第四章「バニシングポイント」#1
「でも問題はどうやって乗り込むかっすよね? これだけの人数が出入りしたら流石に目立つし……」
「そこは気にしなくてもへーき。手っ取り早くここから船まで直通可能な門を作るから」
「まさかのワープっすか!?」
にわかには信じ難い、現実味のない方法を提唱するリツカに真中が気圧される。
「厳密には違うんだけど。まぁ、今の認識はざっくりそれでいいよ。とは言っても、術式三つの同時展開が必要だから案外負担は大きめなんだよね」
「工房の破壊と言ったが、あそこにはまだ僕らの兄妹たちが監禁されている。彼らの救出せずして破壊行動を優先するというのならば、こちらとしては先ずもって、君たち聖堂騎士団を相手にしないといけなくなるが」
アルにとって最優先事項が同胞たちを解放することである以上、先のリツカの発言には意を呈するものがあった。
「確かに門の説明云々の前に、各自の作戦行動と目的を話さないとだった」
「納得いく内容だといいが、聞こう」
軽く咳払いを一つ。改めてリツカが今回立てた計画について語り始めた。
「船体はおよそ300m。今は東京湾横浜沖にて停泊中。内部の様子を確認した限り、随分派手に改造してるらしくって、船倉はまるまる天動梗吾の魔術工房になってた。ただ、客層にも一定量の魔力が留滞してて、工房とは別に生活圏内であることも否定できない。だから今回は二手に分かれて行動する。私と副団長にシルフィムが同行。船倉を捜索。並行して真中君とルビアちゃんは客層の方をお願い。エリシアたち私兵も滞在してるだろうから、彼女らの犠牲もこっちとしては出したくない。堂々と船内を彷徨ける二人が適任だと判断したんだけど」
リツカがルビアに視線を送る。
「まぁ、わたしたちの不殺が遵守されるなら、それに越したことはないわ。あくまでも狙いは天動梗吾一人だもの」
「俺も賛成っす。ルビアとなら何かあっても護りつつ戦える。ただ……」
そこで言葉を濁す真中。リツカには思い当たる節があった。
「転化をまだコントロール出来てない、でしょ?」
「やっぱり知ってたんすね……」
「かと言って今回の作戦に真中君は必要不可欠だし。ルビアちゃんはどう思う?」
「なんでわたしに振るのよ。答えなんて決まってるでしょ。また暴走すればわたしが連れ戻す」
「だってさ。それでも不安?」
「いざって時どんな自分になるのか怖くないって言ったら嘘になるっす。でもたったの四日ですけど、俺が俺で居られるように身体張ってくれたルビアのことは、ヒロと同じくらい信じられる。だから、二人揃って親父に逢いに行きます」
「よし決まり。工房で監禁状態にあるとされる仲間を発見次第、シルフィムはその救出に専念して。もし横槍が入るようなら私とユンが相手をする。壊すのはそれからってことで」
「心得た。気遣いに感謝する」
「最終的な目標は天動梗吾の身柄確保と、工房の破壊。それ以外の切った貼ったはなるたけ無しってことで。他に質問は?」
全員が無言で返答に及んだ。
「そんじゃ、話が纏ったところで門の作成に取り掛かりますか」
リツカは虚空を掴み聖剣の顕現に移る。ただし、今回は伽耶乃との戦闘時よりも魔力消費が激しいことを見越して、完全詠唱による召喚を展開した。
「霊堂の守り手よ。万雷の福音を以て示せーー〝レーゼン〟」
抜刀すると同時に、宝鍵を3つ取り出し、内の一つを柄頭に差し込んだ。
「先ずは空間歪曲から。詠唱誓約申請特許掟項・ディストーション」
一刀、空間に斬り込みを入れて別の宝鍵に差し変える。
「今度は時差修正。詠唱誓約申請特許掟項・エターナライズ」
続いて小さく開いた空間の裂け目を拡張する。
「最後に座標軸の決定。詠唱誓約申請特許掟項・ペンデュラム」
最後に人一人が往来出来るほどの入り口を剣先で描ききった。
「先遣隊が座軸の杭を報告通りに打ってくれてたらこれで船倉に出るはず」
やがて直視出来ないほどの輝きを放つ門扉が、リビングルームに完成された。
「じゃ、行くよ」




