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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第三章

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第三章「ヴァンパイア・オブ・ザ・スクールII」#7

 無事病院に搬送されるヒロを見送り、制服へと着替え終えたルビアと真中はそこで初めて一息ついた。


「潰れた片方の肺をルビアが血術で形作って、アルたちが魔力を流して簡易的な生命維持装置を完成させるなんて。一命は取り留めたって言ってたし。皆んなに礼を言わないとな」


「そこまでしても、これから大掛かりな手術が待ち構えてるわ」


「ヒロは強い意思を持って俺を助けてくれた。きっと乗り越えてくるさ。話の続きを聞き届けるって約束もしたし」


「ヒロにしごかれた真中が言うんだもの。これ以上の根拠はないわね」


「ルビアは動いて平気なのか? 一度は死んでたんだぞ」


「あれだけ真中の血を貰ったんだもん。もうすっかりよ。ほら!」


 肩を回すルビアの血色は良く、返答もまたはつらつとしている。


「それは恐れ入谷の鬼子母神(きしぼじん)だ」


「マイゴジね。海神作戦(わだつみさくせん)


「調子も戻ったようで何より」


「それはこっちの科白……と言いたいところだけど、随分と気に病んでるようね」


「思えば俺が殺しかけたんだ。あのままだったらきっと……」


「でもそうはならなかった。言ったでしょ、どんな状況にあっても連れ戻してあげるって。過程の全てを否定はしないけど、今は結果にこそ目を向けるべきよ」


 ルビアが終始思い詰めた真中の顔を仰ぎ見た。


「天動真中とは一体何者なのか。力の起源はどこから来るものなのか。本当はもっと早くに、そうね。あの夜にでも話しておくべきだったわ」


「どういうことだ」


「わたしは真中が求めてる全ての答えを知ってる」


 動揺や混乱こそないものの、真中の胸中ではざらついた感情が湧き上がっていた。聞き届けてしまえば当たり前の何かが終わり、特別な何かが始まる。


「事実だけ教えてくれ」


「〝死感遮絶(しかんしゃぜつ)〟それがあの転化した第二次形態変化後の名前よ」


「転化って……」


「もちろんわたしも使える。そしてあなたのお父さんである天動梗吾も」


「親父が? 何で……」


「それは彼がわたしにとって最初のーー」


「話の最中にすまない。緊急の要件なんだ」


 ルビアの口から語られる真相。それを遮ったのはアルだった。先とは異なり余裕のない表情が伺える。


「ルビアがお前たちのことを赦すといった以上、俺はもう何も言わない。ヒロとも何か込み入った事情があったようだしな」


寛容(かんよう)さに感謝する。その上で烏滸がましくも淺ましい僕らの願いをきいてはくれないだろうか」


「?」


 アルについて行くとそこにはシルフィムに介抱されるリズの姿があった。


「天動真中に血分けを頼みたいんだ」


 見るとローブから露出している顔周りや手脚はひび割れ、それらは劣化したガラス細工のようで、今にも崩れ落ちてしまいそうにある。


「ここまでの進行を許してしまったのも僕のせいだ。この襲撃計画に参加させなければ、今頃はまだ」


腐食結漿(ふしょくけっしょう)か」


「ああ。僕らは既にルビア・アンヌマリーの血を浴びている。だがこの進行具合からするに浴びるだけではもはや足りない。直接口から飲ませてやって欲しい。量も必要だ」


「分かった。やってみる」


 そう言って手首を切り付け、出血させた真中がリズの口元にもっていった。そこに迷いや葛藤などはない。


「いいのか? 僕らは君たちに危害を……」


「ごめんなさい」


「!?」


 ルビアが放った謝罪の言葉にアルは真意が分からず戸惑った。


「どうして君が謝るんだ?」


「天動梗吾の計画には常に偽血、つまりはわたしに流れていた血を摸して造られたものが使われてる。わたしのこの特異な血のせいで起こった顛末(てんまつ)が誰かを不幸にしてるのなら、それはわたしのせいでもあるの」


「……同情、してくれるのか」


「事実を言ったまでよ。だからこそわたしはわたし自身の手で決着をつけないといけない。あの男が何を考えてるかなんてどうだっていい。止めないと」


 どのような境遇を経たらこのような確固たる意思や慈悲の心を持てるようになるのか、アルは推して量るしかなかった。


「だめだ! くそ!」


 真中が苛立ちの声を上げる。血分けは滞りなく行われているものの、ひび割れは治るどころか悪化の一途を辿り、いよいよ右腕が真っ二つに折れてしまった。


「治らない! 何がダメなんだ! 俺の血だと不完全なのか!」


 再び血を飲ませようと手首を切る動作に移った様子を見て、アルは真中の手を止めた。


「諦めるのか! まだ始めたばか……」


 直後、顔の三分の一が氷山のように崩壊し、欠落した。


「そんな」


 それからアルはリズの最期に紡ぐ言葉を拾い上げるべく、耳を傾けた。


 聞き取れるかどうか。僅かな声量でリズが語る。


「気が付いたら液体の中に漬けられてて、出たら檻の中で戦って、最後は人を殺して来いって命令されて。毎日痛くて、怖くて、眠れなくて。何のために生きてるんだろって思ってたのに、今はね不思議ともっと生きたいって思いに変わったの。全部、アルたちのおかげ。嫌な命令だったけど、カントクとライタと過ごした時間はわたしにとって幸せそのものだった。だからこれは二人への伝言。カントクとライタが作った映画観たかったって。いつか天国でも上映されるようにいっぱい頑張ってねって。それからアル。私を誘ってくれてありがとう。気遣ってくれたんでしょ? 真中はきっと乱暴なことはしないから私を足止め役にした。誰よりも優しいのは私じゃなくてアルなのを知ってるよ。だからこれは最期のお願い。皆んな争い合うんじゃなくて、仲良く笑顔で……」


 科白の途中でリズの身体はアルの抱き寄せた腕の中で、粉々になって砕け散った。ローブに残った砂のような魔力残滓(まりょくざんし)が風に乗って流れていく。


「リズ……ああ。僕らは変われる。そのためにまずあの男の元から兄妹たちを救い出す。それが終わったら静かに暮らそう。映画とやらを観ながら皆んなで」


 間借りしている部室の窓をやわらかな風が叩いた。


 四時限目の授業終わり。部室で昼食を取りながら打ち合わせをするカントクとライタ。しかしカントクは終始自身の携帯と睨めっこをしたまま、あーでもない、こーでもないとぶつくさ独り言ちている。


「ぼそぼそと大きな独り言を横で聞かされる身にもなってみなよ。集中出来ないだろ?」


「いつしか俺たち作り手側ってのは(あら)探ししながら映画を観ちまうもんだ。考察したがるのもその一つ。だからあいつの、リズの持ってた純粋に楽しむみたいな心を絶対に忘れちゃダメなんだよ。今度いつ遊びに来てもいいように次観てもらいたい映画を選んでたんだ。邪魔したな。わりぃ」


「いや。それを言うなら僕も同じ気持ちだ。いつか僕たちの映画も観てもらいたいよな」


「ああ。なんて言うかな。リズは」


「笑って、目が離せなくなって、最後は泣いて。そんな心動かせるモノを映研でも作ろう。試写にはリズも呼んで」


「だな。モチベも上がってきた! やるぞライタ!」


「もうとっくに出来上がってるよ。ほらカントク」


 タイトルに「カルペ・ディエム」と書かれたシナリオが一冊、机の上に置かれた。




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