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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第四章

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第四章「バニシングポイント」#3

 培養槽から同じ偽血(ぎけつ)を投与され、経過観察状態にある兄妹たちを引き上げたシルフィム。仲間の救出が順調なのに反して、アルだけは気を揉んでいた。


「心配なんでしょ? 別行動中の二人のこと」


「工房の造りは把握した。監視の目もここにはないようだ」


「仲間を放っておけないのがお前の性分で長所だろ? 構わず二人の元へ行け、アル」


 気に掛けた様子を見透かしたレイとセオとロンが背中を押す。


「ここまで漂ってくるほどに血の臭いが濃くなってきた。僕ら以外の第三者が少なくとも先行し、天動真中(まなか)に接触したらしい。僕の存在が役に立つかは分からないが、この場は預けて僕は加勢に行こうと思う」


 4人は言葉は交わさずとも顔を見合わせ、再会を誓った。


 ルビアと真中の元へ合流する決意を固め、アルは颯爽と客層に向かう。しかしその道中で違和感を覚え、ふと立ち止まった。


 未だ新しい死体特有の鉄と(うしお)が混ざり合った様な生臭さが鼻をつく。


 乗組員用の船室が並ぶ廊下の電灯はどうしてか切れており、見通しが悪くあったものの視認出来る範囲でも赤血が壁や床に飛び散っていた。


 恐る恐る慎重に前へ進むと数メートル先で何かをつま先で蹴った。


 目を凝らして(ようや)く何らかの衝撃によって脳漿(のうしょう)が溢れでた人間の頭蓋だと分かる。


「これは……」


 惨状の中腹に立つアル。細切れにされた四肢や臓腑が僅かに形を残したまま散乱し、ペンキをぶちまけたかのように行手を真紅に染め上げていた。


「エリシアの私兵だな」


 拳銃を握りしめた誰かしらの腕を掴み上げるも、手首より上はない。


「『だがしかし攻撃方法が全く読めない。戦闘があったにせよなかったにせよ、肉体が中から破裂したようにも取れるこの現象はなんだ?』」


 (いや)な予感がしたアルは、急ぎ二人の元へ向かった。


 床に付着した血や肉片に足を取られながらも廊下を抜けると、三叉路(さんさろ)に突き当たった。正面には頑強な鉄扉(てっぴ)。迷わずレバーを引き、ゆっくりと開ける。先は梗吾の居住区を兼ねた大規模な空の予備工房のようであった。眼下には相対する二人が。


「一度しか言わないわよ、アル。階段(そこ)から一歩たりとも動かないでちょうだい。真中の二の舞になって欲しくないから」


「?」


 ルビアから間隔を空けてその大きな血溜まりは完成されており、真中は中心にて力の全てを抜かれたようにうつ伏せていた。


「天動真中が負けたのか……ルビア・アンヌマリーの心臓と、眷属としての不死性を併せ持つ身として何故、未だ微動だにしない? 負傷箇所など超速再生させれば済む話だろう」


「まんまと術中に()まったのよ。(あお)り耐性ゼロなんだから、まったく」


 ルビアの睨みつける視線の先。顔中腫らし、へたり込むエリシアと、表情一つないメイド姿の彼女が立ち(はば)む。


「真中さんの転化、死感遮絶(しかんしゃぜつ)は強力。ですが、射程範囲に入ってしまうより以前に、身体機能を停止させれば簡単に無力化出来ます。加えて動きの一切を封じておけば万一、ルビアダークに身体を譲渡、支配された場合においても有効です。それにしても、ルビアさんと共に過ごした生活の全てが欺瞞(ぎまん)に満ちた、虚飾(きょしょく)されたものであると侮辱した途端に怒りのまま向かって来た時は驚きましたね。直情型とは存じておりましたが、あそこまで単細胞且つ短絡的とは。何とも(ぎょ)し易い」


 外傷が見当たらないにも関わらず、呼吸すらままならならない様子の真中は、言葉にならない(うめ)き声を吐きつつ、ただ血のプールに沈んでいた。


「転化を解く気はないのね? 伽耶乃(かやの)


「何度も同じ科白を言わせないで下さい。真中さんにはここで永遠に死の苦しみを味わい続けて頂きます」


「そう……それなら、伽耶乃とはこれで訣別(けつべつ)の儀礼とするわ」


 ルビアが右掌を地面に向けながら前方へ突き出す。指先からの流血。今まさに血術を放たんとする構えであり、覚悟の現れでもあった。


「兎角強い言葉を吐く時ほど、心は揺れ、乱れているものです。わたくしへの情を捨て切れなければ、今のルビアさんに勝機など訪れるわけもありません。他人のことをあんたやあいつと形容する貴女が、まだ名前で呼んで下さっている間は、特に」


「そんな嫌味もすぐに言えなくなるわ。血澱(よどめ)よー紅渦花(べにうずか)


 二人の間に渦を伴い巨大な球体として形作られる鮮血。蕾のようにそれは捻りを加えて花開き、散りゆくと共に工房の床は紅く(ひた)されていった。


 血流の回転により、ぐったりと横たわる真中の身体を手繰り寄せたルビアは、そのままアルに託し、一人カヤノを見据えて戦闘態勢に入る。


「いい? 必要以上の接触は避けるのよ」


「心配なのは君の方だ。白雪伽耶乃は家族だったはずだろう。倒せるのか?」


「情が(まさ)ってわたしが加減するとでも言いたいわけ?」


端的(たんてき)に言えばその通りだ。この場において彼女に対抗出来るのは恐らく君しかいない。天動真中の心臓がやつの狙いの一つなら、負けるわけにはいかないんだぞ」


「家族だって、ずっと側に居るものだと信じてきたこの気持ちに、区切りはつけるつもりよ」


 ルビアの表情に一点の曇りもない。が、アルは仲間の結び付きの固さが、時に力となり、時に(かせ)となることも知っていた。


「『気丈に振る舞ってはいるが、100年以上共に過ごしてきた間柄。そう易々と割り切れるわけは……』」


「わたしは心のどこかで伽耶乃のことをまだ信じていたいのかもしれない。でもだからと言ってそんなくだらないエゴのために、真中を見捨てて生きていくなんて人生は、恥であって屈辱(くつじょく)そのものよ! わたしはアンヌマリー家の家長として、天動真中の恋人として、今護るべきものを護るわ!」


「恋人!? ああ、そうか役の話か」


「真中を頼んだわよ! アル!」


 半死半生(はんしはんしょう)の真中を背にルビアは、さながら(ひつぎ)とでも言い表すべきか。二人を血術による血の壁で囲い、戦線から離脱させた。


「わたくしはついぞ貴女の前で転化することはございませんでした。それでもルビアさんならば容易に看破してくるのでしょうね。わたくしの能力について」


「自身の神経または血管を体の外側へ延長。だいたい半径3メートルくらいまで張り巡らせておいて、踏み込んだ瞬間に、それらを介して何らかの毒物を注入した。そんなとこかしら」


「たった一度遠巻きに見ただけでよくそこまで読み切りましたね。優れた観察力なのか洞察力なのか、感服致しますよ。ただし誤りが二つ。一つ目は血管と神経どちらか一方なのではなく両方です。二つ目は毒物とおっしゃいましたが、打ち込んだのは生物と非生物の中間。正確にはわたくしの体内で精製したウイルスです。訂正ついでに付け加えるならば、人類がまだ出逢ったことのない新型株になります」


「何ですって!?」


「御安心下さい。空気感染はせず、毒性が強すぎるがあまり、パンデミックを起こせるほどの感染拡大は望めません。ただし吸血体であると自覚したばかりの死ぬことが許されない子供一人、死の淵を延々と歩き続けさせる効果なら御座います」


「だとしても。自身が感染してしまわないために、事前に免疫を獲得してるはずよね。その抗体を手に入れることが出来れば真中はまだ助かる」


「合理的な判断です。あくまで言動に行動が伴えば、のお話ですが。お喋りはこのくらいにして。さぁ、メキシコでの続きと参りましょうか。見せてご覧に入れましょう。これがわたくしの砂夜(さや)様に与えられた砂夜様のためにのみ存在する力。転化・四死伝染凶无螺旋疹(ししでんせんきょうむらせんしん)


 カヤノの体色は黒く変化し、着物にも似た金色模様の外皮(がいひ)に覆われ始め、背面からは九つのてらてらと紅く照りつける尾が生える。それらが何千、何万もの血管や神経系の集合体であり、右腕を(かざ)すと枝分かれし分裂。ルビアに狙いを定め、一斉に掃射(そうしゃ)されていった。


「床一面は先の血術にてルビアさんのテリトリーと化してしまいましたが、わたくしのこの血芯(けっしん)は地を這うだけでなく、放つことも可能」


 ルビアは翼にて浮上し、上空へと身を移す。一方でカヤノは無機物である工房の天井や壁を中継地点とし、血芯を拡張させながら、四方にも渡る包囲網を作り出した。


「人間が保有する血管の長さは距離にして10万キロメートル。神経ですと単純にその10倍。安全圏など何処にも御座いません」


 天井から降り注ぐ血芯。ルビアが縫うように飛行しながら回避していくも、閉鎖空間の中では分が悪い上に、一度でも触れてしまえば感染は(まぬか)れない。地の利とも言える室内工房の造りと、血管や神経を切断しても痛覚がない、超速再生する特異性も相まって、あらゆる状況下がカヤノに味方していた。


「闇雲に打ち込んでも無駄のようですね。なら」


 標的である両翼に針状の尖端が、今まさに触れようとした瞬間、ルビアは翼を畳み急降下する。


「飛び回るだけで反撃に打って出なければ、ルビアさんの心臓は砂夜様の元に行き、真中さんは苦しみ抜いた挙句死ぬ。ルビアさんにしては理解が遅いようですが、打開策の一つも見出せないようならば、その双肩(そうけん)にかかっている二つの無垢な命は貴女諸共終わるのですよ」


 網目状に組まれた神経の包囲が一気に狭まるーーかに思えた。


「策ならもう打ったわ。とりあえずって感じだけど」


「?」


 ルビアがすっと左腕を伸ばす。


「それは……」


 掌の上には野球ボールほどの血の球が浮いていた。それ以上に、カヤノが注目したのはルビアの左腕そのものだった。結晶体となって内から白い発光を伴うと同時に、動脈と静脈を彷彿とさせる赤と青のラインが走る。この現象はまさしく身体の一部分だけを任意に転化させる〝半転化(はんてんか)〟であった。


「戦いに集中してたからなのか、痛覚が鈍いせいなのか。身体から血液を取り出すのに、それほど大胆な目眩(めくらま)しは必要なかったわね」


 自身の肉体を離れた血液を見つめるカヤノ。ルビアの能力によって抜き取られていることにすら気付いてはいなかった。


「いつの間にか効果範囲内に入ってしまっていたようですね……一体いつから転化を?」


「最初にこの部屋に入った時よ」


「そんな馬鹿な。わたくしが見逃すわけ……」


 特別ルビアの左腕を注視していたわけではないものの、工房に入ってくる時分も真中の影ではっきりとは見えず。また、戦闘中も翼の影に隠れて見えてはいなかったことを思い出す。


「こっちは最初から殴り合いで決着つけようだなんて思ってないの」


「だから、様子を見るために真中さんを切込隊長(きりこみたいちょう)として突っ込ませたわけですか……なんと非情な」


「あれは誤算だったわ。馬鹿にされてるのはわたしなのに、代わりに怒って無策で向かって行くんだもの。でも、すごく嬉しかったのよね。それってわたしのことを思い遣ってくれての行動だもの。真中らしいわ。だからわたしも最優先で真中の命を助けることに全力を尽くしたまでよ」


「だったら何だと言うのですか。神経はまだ生きていますよ。血管と異なり死感遮絶など関係ない! このまま打ち込んで……っ!?」


 全方位より打ち込まれる神経は、紅い閃光の軌跡を(ともな)った斬血(ざんけつ)による超速の剣(さば)きにて切断されていった。


「まだ続けるのかしら」


「くっ……」


 打つ手が次々に潰され焦燥を隠せなくなったカヤノは、背に生える九本の尾を集束させ、弩弓(どきゅう)(やじり)を形成する。


 ルビアは手にした斬血を刺し穿(うが)つための槍へと作り変え、撃ち抜く構えを取った。


「そっちが殴り合いを望むなら上等よ。乗ってあげようじゃない。血穿(うがて)よー槍血(そうけつ)!」


 光芒一閃(こうぼういっせん)。一直線に突き進む投擲(とうてき)された真紅の槍は、打ち出された巨大な血芯と真正面から衝突する。


「わたくしの転化と吸血王とまで言われた貴女の血術が同格とは。ここまで弱体化が進んでいるとなると最早砂夜様の敵ではな……」


 力の差は互角かと思いきや、その浅はかなる考察と眼前の拮抗はすぐさま崩れ去った。


 血管や神経で作られた表層が徐々に()がされていくと、その(ほころ)びから一気に血芯は決壊(けっかい)した。


「ルビアさんの血液タンクは空だったはず。本来の威力を持ち得るはずが……」


「真中から血を分けて貰ったのよ。だってわたし、吸血鬼だもの」


「っ!?」


 血芯を貫いたルビアの一投は、威力を保ったまま爆散。きらきらと光る紅い結晶体が大気中に舞い上がる。


 直撃を免れたカヤノは自身を殺しきれなかった、ルビアに残る良心を確信して(わら)った。


「やはり。ルビアさんがわたくしに手を掛けるとは到底思えない。不殺(ころさず)の誓いと、これまで共に歩んできた記憶にあるわたくしが、貴女を捕らえて縛りつける。わたくしの作った料理の味が、洗濯した衣服の匂いが、交わした他愛ない会話の数々が、今の一撃に込められていましたよ。決まりです。ルビアさんはわたくしを殺すどころか、傷一つつけることすら躊躇し……」


「大味な攻撃だったのはわざとよ。万が一にでも当たったら困るじゃない」


「?」


 そこでカヤノは致命的なミスに気がついた。範囲の広い攻撃手段を打ってきたために生じた効果。今の一撃を(かわ)すべく反射的に行動したことで、座り込むエリシアとの間に距離が生じてしまったのだ。


「まさか」


 先の一撃が放たれた地点を見てもルビアの姿はない。


「一旦、頭の中で立てた計画が破綻(はたん)すると、了見(りょうけん)と視野が極端に狭くなる。カヤノの悪い癖」


「っ!?」


 投擲速度に併せてカヤノのテリトリーまで一息に飛び込んだルビアが衰弱したエリシアの身を抱えていた。


「しまった……って、顔してるわよ」


「わたくしという人間を中途半端に存じているからか、貴女という人は本当にやり難い……」




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