たったひとりの部員
放課後、俺は屋上に続く重い鉄の扉を開けた。けど、外の蒸し暑さに耐えきれずにまた閉める。そして、その前にしゃがみ込んだ。
——あの部、部員ゼロで廃部寸前なんだぜ?
野田の言葉を思い出すと、やる気がどんどん削られていく。部活なんて、一度も参加したことが無いけど、少しは青春らしいことが出来るんじゃないの? って希望はほんの少しあった。
それなのに……部員が誰も居ないのなら、その希望は粉々に砕ける。
「もっと考えて入部すれば良かった……」
頭を抱える俺の耳に、階段をのぼる足音が聞こえてきた。俺は立ち上がり、その主をじっと待つ。
「あ、暁君。早いですね」
「早いですね、じゃ、ねーよっ!」
恨みのこもった目で先生を睨んでも、先生より身長の低い俺では迫力が出ない。残念なことに。
けど、出せるだけの低い声で先生に俺は言った。
「部員、誰も居ないってのは本当?」
「ええ、本当です。ですから暁君、今日から君が部長です」
「は? 部長?」
「ええ。年に何回か各部の部長が集まる会議がありますので、それに出席して下さいね」
「……」
とんとんと話を進める先生に、俺は何と言い返せば良いのか言葉が見つからなかった。
入部初日に部長に任命。こんなぶっ飛んだこと、ある?
俺が口をぽかんと開けて突っ立っていると、先生は「はぁ……」と息を吐きながら言った。
「僕は言いましたよね。慎重に考えて入部しろって」
「……ハイ。おっしゃいました……」
「あの時、僕の言葉を真剣に聞いてくれていれば、こんなことにはならなかったんですよ?」
「……今から、変更というのは可能でしょうか?」
俺の言葉に、先生は校長の判子が押された入部届をそっと懐から取り出して見せる。
「もう、受理されてしまいました」
「……」
「暁君、君は今日から晴れて僕が顧問を務める天体観測部の部員です。どうぞ、よろしくお願いします」
差し出された大きな大人の手のひらを、俺は力無く握った。