企業学校とプログラム
※マヤルインダストリーは架空の会社です。
どうかよろしくお願いいたします。
「あった!あったよのぞみっち!私の受験番号!」
「おめでとうすうちゃん。一緒に通よおうね」
「私が受かったのも全部のぞみっちのおかげだよ」
「どういたしまして。あとさんづけでしょ?」
「あう……そうでした。ありがとうノゾミさん」
「二人きりの時は好きに読んでいいからねスウさん」
スウがノゾミに感謝を示す中ノゾミは優しく言う。
「今年もマヤル中高一貫校の倍率高かったね」
「そりゃマヤルインダストリーが経営する学校だもの」
「大企業だもんねマヤル。入学すると就職楽だし」
合格発表の帰り道、スウとノゾミの会話が弾む。
「部活どうする?」
「将来性考えるならやっぱプログラムっしょ」
合格発表を受けスウの家はごちそうが出された。
時間はあわただしく流れ、入学式を迎える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
入学式と体験入部を終え、部動初日がやってきた。
「はわー、ここにいる子みんなプログラム希望?」
「そうよスウさん。プログラミング部入部希望者ね」
きょろきょろとスウは周りを見渡す。
「言語どうするよ?俺はC言語にした」
「オレはJAVA。やっぱネット用がいいっしょ」
「僕COBOL」
「COBOLって絶滅危惧だろ?」
「うん。だから覚えておくと良いかなって」
楽しげな会話がスウの耳に届く。
(なに言ってんのかちんぷんかんぷだよ……)
スウはノゾミをチラッと見る。
「私はSwiftPlaygroundsとPerl」
にこやかにノゾミはスウに言う。
(私は学校の授業でやったぐらいなのにー!)
スウが心の中で叫ぶ。
「今年も入部希望者が大勢だな」
顧問の先生が教室に姿を見せた。
ざわつきが次第に落ち着いていく。
「これから入部テストをします」
みんなのレベルを知りたいと顧問の先生が話す。
その声に続いて教室の扉が開く。
女性の先生や先輩たちが家電製品を運んできた。
「この家電製品はすべて我々が作った商品です」
「困ったことにエラーが出て故障中なの」
顧問の先生の後に女性の先生が言葉を続ける。
「エラーの原因を見つけて直せたら合格とします」
先輩たちがゴーグルと杖と端末を手渡し始めた。
「そのゴーグルでプログラムコードが見えるからね」
「杖はなんのために?」
「プログラムって魔法っぽいでしょ♪」
生徒の質問に女性の先生が抑揚をつけて答える。
(語尾に♪があると答えやすい気がする……)
会話のやり取りからぼんやりとスウは思う。
「冗談はさておき昔トラブルがありました」
コホンと咳払いをして顧問の先生は話し始める。
「修理依頼の我々の商品にウイルスがあったのです」
教室がざわつく。
「産業スパイの仕業と判断し、対策結果になります」
静かになった後、顧問の先生が会話を続けた。
「端末を守るために杖からコードを発信すると?」
「そういうことです」
「家電製品は順番に好きなの選んでいいわよ」
★ ☆ ☆ ☆ ☆
順番待ちの中、スウは考える。
(ウイルスってなんだろ?病気とかかな?)
「コンピューターウイルスだからね」
ノゾミがスウに小声で教えた。
「マヤルインダストリーの情報を盗もうとしたのよ」
簡潔にまとめノゾミはスウに要点だけを伝える。
「はわー悪い人もいるものねえ――って私の番だ」
「あこの電子レンジうちで使ってる」
スウは親近感を持って電子レンジを手に取った。
「ならそれにする?」
「はい!そうします!」
女性の先生にスウは元気に答える。
やがて全員に家電製品がいきわたった。
「残りは先輩たちが直します」
「修理する場所は個室ですか?」
「はい。それぞれに部屋が用意してあります」
顧問の先生と生徒のやり取りにスウは凍りつく。
(ここでみんなでワイワイやると思ってたよ)
「理系だからですか?」
とある生徒がイラついた様子で質問を飛ばす。
「先生の担当科目は国語です」
顧問の先生が落ち着いた様子で答えた。
「アンコンシャスバイアスは視野を狭くしますよ」
偏見や思い込みがあると顧問の先生は指摘する。
「確かに理系の人には秘密主義な人もいるわ」
「それは文系も一緒です」
「社会では間に合うかどうかが求められてるの」
「文系の考えと理系の考えをうまく織り交ぜような」
「わかりました」
そう答えると、生徒は家電製品を返却に来た。
数人の生徒がそれに続く。
「受ける人はこっちへ」
顧問の先生の案内に従い、何人かは動き始める。
立ち尽くすスウの前に女性の先生がやってきた。
「スウさんはどうする?」
「あのその私プログラムは授業程度で!」
「大丈夫よ。私もそうだから」
女性の先生はスウににっこりとほほ笑む。
「ホントですか?」
「ええ。VBAのマクロを画面操作で組めるぐらい」
「なら私やってみます!」
「スウさんの答えを見せてね」
「はい!あと台車借りていいですか?」
スウは借りた台車に電子レンジを乗せる。
そして台車を引いて個室へ向かっていった。
★ ★ ☆ ☆ ☆
「えーっとどうしようかな」
個室を見渡しながらノゾミは考えていく。
「先生たちだいぶヒントくれたよねー」
ノゾミは掃除機の電源を入れ画面を操作する。
「E-03か」
そうつぶやくとノゾミは電源を消し個室を探す。
「マニュアルは……ペーパーレスがあったんだっけ」
ノゾミは手を止め掃除機をぐるぐる回し始めた。
「あった!型番!」
掃除機の型番を見つけるとノゾミは端末を出す。
「マヤル 掃除機 型番っと」
検索すると画面にマヤルのマニュアルが表示された。
「IDとパスワード……先生に聞こう」
先生が教えてくれたIDとパスワードを入力する。
「エラーコード一覧は――29ページか」
端末を操作してエラーコードを探す。
「吸い込みが原因……一応やっておこう」
ものは試しとノゾミは個室にあったブラシを取る。
吸い込み口を清掃して再度電源を入れた。
「E-03は一緒。なら内部のプログラムが問題」
ノゾミはゴーグルをかける。
そしてウイルス対策プログラムを走らせた。
「ウイルスは大丈夫。ようやくコードね」
ノゾミはそう言ってプログラムの修復を始める。
★ ★ ★ ☆ ☆
(なにをどうすればいいんだろ?)
スウは掃除機とにらめっこしていた。
(いつもならのぞみっちが教えてくれたからなあ)
小学校の頃を思い出し、スウは思い出にひたる。
(頼りすぎてたね、私)
スウはそう思いコンセントにプラグを差し込む。
(自分で選んでここに来たんだしひとりでやろう)
電子レンジの画面をスウは見つめる。
(E-05かあ……なんだろ?これ)
時間だけが流れていく。
コンコンコンと扉のノック音をスウは聞く。
「はーい」
「どう?できた?」
女性の先生が様子を見にやってきた。
「えーとその……」
しどろもどろになってスウは答えを考える。
「ひとりじゃ寂しくて」
「そうよね、急にひとりじゃ寂しいわよね」
スウの回答に女性の先生は理解を示す。
「そういうはね、考え方を変えるといいかも」
「考えを変える?」
おうむ返しにスウは聞き返す。
「ひとりの時間は孤独って考えを逆から見るの」
女性の先生はスウの目を見て優しく語る。
「そうするとひとりの時間は自由時間になるの」
「自由時間……」
「SNSをやっても動画見ても音楽に癒されても」
「なにやってもいいんです?」
「そうよ、復習や考える時間にあてても、ね?」
復習と聞き入部テストの説明をスウは思い出す。
(いろいろあったなあ。プログラムの言語とか)
スウの頭の中で出来事がよみがえる。
「先生、このテストってどうすれば合格なの?」
「時間内に杖とプログラムで修理を終えること」
「やっぱりプログラムか――ってあれ?」
スウの頭にある考えが浮かぶ。
「先生、プログラムっていろいろあるんですよね?」
「そうよ。たくさんあるわね」
「ならこの電子レンジはどんなプログラム言語?」
「スウさんが読めるプログラム言語よ」
「え?どうやって?」
女性の先生の言葉にスウは首をかしげる。
「それは企業秘密かな♪」
朗らかに女性の先生は言葉を返した。
(あれ?てことは――ひょっとして)
スウの脳裏に考えがひらめく。
(ものは試し!やるだけやってみよう!)
杖を手にしてスウは言葉を紡ぐ。
「言葉よ言葉。おりてきて」
スウの様子を女性の先生は真剣に見守っていた。
「機械をなおす妖精よ、私の前にあらわれて」
杖の先端が光るとスウは言葉を強めて言う。
「召喚!」
スウの目の前に黄色い綿毛が下りてきた。
タンポポを思わせる綿毛から顔と翼が形どる。
(なんかヒヨコみたい……)
スウはふわふわ浮かぶ妖精を見つめた。
「まず名前を妖精につけようか」
「え?あ、はい――えーと……この子はパルです!」
パルと名付けられた妖精は嬉しそうに鳴く。
そしてスウの周りを飛びまわる。
「パル、プログラムになって電子レンジなおせる?」
「パルッピー!」
一声鳴くとパルは0と1の数式に姿を変えていく。
数式は長いコードとなり電子レンジを通り抜けた。
電子レンジの画面からエラーの表示が消える。
「やった――んですよね?」
「合格よ♪魔法使いとしても」
前半は朗らかに後半は小声で女性の先生は答えた。
★ ★ ★ ★ ☆
「まさか魔法がこの世にあるなんて……」
「内緒で受け継がれてきたの」
女性の先生がスウに小声で話す。
「まさかはこっちもだからね♪」
どうしてとスウが聞き返す。
「この科学万能の世の中で魔法を使うってこと」
「あはは。友達がきっと受かるから私も入りたくて」
スウは乾いた笑いしながら話す。
「友達か。どんな事教えてもらったの?」
「最近なら花粉症のアジュバント効果です」
「花粉症の症状を重くするやつね」
女性の先生は即答して会話を続ける。
「言葉で知ることは大切よ。友達と同じぐらいね」
ネットの知識は氷山の一角と、女性の先生は言う。
「ノソミさんならもう合格して待ってるわよ」
女性の先生は杖をケースに入れてスウに手渡す。
「魔法は企業秘密。いいわね?」
「はいわかりまし――あ!」
「どうしたの?」
「受かった理由どうしよう?なんて答よう?」
「部活終了までに考えてね♪」
女性の先生はスウに声をかけ個室を後にする。
(なにか理由なにか理由なにか理由――!)
スウは考えを巡らせて合格理由を探す。
「パルッピ?」
ふしぎそうにパルはスウを見つめ消えていく。
★ ★ ★ ★ ★
「そうよ!企業秘密!そうしとこう!」
部活終了のチャイムと共ににスウは答えを出した。
「あれ?パルは?先生は?」
スウは個室をきょろきょろと見渡す。
「あそうだ!のぞみっちが待ってる!」
慌ててスウは帰り支度を始め友達に会いに向かう。




