうとなかろうと元来、人が人を裁く権利など与えられてはいません」


 初めに意を唱えたのは第七騎士団騎士団長のペリーナ・ペチパンナだった。

 全員が黒のパンツスーツにカラーネクタイという出立ちに反して、一人だけは修道服に身を包んでいた。


「俺も同意見だ。無益な殺生はしたかねぇ。でもなぁシスターペリーナ。無罪放免の裁定を下すってのは、ここにいる全員の誇りを穢すに等しい行いなんだぜ。俺たちが命を懸けられるのは目には見えねぇ、研鑽されてきた歴史に対する敬いがあるからだ。騎士団長がそれを揺るがせにしちまったら忽ち無法地帯になっちまう。その線引きと示範は必要じゃねぇかな」


 長寿郎が身を乗り出し、煙を燻らせながら熱弁する。


「どうだい? ここは二度手合わせしたりっちゃんの意見も聞いてみるってのは。なぁ、りっちゃん」


 そう呼ばれた聖堂騎士団騎士団長最後の一人、日護リツカが立腹しながら反応した。


「公の場でそのあだ名呼びはやめてって! 特に今は騎士団長会議の席。いくら身内でも(わきま)えて下さい!」

「わりぃな。癖ずいちまってんだ。改めて、日護リツカ騎士団長の所見を聞いてもいいかい?」


 もうっ、とだけ小さく吐き出したリツカは、咳払いを一つ挟み再開する。


藤澤砂夜(ふじさわさや)の意識体の生存が確認された以上、信者を無尽蔵に眷属化させ手元に置く、ハルモニアシィアとの戦いは避けられません。だったらここで封殺するよりも有罪にした上で刑期を決めてはいかがでしょうか。それならば猶予が生まれる。彼の用意した策がシルフィムだけとは思えない。その真偽を確かめるべく彼と、天動梗吾ともう一度直接話がしたい。息子である真中君を守るためにも」


 その名が出てきたことで空気が一変した。


「その件なんだがなぁ、リツカ騎士団長……」


 長寿郎の厭な切り出し方にリツカの胸中が騒つく。


「吸血王と天動真中に関しては〝夢幻〟に堕とすよう、事前の指示書を預かってる」


 時間経過もなく、一生何も見えない、何も感じない闇の中に閉じ込め無理矢理生き永らえさせる。そんな無明の地獄を総称して夢幻と名付けていた。


「夢幻に堕とすって……それじゃあ10年前に騎士団長を殺した夜の眷属と同等の禁錮刑(きんこけい)じゃないですか! あの二人は少しボタンを掛け違えただけで日常に充分戻れます! 我々が裁定すべき対象じゃ……」


 そんな折、会議中の扉が開いた。立っているのは緋色の祭服姿の男。全員の視線がそちらへと向かう。その彼こそが教皇と聖堂騎士団のパイプ役ともなる枢機卿の一人。通称、教会の人間だった。


「御気持ちお察しますよ、日護リツカさん。ただルビア女史にしても、天動真中(てんどうまなか)氏にしても生かしておく理由がない。寧ろ危険分子となり得る」

「それはどういう意味でしょう」

「藤澤砂夜の肉体解放が困難になった場合、奴等は十中八九、二人どちらかの身体を欲しがるでしょう。脅威を刈るには芽の早い内が良い。それが我々の下した判断です。無礼を承知で今この場にて合意を頂きたいと思いましてね。ご決断を、各位騎士団長殿」


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