第三章「ヴァンパイア・オブ・ザ・スクールII」#8
その晩、真中はヒロの手術に立ち会うべく、必要なものを取り揃えるため、一時的にルビアと帰宅した。
「まずはヒロの両親に説明しないとだな。でもこんな話信じてもらえるか?」
玄関を抜けてリビングへ続く廊下の途中で、ガチャリと音が立った。
振り向くと後に続いて帰宅したルビアがドアに施錠をし、普段ならしないドアガードまでかけていた。
ルビアもまた表情を読まれないために薄らと俯き加減で佇んでいる。
「本調子じゃないなら休んでていいけど」
「…………」
「ルビア? どうかしたか」
「さっきの転化で、今の真中の血がわたしにも効果的であることが改めて証明されたわ。だから……」
「?」
「だから……その……」
暫しの沈黙が流れる。いよいよ決心がついたのか、照れの気持ちを押し殺し、赤面しながらも声を張り上げてルビアが言い放った。
「天動真中! 今からわたしにその血を吸わせなさい!!」
「!?」
内容が理解出来なかったわけではない。おおよそルビアの口から出た科白とは思えず、訊き返す。
「今なんて……」
「この声量なら聞こえてていいはずだけど? 何度でも言ってあげる。恥ずかしくなんかないし! いい? 真中の血をわたしに直接飲ませなさいって言ったの!」
聞き間違いではなかった。あれほど吸血行為を避けていたルビアが一転、血を吸いたいと頼み込んでいる。
「死にかけると人生観が変わるなんてよく聞く話だから、あり得なくは」
「ないわよ! いや、でもちょっぴりそれもあるかも」
「どっちだよ」
「真中の転化のおかげで、何ともないくらいにまでは回復したけど、今後いつ襲撃に遭うかなんて分からない。それに真中が転化をコントロール出来てない今、また自我を失った時このままだと助けてあげられない」
「確かに今日はルビアとヒロ、アルにまで迷惑かけたからな」
「でしょ? 備えは必要だし、真中のためでもあるの! 分かったならさっさと行くわよ」
ルビアが真中の袖を掴み早足で、すたすたと廊下を渡る。
ソファーに座り込む二人。
「ほら、服脱いで」
「服!?」
疑問を呈する前にルビアがセーラー服を脱ぎ始めた。
「何だよいきなり」
咄嗟に視線を逸らす真中だったが、衣擦れの音が聞こえる度に緊張が走る。
「用意出来たわ。そっちは……」
見ると真中はベルトに手をかけている最中だった。
「何で下まで脱ごうとしてんの!」
「だってそっちが脱げって……」
「血を吸うだけだから! 何変なこと考えてんのよ! 変態!」
「それもそうか……」
慌ててズボンを上げる真中に、ルビアが飛びついた。
「っ!?」
「もうそのままでいいわよ……」
9月の蒸し暑い寝室。エアコンを付けることすら忘れ、ソファーに押し倒す形でルビアが真中に被さった。
「初めてだし、痛いかも……」
「そもそも服脱ぐ必要なんてあるのか?」
上半身裸の真中に、キャミソールにスカートという際どい姿のルビアが迫る。
「だ、だって血が付いたら困ると思って」
「それくらい洗えば……」
更に火照る身体。暑さのせいか極度の緊張からか、ルビアの頬から一滴の汗が真中の口元に落ちる。
「やっぱり普通に座ってでも……」
「いいから! あっち向いてて!」
ルビアはこれでもいっぱいいっぱいだった。それはもう顔もまともに見れないくらいに。
「い……いくわよ」
横向く真中の浮き出た首筋目掛け、ルビアが顔を埋めた。
蒸された身体がぴったりとくっつく。互いの汗の臭いが混じり合う。香水などで着飾っていないありのままの臭い。
「あぁ……むっ」
犬歯を突き立て、血管に刺し入れていく。そのまま下の歯で押し出しながら血を啜った。
「ぐっ……!」
くすぐったくあり、真中が脚をよじらせる。と、太腿がまたがるルビアの入り口に当たった。
「ひゃっ!」
口が離れ、飛び出す血液が真白な生地を汚していく。
「きゅ、急に動かないで!」
「だってなんか変な感じで……」
「そんなこと言ったら余計意識しちゃうでしょ! これはあくまでも必要な行為であって健全だから!」
「そっちが変な声出すからだろ! もう今日は終わりにして……」
「ダメよ!」
起き上がろうとする真中の両肩を目一杯の力で抑え込む。
「ま、まだ不十分だから! それに……途中でやめるなんて、生殺しじゃない……」
恥じらう顔は何度か見てきた真中だったが、そのどれとも違う表情をとるルビア。より乙女らしく繊細で、艶やかでもあり、赤みがかった頬と、伝う水滴に思わず見惚れてしまうほどであった。
「もう一度いくわよ……」
「あ、ああ……」
二人の身体が再び重なろうとした矢先、携帯の着信音が鳴り響いた。自然と真中とルビアに距離が生まれる。
「リツカさん?」
「『なーんか取込み中だった?』」
「いや……大丈夫っす。そっちから掛けてくるなんて珍しいっすね」
「『今し方、副団長から連絡が入って。天動梗吾が現在使用している工房の位置を補足したから明日の放課後、ミーティングを兼ねてこの前のセーフティハウスに集まって貰いたくって。勿論、ルビアちゃんも一緒に』」
当のルビアはというと、我にかえったことでより羞恥心に拍車がかかり、ソファーの裏側に隠れ、膝を抱えながらツインテールの毛先で顔を覆っていた。
「『よく考えたら、輸血でもなんでも方法はあったじゃないのよバカバカ! 今日のわたしってばどうかしてるわ……ほんっと、どうかしてる』」




