第二章「ヴァンパイア・オブ・ザ・スクールI」#3
「じゃーん!」
両手では抱えきれず、前もろくに見えなくなるほどに積まれた紙袋を携えて真中が帰宅する。
「じゃーん、って洋服一式頼みはしたけど、どんだけ買ってきてんのよ。ここに住みつく気?」
鼻歌混じりで、意気揚々と買ってきたものを一つずつテーブルの上に並べ始める真中にルビアが訊いた。
「どれくらいの期間ここで暮らすことになるか分からないからこそ、なおさら着替えはあって困らないだろ? だから思い切って奮発した。人生初めての大人買いってやつ」
「下着の柄とか衣装の季節感とか。ほんとはわたしが自分の目で見て選びたかったんだけど。裸ワイシャツじゃ外出られないし。ハイブランドをただ重ねて着ればいいってほどオシャレは甘くないわよ?」
「そこんところは開けてみれば分かるって。ほら、早く」
「やけに自信満々じゃない。じゃあ遠慮なく……」
一番大きくかつ厚みのある紙袋を選び、中身を取り出す。
「これって……」
アンティークドールを思わせるエレガントでクラシカルなデザイン。ロリータでありながらも気品や可愛らしさを兼ね備えていて、実生活でも着やすいワインレッドのジャンパースカートが入っていた。
「意外……真中が選んだわりにはいいじゃない!」
不安げだった表情が一気に明るくなり、喜びに満ちる。
「ノブレスオブリージュ。ヴィクトリア時代のイギリスを思い出すわ。みんなこんな風なドレスを着て、社交会に赴いて交流を深めていたの。でもこれは古臭く感じさせないようなアレンジが効いてて、同時代性もあるし、あの頃よりカジュアルめに普段使いしやすく作られてる」
そのスカートを高々と掲げ、時折り抱きしめながらくるくると回り、はしゃぎだすさまはまさに、クリスマスにサンタクロースからプレゼントを貰った子供のよう。
「一番初めに逢った時、こんな感じのドレス着てたろ? 好きな系統なんじゃないかと思って原宿まで行ったんだよ。その甲斐はあったみたいだな」
「インナーも下のタイツの色味も組み合わせばっちりね」
「店員さんオススメの秋用コーデをそのまま買ってきただけだけどな。あとこっちも汚れてたから……」
真中が箱から取り出したのは厚底ではなく、歩きやすさを重視した、ぺたんこのレトロフリルのついたローファーだった。
片膝をついてルビアに履かせる。
「きつくないか? 詳しいサイズまでは分からかったから」
それはまるでシンデレラのガラスの靴だった。合わせてみるとぴったり、ルビアの足を優しく包み込んだ。
「素敵……」
「だろ?」
目を輝かせ、時にうっとりしていたルビアが我に返る。
「靴が、だからね! 勘違いしないでよ!」
「どのみち気に入ったなら、俺は嬉しいよ」
「まぁ、一応お礼は言っとく。ありがと」
気恥ずかしいのかぼそっと小さな声量で呟いた。
「で? そっちのは? どんなの買ってきたのか見せなさいよ」
照れ隠しなのか話題を切り替えるも、買い物に行ってきた当人ははっとして、なぜかため息をついた。
「しまった……」
紙袋の中身が全てルビアのための衣装とインナー。新調した靴と、あとは替えの下着のみだったことを思い出す。
「まさか自分の着替え、買い忘れたわけ?」
「パンツだけでも買っときゃ良かったー。くそっ」
項垂れる真中の様子を見て、ルビアがとある提案を持ちかけた。
「まったく世話が焼ける同居人ね。なら今からお披露目会に出かけようじゃない」
「何だそれ?」
「せっかく真中が買ってきてくれたんだもの。自慢しに行くのよ」
そう言って機嫌良く脱衣所へと籠るルビア。
拝借したリツカのカッターシャツを脱ぎ、小花が散りばめられたオフホワイトの少し背伸びした下着に履き替える。
レース柄の白タイツに無地のブラウスを合わせ、ジャンパースカートに足を入れ、肩を通して鏡でチェックする。
「よし」
続けて髪のセットをし、最後は高いところで両端に片方ずつ結んで完成。
十分経つか経たずか。身支度を整えたルビアがリビングに戻り、着こなしを見せつけた。
「どうかしら! わたしが着ればこんなものよ!」
一変してドレスアップした立ち姿は上品でいて可憐。身に纏う雰囲気も華やかになり、愛らしい顔立ちがよりいっそう目を引いた。
「映画の一場面から出てきたみたいだ」
銀幕のヒロインを思わせるほどの凛々しさ。
これ以上ない最高の褒め言葉だった。
「でしょでしょ? 見違えた?」
褒められて上機嫌なルビアが顔を近づけて反応を伺う。
「ああ馬子にも衣装ってやつだな」
ーーーーーーカチン。
一転。何かが切れるような音がした。
馬子にも衣装ーー中身が伴っていなくとも、見た目をそれなりに整い繕えばごまかせるものだ。という意味である。相手を褒めようと思う時分に使用する諺では決してない。
「ん? ルビア?」
「むんっ!!」
頭を左右振り回して、ツインテールビンタを思い切り見舞う。
「痛っ……!」
ベチン、ベチンと毛先で叩かれる真中の頬。
「痛いって……何かマズイこと言ったか俺!」
「バカバカバカバカバカ真中! 一言余計なのよ! このっ!」
ルビアの制裁は、気が収まるまでしばらくの間続いた。




