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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第四章

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第四章「バニシングポイント」#4

「この代償は、お高く付きますよ」


「……っ!」


 抱えられた状態でエリシアが急に暴れ始める。やがてばりばりと音を立てて首が180度に(ねじ)れていった。


「この症状……」


 ルビアが顔を覗き込むと、両眼は白く濁り、血管はぶくぶくと腫れ、額や頬に至ってはクレバスのような亀裂まで生じ始めていた。


「まさか伽耶乃!」


「やむ無く利用させて頂きました。貴女を感染させるために」


 ルビアの首筋が発症したエリシアによって噛みつかれる。


 鋭利な犬歯で(えぐ)られ、食いちぎられていく過程で唾液がルビアの体内に侵入。途端に視界が揺れ始めた。


「毒性は弱いものの、その分苦しむ時間が長くなる。また、人間の知覚を鋭敏にさせる効果も持ち合わせているため、痛覚も人並みに戻っております……分かり易く実践して差し上げましょうか」


 右脚を大きく振り上げ、ルビアの脇腹に加減無しの蹴りを入れるカヤノ。


「ゔうっっっっ!!」


 胃液を吐きながらルビアは、身体を(かじ)り続けるエリシアを必死の思いで引き剥がした。


「息も出来ない程に苦しく、涙の雫が落ちる程に惨めですよね。それこそが失って久しい〝痛み〟というものですよ! ほら! ほら!」


 (うずくま)るルビアの小さな身体を、カヤノはこれまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすように延々と蹴り続けた。血術(けつじゅつ)及び転化能力が切れてしまうため、ルビアは意識を保つことに全力を注ぐも、ウイルスによる発熱症状もあらわれ始め、いよいよ血の球を手放した。


「わたくしもまたあの家族ごっこの被害者……いいか、距離感間違いてんじゃねぇよ。訳のわからない、興味のないフィギュアだのグッズだのアニメの内容だの今期のイチオシだのを嬉々(きき)として語られても、んなものしらねぇし、お前の趣味にまでこっちも付き合ってらんねぇんだよぉっ!」


 サンドバッグと化したルビアは血を吐きながらひたすらに踏みつけられていった。力強い一撃に頬骨(ほおぼね)も容赦無く砕かれる。


「世界を変革出来る力を持って産まれておきながら、ただただ社会の枠組みに(とら)われ、法などと言った猿(まが)いの人間が作った矛盾だらけの規律に飼い慣らされて堕ちていく。お前は享受するだけで、何も産み出そうとしない! そんな非生産的なお前が砂夜(さや)様と対等であっていいはずないだろうがぁっ! お前などわたくし以下の惰弱者(だじゃくしゃ)であり、時代性と流行に従順なだけの敗北者なんだよぉっ!」


 カヤノは豹変(ひょうへん)した上で頭蓋を潰さぬよう加減しつつ、靴底を顔面に押し付けた。


「アレを見ろ」


 (かす)む視界の中に映るエリシアの様子がおかしい。体内の血液は沸騰を始め、四肢(しし)臓腑(ぞうふ)が耐え切れず順々に破裂。最後に頭部が打ち上げ花火みたく飛散し、(むご)たらしい最期を迎えた。


「やがてお前もこうなる。心臓部のないお前などわたくしの敵ではなかった。砂夜様の前では魅力も力も理念も遥か遠く及ばず。そのまま今際(いまわ)(きわ)まで全身を(うじ)にでも犯され続けてろよぉっ! 空っぽの王がぁっ!!」


 呼吸はおろか、天地が返る程の眩暈(めまい)で思考すらもままならない。片方の鼓膜(こまく)も破れたのか、カヤノの叫び声は遠くで鳴っている。


「『……孤独の中に見た理想を……押し付けていたのかもしれない……伽耶乃のこと、ちゃんと見てあげられてなかった……ならこんな結末は当然で……』」


 目を(つむ)りいよいよ死期を悟ったルビアだったが、その真横を紅き斬撃が駆け抜けていった。


 カヤノの半身は斬られ、自己再生を図るも傷口の血が固まり叶わない。


「なんだ……なんなんだぁっ、これはあっ!!」


 カヤノが血走った眼を向けると、そこには。


「お前の血が抗体として有効だって証明された今、同じ要領(ようりょう)でルビアも助けられるはずだな」


 完全なる復活を遂げた真中が斬血(ざんけつ)を握りしめ、立ち上がっていた。


「……天動……真中ぁぁっ!!」


「キャラが違い過ぎてビックリだ。芝居なら最高の演技なんだが、本気でルビアを殺そうとしてるなら、俺も容赦はしない」


「何でお前が……」


 アルが紅くこびりついた右手を見て解説に至る。


「やはりルビア・アンヌマリーの精神力、胆力(たんりょく)には目を見張るものがある。感染が分かった時分より奪い取った君の血液を僕の元まで送り込んだんだ。それを天動真中に打ち込め、と指示するまでの余裕はなかったようだが、意図は読めた。僕は覚悟を見たよ。君とは(たもと)を分つってね」


「自分を治せばいいものを変わらず偽善者ぶりやがって」


「見解の相違だな。ルビア・アンヌマリーは君が思うような薄情者ではない。長年側に仕えながらそんな性分すらも気付けずいたのか? 敵であるなら尚更観察不足と言わざるを得ないな」


「揃いも揃って阿呆(あほう)ばかりで(あき)れていたのですよ。ルビアさんが命懸けで作った隙と退路を無碍(むげ)にし、戻って来るなど愚行(ぐこう)としか」


 真中が一歩ずつカヤノに向かって歩き出す。


「あいつを置いて生き延びるって選択肢を選ぶような、小賢(こざか)しい教育は受けてこなかったからな。その点は感謝してる。お前に用はない。早いところ倒して親父の元に行くんだ、俺たちは」


「なるほど。エリシア亡き今、貴方の脈打つ鼓動こそが手土産になりそうです。本来ならば今頃は砂夜様のモノになっていたはず。そもそも貴方ごとき模倣者(もほうしゃ)が持っていていい代物ではないのですよ」


「砂夜? 砂夜って誰だ」


「答えるだけ無駄でしょう。エリシアの身柄を犠牲にした以上、ここで貴方は殺していきます」


 カヤノの背に再び九つの尾が生え、両側の壁面に向かいその太く()えた血芯(けっしん)を差し込んだ。


「『伽耶乃は相当ご立腹と見えるわ。わたしたちの敵ではないわね。いい? 血術のいろはも知らないあなたに手ずから吸血王の戦い方を示してあげるのだから、約束は守って貰うわよ』」


「ルビアの同行を条件に一日身体を貸す、でいいんだな?」


「『ええ。それにわたしも間接的にではあるものの世話になった以上、伽耶乃に挨拶くらいしておかないと無礼というものでしょう?』」


 ルビアの死が再び現実のものになろうとしている中、真中とルビアダークは抗体を持つカヤノの血を死感遮絶(しかんしゃぜつ)にて奪い取るべく戦闘に入った。


「『血増(あわせ)血刎(はね)よーー』」


 収束したルビアの血液で斬血を幾つも作り出すと、真中の背でそれら一つ一つを繋ぎ合わせて放射状に配置していった。


「『もう一人のわたしは己に課した不殺(ころさず)だとかの誓約(せいやく)真摯(しんし)に守り抜いているようだけど、生憎とわたしはそんな夢想家(むそうか)ではなくてよ。最初で最後のさよならをあげるわーー刺し沈め、斬血・日華月輪衝(にっかげつりんしょう)』」


 一斉に射出される斬血。撃ち放した分ほど、新たに作り出され、補充されるそれは無限に近い斬撃の弾幕(だんまく)であった。


(かか)れ、転化・四死伝染凶无螺旋疹(ししでんせんきょうむらせんしん)


 神経を束ねて一本一本迫り来る刃にくくりつけて空中にて静止させるカヤノ。


「そのような精密動作性の欠ける小技を幾ら繰り出そうとも、わたくしの前では無策と同義」


 攻撃を()き止める一部分の神経が突として切断される。ルビアの頭を押さえつけていた太腿(ふともも)に一刀突き刺さった。


「っ……!?」


 反動で体勢は崩れ、靴底が離れた隙をみてアルが横たわるルビアを確保した。


「一撃の威力は弱くとも、視界や思考を散漫(さんまん)にさせる効果はあったようだな。打ち合わせ通りだ」


「人間の模造品が……」


「ルビア・アンヌマリーは取り戻した。思い切りかましてやれ、天動真中!」


「ああ!」


 帰還するアルとルビアを見届けた真中たちは、ルビアの果たせなかった訣別(けつべつ)の一手に打って出る。


 床一面の血液が引いていき、一箇所に集まり始めた。


「『あれは……血術の最大呪法(じゅほう)である血獣(けつじゅう)の予兆!』」


 右腕を前方に(かざ)し、貫手(ぬきて)の構えを取る。


「『血滅(しとめ)よ血獣・王雅千珠麒麟(おうがせんじゅきりん)』」


 真中とルビアダーク二人の詠唱が木霊(こだま)した。


 有翼で四つ脚歩行の龍が形象され、無効化された斬血を喰らいながらカヤノに向かい突進していく。


「力押しでこちらに利がないことはルビアさんとの戦闘で習得済み。ならば相殺(そうさい)ではなく、完全なる防御に徹するのみ」


 神経を幾重にも織り込んで網を作ろうと画策するも、先の斬血が液体に戻り侵食。凝固しカヤノはコントロールを失う。


「『これでは身体に戻せない! 切り離すしか……』」


 カヤノはあるだけの神経を露出させ、ネット状に編み込み、何層もの血芯壁(けっしんへき)を作り出す。


 発現当初こそ馬の数倍程度の大きさと速度しかなかったものが、道中無効化された斬血を突破する度、取り込む形で巨大化を果たし、(ほのお)のような意匠(いしょう)を両翼に与え、二角(にかく)のツノを生やし、突き立てるべく倍々(ばいばい)の速度を得て、進化していった。


「『まともに受けてしまえば最悪の場合、今後戦線には立てなくなります。ならばいっそ第二段階目の転化をここで……』」


 真紅に照り付けるエネルギーの塊が猛スピードで近づいてくる中、カヤノの前にユン・シャオリーが立ちはだかった。


「それは計画まで禁止事項にしていたでしょ。ここはわたしが」


「貴女は……」


「アンリーシュ・アール」


 ユンの魔力放出によって、最大呪法の血獣は僅かに逸れ、背後の壁にぶち当たり氷像のように砕け散った。


「直撃じゃない! なんでユンさんが……」


「『先の戦闘で力技での正攻法はこちらに有利だと踏んだのだけれど』」


 動揺する真中とルビアダーク。ユンがカヤノを(かば)う理由に思い至らない。


「魔術師はみんな体内の霊核(れいかく)から魔力を精製するんだよ。それを使い切って(ようや)く軌道を変更出来たの。さすがは血獣。今ので魔力切れ。この身体とも寂しいけどお別れかな」


 見るとユンの右腕は潰れ、スーツも焼かれてしまい半身が露わになった状態で尚、羞恥心(しゅうちしん)もなく、悠然(ゆうぜん)たる態度を持ってして三人を見()えた。


「ごきげんようお姉様。と、その眷属の皆さん」


 その口調を聞いた途端にルビアダークが、憤怒(ふんど)とも、驚愕ともとれる声色(こわいろ)で呟いた。


「『藤澤(ふじさわ)……砂夜(さや)……』」





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