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仮面の外し方  作者: tapupurinn


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第一公演 ピエロは踊る

私は昔両親と見に行ったサーカスに出ていたピエロに強く惹かれた。ピエロがすごい演技をしていたから という訳ではない。自分と似ていると思ったからである。

私の名前は仁科 朔(にしな はじめ)、二一歳で小説家になりそれから約二年の月日が経ったある日、晩御飯を求めに買い物に行った帰りに駅に張り出されているサーカスのポスターが目に入ってふと過去のことを思い出したのだ。

今思えば我ながら大分ませた子供だったなと思い返す。小学生の頃から常に周りを窺って空気を悪くさせないように必死に明るく振舞い盛り上げていた。別に誰かを笑わせることが好きという訳ではないし出来るならしたくなかった。だが誰かが治めないと終わらないという状況が嫌いなために自分がそういう役に立ったのだ。

それから学校の中ではまるであのサーカスのピエロの様に笑い、おかしくしていたのだ。だから初めてサーカスを見に行った時に見たあのピエロに惹かれたのだろう。

まぁそんなことはどうでもいい。早く帰って仕上げをしないと明日には編集者の人に提出しなければならないのだ。足早に帰路についていると今日はいつもより視界に入ってくる街の光明るく見えた。見るとそこら中に赤や緑のLEDライトのイルミネーションが施されている。もしかしてと思いスマホを鞄の中から取り出し日付を確認すると『12/24』と表示されておりすぐに今日はクリスマスイブだと思い出す。まぁ一緒に過ごす友人もいなければ恋人もいないので自分には関係ないなと思い直しすぐにまた鞄にスマホを戻す。

それから数分ほど歩いて自分の住んでいるマンションへと入る。いつものようにエレベーターに乗り『5』のボタンを押して『▶◀』を押そう...としたところで少し先から「すみませーん!乗りまーす!」と小走りでこちらへ向かってくる女性がいた。すぐに『◀▶』のボタンを押し閉まりかけたエレベーターの扉を開ける。すると女性は少し安堵の表情を浮かべ少し息を切らしてエレベーターに乗り込んできた。

「すみませんほんとに...」

「いえ大丈夫ですよ。何階ですか?」

「ご、五階です」

「わかりました」

たった2ラリーの短い会話を交わしエレベーターが動き出した。上に到着するまでは二人共無言でただエレベーターの動作音がしているだけだった。数十秒程待ちチンという控えめな音と共に扉が開いた。

「お先にどうぞ」

「あ、ありがとうございます...」

女性が出たのを確認して自分も外に出た。そして数室ある中の突き当りから二番目の部屋へと向かう。鍵を開けようとしたところで隣からも解錠音が聞こえた。先ほどの女性は隣人なんだなと初めて知ったが別に自分は隣人だからと言って関わろうとは鼻から思ってもいなかったのですぐに忘れることにする。

自宅の鍵を開けて家の中へと入った。すぐにリビングへと向かい買ってきた荷物を冷蔵庫へと片付けてこの後食べるコンビニ弁当に関しては蓋を外して電子レンジへと放り込んであたため開始のボタンを押す。その間に出る前に沸かしておいた電気ポットの中のお湯をマグカップへと注ぎ緑茶の茶葉を投入する。そうしていたら電子レンジがあたため終了を意味する軽快な電子音を鳴らしたので中に入っている弁当を取り出して机に置く。小さくいただきますと呟いて食べる。そして食べ終わったら容器を水で洗い流してゴミ箱へと放り投げる、が上手く入らずに落ちたので拾い直して今度は素直にゴミ箱に手で入れた。

そしてその流れで作業部屋へと向かってデスクにつく。先ほど出かけたときに電源を落とすのも面倒くさくてずっとつきっぱなしにされていたPCの画面を睨みつける。もう全体の八割ほどは文章入力ソフトに文字を打ち込んでありあとはどうこの物語を終わらせるかだけだ。今書いているのは現実である少女が一人の男性に好意を持ち様々なトラブルや出来事を経て最後にその二人は結ばれるというなんともベタな話である。自分が書きたいのはこういう風なお話とは全く違うがこっちのほうが見てくれる人が多いので仕方なくこういうジャンルを書いているだけだ。本当なら自分の主観を基としたもっと自由な小説が書きたいと常日頃から思っているのだ。

「はぁ...やっぱり人生って難しいよな...」

家の中には誰もいるはずがないのに誰かに語りかけるように言う

生活のために小説を書くのは楽しくない。最近そう思うようになってからは筆が思うように進まなかったり集中できずにと最初に比べ編集者さんへの提出も最近は遅れ気味だしあまり売れ行き自体も良くない。

「何か転職先とか考えたほうがいいのかな...」

またもや一人しかいないこの空間に話しかける。こんなことを考えているが一人でも自分の小説を見てくれている人がいるのだから折角なら続けて行きたいとは思っている。だが現実はそこまで甘くはない。それで生活して行けるのだったらとっくに悩みなんてないからだ。

「とりあえず残り書き上げますか」

そう意気込んで五時間ほど経ち、ようやくまとめ終えることが出来た。

ふとPCに表示されてある時計を確認すると日付変更からすでに三時間程経過していた。

流石に五時間丸々集中していたので疲労感が一気に押し寄せてきた。連日の不健康な生活のせいか、あまりの眠気と疲労感に耐え切れずにデータの保存とバックアップだけをとってベッドに飛び込んだ。久しぶりに椅子ではなくベッドで寝たので五分もしないうちに高い夢の波に攫われた

                  *           *

翌朝、カーテンの間から入り込んできた朝日で目が覚めた。傍にあるスマホを手に取り時刻を確認すると正午になるまであと一時間弱しか無いという時間で久しぶりに長めの睡眠をとれた事に少し嬉しくなる。そう思い一度伸びをして日を浴びるべくカーテンを開けに行く。シャッと少し勢いよくカーテンを開けるとカーテンから伸びていた一筋の光だけで他は闇に包まれていた部屋の中がパッと明るくなった。二分ほど窓辺で日の光を浴びて暖かさを味わっていた時突然ベッドの方から何かが振動する音が聞こえた。見に行くとスマホが震えていて画面には「仁科 沙亜夜(にしな さあや)」と表記された通知アプリの通話受信画面がついている。この通話がかかってきた相手、沙亜夜は実の妹である。沙亜夜は五歳年下で昔実家にいた時はよく遊び相手になってあげたりしていた。そして今でもこうしてたまに通話をかけてくるくらいには兄妹仲は良いと言えるだろう。

スマホを手に取って画面に表示されている通話ボタンを押してスマホを耳に当てる

「もしもし?どうした沙亜夜」

「あ、おにぃ。通話出るの遅いからまだ寝てるのかと思っちゃったよ。」

「それはごめんな、今起きたんだよ。」

「そうなの?まぁそれはいいとして。おにぃ今年はお正月帰ってくるの?お母さんが聞いとけってうるさいからさぁ」

「まぁそういうことに口うるさいのはいつも通りだろ。そうだな...去年は仕事が忙しくて帰れてなかったし今年の年末は帰ろうと思ってるよ。丁度仕事の方も落ち着いてきた所だからね」

「え、ほんとに!?やった!じゃあ楽しみに待ってるから!」

「あぁ、楽しみにしててくれ。」

「うん。.....それで、おにぃって彼女とかはもう出来た?」

「またそれか?できるわけがないだろ。こんななのに...」

「いや絶対うそ。だっておにぃ背も高いし普通に顔整ってるんだし彼女の一人や二人くらいいるでしょ!」

「いないってば。てかなんでそんなに俺に彼女のこと聞いてくるんだ?」

「こほん、やっぱり妹としては兄の恋愛事情とか気になるものなのですよぉ。もし彼女が出来た時には私がその彼女さんを見極めてあげなくちゃだからね!」

「何様だてめぇは、まったく。そもそも俺に彼女は出来ないし作る気もない。だから気にする必要なんてないぞ」

「えー、つまんないのー」

「どうとでも言っとけ。とりあえず今年は帰る事にするから。母さんにもよろしく伝えてやっといてくれ。」

「むぅ....わかった、じゃあまた今度ね。」

「あぁ、またな」

そう一言告げて通話を切った。通話上では平静を装うようにはしていたが実際二年ぶりに実家に帰るのだ。今からすごく楽しみだ。しばらく家族の皆とは顔を合わせてないがちゃんと元気にやっているだろうか、そんな事を考えながらキッチンへ向かうと油断をして小指をぶつけた。

                  *           *

それから数日後、実家へ帰省するために新幹線に乗っていた。今住んでいる家から実家まではかなり離れているので新幹線でも片道で二時間程かかるのだ。しばらくして新幹線を降り駅のホームへと向かうと柱の傍に18歳くらいの周りの人々からの視線を集めている美少女が見えた。暖かそうな亜麻色のコートを着て首にはグレーのマフラーをしていて、それでも寒いのかマフラーの先をぎゅっと握っている。彼女はこちらがいることに気付くとすぐに走り出してタックルするようにして抱き着いてきた。

「お帰りぃっ!おにぃっ!」

そう言って顔を上げたのはつい先日も通話をしていた実の妹、沙亜夜だ。

「おい、こんなに人がいるところで抱き着くなよ。てか苦しいから早く離してくれ。」

「え、やだ」

すこし強めに抱き着かれていたので苦しくてそう返したら不機嫌そうなご機嫌なような顔で返された。

「なんでだよ、てか沙亜夜、なんか身長伸びたか?」

「えー?どうだろ、わかんない。」

自分の頭に手を置き比べるようにして考えている。よし計画通りだ、これで少し離れれる

「って、あ!私から離れるためだったんでしょ!そうはいかいからねっ!それっ!」

「俺もそうはいかねぇよ」

またもや抱き着いてこようとしてくるので左に身を返して避ける。

「えー...折角二年ぶりにおにぃに会えたから嬉しかったのに...」

そう泣きそうな顔で返されては何も反論は出来ずに沙亜夜の頭を優しく撫でる。

「そんな顔すんなよ。ほら、帰ろうか」

「うん」

沙亜夜がまた笑顔を取り戻したのを見て外へと歩みを進める。自分が下りた駅から実家まではそう遠く無い、むしろ近いので歩いて十分もかからないのだ。

「そういえば、おにぃ」

三分程歩いたところで思い出したかのように沙亜夜が口を開いたので何かと思い振り返る。

「ん、どうかしたか?」

「最近、仕事の方って順調なの?」

「あぁ、上手くいってるよ。...と言いたいところだけどやっぱり最近は電子書籍とか流行ってるからあまり売れ行きが良くはないんだよな...」

「やっぱりそうなんだ。私の友人も最近電子書籍って便利だからいいよねとかって言ってたからもしかしたら...なんて思ってたんだよ」

「やっぱりそうなのかぁ。俺もそろそろこの世界から手を引かないといけないのかなぁ...」

やはり最近は電子書籍が流行っているんだなと思い自分の今の本の売れ行きを考えたらこの業界から手を引いたほうが良いのだろう。

「うーんでも私はおにぃの書く小説好きなんだけどなー...」

「まぁでも現段階でそんなに辞めるっていう強い意志があるわけじゃないから安心しろ」

「わかった、でも辞める時はちゃーんと言ってね?一番は私だからね?おにぃのファンの一人目なんだから」

「わかってるよ。それといつもありがとうな。感想言ってくれたりとかめっちゃ助かってるよ。ファン第一号さん」

「わかってるならよろしい」

素直に感謝を伝えられたことが嬉しいのか顔には満面の笑みが浮かんでいる。

そんな事を話していたらあっという間に自分が生まれ、育った我が家へと到着した。

少し緊張しながらも玄関の扉に手をかけ開ける

「ただいまー」

扉が開く音に気付いたのか何か奥で作業をしていた母がこちらへ顔を出す。自分のことを認識したのか、こちらへ歩いてくる

「おかえりなさい、朔。今度はちゃんと帰ってきてくれたのね」

どこか不満げな声で言われたが安堵の表情をしていたのですぐに寂しい思いをさせたなと反省をする

「ごめん母さん。去年は帰れなくて」

「いいのよ、仕事が忙しかったのならしょうがないわ。それより今はあんたが帰ってきてくれたことが嬉しいからいいのよ」

「ありがとう、母さん」

長々と玄関で話をするわけにはいかないので家の中へと入ると既に居間には父が座っていた

「おぉ、よく帰ってきたなぁ朔」

「父さん、久しぶり」

二年ぶりに聞く父さんの声はとても暖かくてそしてすごく優しい声だった。

「あれ、そういえばゴンは?」

「ゴンなら多分二階のお前の部屋にいると思うぞ?」

「そうなんだ、ありがとう父さん」

ゴン、とはうちで飼っている柴犬の事だ。名前は沙亜夜が「ゴンザレス・ポチがいい!」と言っていたので流石にその名前はかわいそうだという事でゴンザレスから取ってゴンという名前にしたのだ。

二階に上り廊下の突き当りの部屋に向かうと既に少し扉が開いていて中にはゴンが寝ている。

「ゴン、ただいま」

そういうとパッと振り返って尻尾を振りながらこちらへ向かってきたので会えなかった二年分の思いを込めて撫でてやった。ゴンは撫でられて機嫌がいいのかそれとも部屋が暖かいからなのか十分もしないうちに寝てしまった。気持ちよく寝ているので音で起こさないように細心の注意を払いながら一階へと降りる。すると少し前までは晴れていたはずだがいつの間にか空には雲が広がり白い雪を散りばめていた。まだ十二月なのに珍しいなと思い、同時にどこか懐かしい様な感じがした。きっと二年ぶりに帰省した事と普段外の様子なんて気にしていなかったからだろう。だが「あの事」があってから毎年雪を見ると胸が苦しくなる。確かあれは中学生だった頃だろうか...

                  *           *

「僕と付き合って下さい!」

真冬の候、とある中学生の男女は毎年クリスマスになるとイルミネーションが施され沢山の人が見に来るある花畑へと来ていた。その日は昼辺りから雪が降っていた。夜になるとその雪は更に冷たさを得て彼の紅い耳を冷やすように舞い散っている。そして告白を受けた彼女はと言えばどのように風に答えたらいいのか分からないといった表情で彼を見ている。思えば返答を迷っている時点で脈はないと考えるべきだった。だがただ一心に頭を下げて彼女の返答を待っている彼についに彼女は口を開いた

「朔くん、頭下げないで。私に頭を下げれるほど私は偉くないしむしろ下だよ。」

「そんなこと...」

「いや、下なの。私が言ってるんだからそこは気にしないでいいの。それとね、多分知ってくれてるかもしれないんだけどね...私って色々な事を同時にこなす朔くんのようには出来ないんだ。だからごめん、私には今の学校での生活と朔くんとのそういう関係を同時にこなしていくことって無理なの。本当にごめんね」

「...何で。別に俺はすごいことをしている訳でもないしそれに君が関係を一緒にこなすって事が難しいなら俺が全力で支えるから!だからっ....」

まだ頭の中には伝えたい言葉が沢山ある。だが彼女の顔を見たらすぐに口が動かなくなった。それはとても苦しそうな、悲しそうな、そしてどこか寂しそうな顔をしていた。だけど彼女が思っていることを考えるのは出来なかった。その時にそんな顔をしている理由が分からなかったからだ。

「...だから、何?」

「だから...君は何も心配することはないって事だよ」

「...違う、何もわかってないんだよ朔くんは。」

「いや、分かるよ」

「違うっ!わかってないの!!」

彼女は声を荒げた。まるで何か胸の中に溜め込んでいたものを一気に吐き出すように。

「わかってないんだよ...朔くんは。....ねぇ朔くん。朔くんは私と付き合って何がしたいの。自分の欲望の発散?私と付き合っているっていう事実?...私には私を好きになってくれる理由が分からないんだよ...」

自分を締め付けるかのような声で発せられたその疑問は彼の胸に深く刺さった。

「俺は...ただ、君を幸せにしたいだけ」

「その君って呼び方もさ!!...私を呼んでるって感じがしないからやめてほしい。」

「わかった...」

「...でも本当に朔くんとは付き合えない。ごめんなさい。...さよなら」

「待って!」

彼女は彼の言葉を受けてもなお彼に背を向けて去っていった。次第に彼女の姿は遠のいていきやがて見えなくなると彼はその場に崩れ落ちて誰にも聞こえないように小さく泣いた。

「なんでっ...俺には分かんないよっ.......」

                  *           *

気付けば窓の外に降る雪は勢いを強めて道を白く染めている。すると廊下から誰かが歩いてきたので視線を移す

「おにぃー、ちょっと手伝ってー」

「あぁ、分かった今行く」

今回帰省をしようと思ったのは勿論去年帰れていなかったというのもある。だが密かに胸の中に抱いている事があった。

「...今年はみんなが集まるんだよな。それじゃああの子も来るのか...」

「ん?どしたの?」

「いーや、何でもない。気にすんな」

沙亜夜には怪訝な目で見られたが別に今更気にした所でどうすることも出来ないので沙亜夜の横を通り抜けてリビングへと向かう。

「...おにぃ、まだあの事気にしてるのかな....」

皆様、「仮面の外し方」第一章はいかがでしたでしょうか!!

現在、同時にもう一作品の連載をしている最中なのですけれども一言言わせてもらいます。

「「「しんどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」と。

いやほんとにしんどいんですよ。(とか言いながら実際に書いているときにはウッキウキで書いています)

え?ウキウキ??な、なんの話です?

それよりも仮面の外し方第一章どうだったでしょうか?私的にはこんなにも長い章を書いたことがないので現在終わった後ですけれどもすごく達成感で埋め尽くされています。もしよろしければ感想等で「ここがよかったー」とか「ここはちょっとなー」の様な事をお聞かせさせてもらえたらと思っています!

そしてここまで読んでくださった読者の方々、いつも感謝しております。これからも見ていただけたらもう泣いて喜びます。そして今回の後書きからおしゃんな言葉を添えさせていただき後書きを終わりとさせていただきます。

では。あなたに今日一日不幸が訪れませんように

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