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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第二章

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第二章「ヴァンパイア・オブ・ザ・スクールI」#12

 真紅の湾曲(わんきょく)した刃を握る二人。鍔迫(つばぜ)り合うと同時に、波状する血気(けっき)は取り囲むビル群を八つ裂きにし、ガラスと瓦礫の雨を降らせた。


「そのルビーのような美しい瞳。本気のあなたを見るのはロンドンでの一件以来かしら。ましてや出し惜しみなく血術を使うなんて。賢い選択だとは思うけれど、心臓を持たないあなたの血液量では底が知れてる」


「真中の姿でわたしの声って、やりづらくてしょうがないわね。それで(あお)ってくるんだから余計に」


怨嗟(えんさ)で言えばわたしのほうが圧倒しているわ。この機会に完膚なきまでに叩きのめしてあげる。さぁ、最後のルビア・アンヌマリーになるまで戦いましょ」


 地面のアスファルトから水滴状の血液が、上へと染み出してきていた。それはまるで重力に逆らう時雨(しぐれ)のように浮いてくる無数の粒。ルビアダークが打った布石であることは明白だった。


「気がついた? これはさっき引いていった大量の血液に他ならないわ。あれだけのものがどこへ消えたのか疑問に思わなかった? あなたを喰いつぶすために地下に貯蔵していたのよ」


「まさか……」


「未来。あなたと対峙する日が来るとして、一つ決めていたことがあるの。〝油断はしない〟と」


 咄嗟に距離を取るルビアだったが。


血滅しとめよーー血獣けつじゅう赫龍煌王かくりゅうこうおう


 ルビアダークがそう唱えると地面は大きく揺れ、やがて立っていられなくなるほどの振動が襲ってきた。


 大地は隆起し、崩壊をはじめ、地下から龍の形象(けいしょう)を得た血流が湧き上がった。


「くっ……」


 ルビアを咥えたまま、紅き龍は天高く登っていく。


 それをルビアダークは手掌(しゅしょう)で操り、勢いを保ったまま高層階のオフィスビルに激突させた。


 ビル内を一通り周回させ破壊し尽くすと、隣接する別のビルへと叩きつける。


「あなたの肉体と意識が完全に失われるまで、延々と世界を破壊し続けるわ」


 再びルビアの身体は、龍のあぎとに身を裂かれながら宙を舞い、ピークタイムで人が溢れかえる駅舎に突っ込んでいった。そのままホームに進入し線路を流れていると、向かいから快速特急が猛スピードで走行してきた。運転士が急ブレーキを踏むもこのままでは正面衝突は免れない。


 ルビアは意を決して血術を唱えた。


血増あわせ血綴かけよーー血紮(けっさつ)楼上帯鎖ろうじょうたいさ!!」


 八つのかんぬきを龍の首根から全身にかけて、等間隔で突き立てる。


 回遊する動きはその間鈍くなり、真横を電車が通過していく。ルビアの一手が最悪の事態を回避させた。


「二重仕掛けの血術……そんな即席で編み出した術なんかでわたしの赫龍煌王は止められなくてよ」


 未だルビアの胸部と脚部には鋭利な牙が突き刺さっており、加えて再生が血液の凝固によって阻害されている始末。打破するには動きを鈍らせ、隙を作った上で奥の手を使う他なかった。


「ーー化……」


 遠すぎてルビアダークには発したその言葉が聞き取れない。


 次の瞬間、龍の頭部は破裂し、液体に戻ると、完全回復に至ったルビアが滑空して降りてきた。


「さすがはわたしね。血獣まで持ち出した時はどうなることかと思ったけど、いまいちまだ真中の身体を使いこなせてないんじゃなくて? それとも、向こうの世界で手こずってるとか?」


 お気に入りの服はボロボロに破け、ところどころインナーや下着、肩や背中などの素肌を覗かせるルビアだったが、態度は悠々たるものだった。


「どんなまじないを使ったか今、理解したわ。確かにこれなら使用可能な血液量において不利なあなたでも関係ない。そう……転化(てんか)したのね」


「ほんとならあんな姿にはもう二度となりたくなんてないわよ。あんたもわたしなら承知してるはずでしょ」


「だからこそ面食らったのよ。邂逅してまだ三日しか経過していない希薄な関係性の二人が、どうしてそこまで求め、助け合うのか理解しかねるわ」


「きっと欲してるんだと思う。ずっとそばで変わらずに居てくれる人を。あんたもわたしと同じ年月を重ねて来たんだから分かるはずよ。自分がもう何歳なのかさえも分からない。でも死ねない。死ぬことすら許されない。その絶対的な孤独と向き合うには、愛すべき他人が必要だって」


「真理かもしれないわね。でも安心しなさい。弱体化したあなたはもうじき、その永劫(えいごう)の時を生きることを運命付けられた(くさび)から解き放たれる。もうさみしくはないわ」


 ルビアの頭上に大きな影法師が出来上がる。


「赫龍煌王は死して尚健在。血落ふれよーー血雨ちさめ


 頭部を破壊された赫龍煌王の残骸から、血の雨が降り始める。雨粒の一つ一つが、ダーツに用いられる鉄の矢のように鋭く重い。それらが一気に何千、何万とルビアを中心に広範囲に渡って降り注いだ。


 安全地帯などないなか、ルビアにかろうじて出来ることは、翼を可能な限り肥大化させ、傘のようにして中でじっと耐えること以外なかった。


 しかし、その雨は翼をいとも容易く貫通し、柔肌を刺し(えぐ)る。


「『これだけの手傷。あなたの体力も、集中力も十分に削がれたことでしょう。あとは穴空きになった翼を縫って、凝固させた血液を脳幹(のうかん)目掛けて射出。これで隙は作れる。そして最後はこの手で始末を』」


 降りやんだ瞬間、気取られぬよう手元の(しずく)を射出。見事に頭を撃ち抜く。


「っ!!」


 ルビアは膝を折り、沈黙した。


「ドーム状の結界を張り、防ぎきることも出来たでしょうに。それも先の血紮の二重仕掛で、既に貧血を起こしていなければの話。抵抗する術はなし。それを証明してみせたわ」


 動かなくなったルビアに向かい、歩み出すルビアダークの手には斬血(ざんけつ)があった。


「さよなら、わたし。あとはわたしが引き継ぐわ」


 ルビアダークはその血刀にて胸を一気に貫いた。切先から滴る鮮血。ルビアはこの時を待っていた。


「……やっと、捕まえたわ」


「!?」


 一歩一歩刀身が差し込まれ出血が酷くなるも、前進することは止めずに、いよいよその肩を掴んだ。

 

「……きっと、自分の手でとどめを刺しに来ると思ってた。必ずわたしに最後は近づいてくるってね……」


「思考を読んだからといって立場は逆転しないわ。血術を使うことがかろうじて出来たとして、あなたに真中は傷つけられない。例え不死の肉体を持つと分かっていても。それが人情ってものでしょ?」


「だから……こう、すんの!」


 ルビアダークこと、真中の首筋に思いきり噛みつくルビアは歯を立てて容赦なく吸血していった。


「あっ……あなた……こんなマネ……」


 首を刎ねんと新たに一刀作り出し、首元に切先を突き立てようとするも、ルビアの頭から流れ出た血が凝固し刃が通らない。


「こ、こんな、こと……吸血行為はあんなに……忌み嫌っていた……はず……なのにっ!!」


 みるみると血を抜かれていき、充血していた瞳の色も徐々に真中の本来持つ黒へと戻っていく。


「わたしは……それでも生き続け……る」


 致命傷を負ったルビアと、大量の血液を奪われたルビアダークは互いに倒れ伏した。


「わたしに出来ることはここまでよ。あとは真中、あんたの戦い。ここまでお(ぜん)立てしてあげたんだから、絶対に勝って戻ってきなさいよね」




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