朝カレー、食べてみる?
『カレー』のアイデアはアンマンマンさまからいただきましたが、実際にはカレーではありません……
朝、とても楽しかった夢から目覚めると、俺はうんこになっていた。
「あー……楽しかったなぁ……う、うんこですと!?」
一瞬でどんな夢だったか忘れてしまった。糞!
布団がうんこ(俺)で汚れている。広範囲に渡ってうんこ色だ。でもそれは気にしない。なぜなら俺自身がうんこだから。クソ虫が自分を汚いと思うだろうか?
立ち上がろうとしたが、骨がなかった。うんこに立ち上がることはできないのだと知った。だから、俺はそこにベチャッとしたまま、考えた。
『なぜ……俺は……うんこになっているんだ?』と。
すると部屋のドアが外から開いて、妹の朝美が入ってきた。
「お兄ちゃーん、学校遅れるよー、うわ、うんこ!?」
朝美はキョロキョロと部屋を見回し、ダッシュで出て行くと、すぐにおおきなビニール袋を持って戻ってきた。
使い捨て手袋をした手で、俺をかき集め、その中に入れはじめる。
必死な顔に、額に汗が滲んでいる。
どうやら兄がしてしまった寝うんこの証拠を隠滅してくれようとしているようだ。
きっと寝うんこをしてしまった兄は恥ずかしさにどこかへ逃げ出したと思っているのだろう。
このうんこが、俺自身なのに……。
階下のキッチンへ下りると、食卓についていたスマホ中毒の父が顔を上げ、嬉しそうに声をあげた。
「おぉ、朝美! それはなんて美味そうなカレーだよ!?」
反抗期の妹は、あかるい声で、父に言った。
「朝はやっぱりカレーだよね? 朝カレー、食べてみる?」
向こうのほうで母がニヤリと笑うのが見えた。
その瞬間、俺は悟った。
これはすべて母が仕組んだことだ、と──
俺がうんこになったのも
妹が朝からうんこ掃除をすることになったのも
父が俺をうんこだと知らずに今、食べようとしていることも
俺からどうやらカレーのいい匂いがしているらしいことも!
ここまで考えて、気づいた。
俺は本当に、うんこではなく、カレーなのでは?
しかし父は俺を一口食うなり、吐いた。
忘れてた。
父は嗅覚が鈍感だったということを──
ニヤニヤしながら朝美が父に聞く。
「うんこうまい?」
やはりうんこだったようだ。
そんな絶望的な夢から目が覚めると、俺は妹の唇の左下にあるホクロになっていた。
「あぁ……絶望的な夢だった……ほ、ホクロ!?」
一瞬でどんな絶望的な夢だったかを忘れられてよかったよ。




