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イベント・春 (2025)

企業学校とプログラム

※マヤルインダストリーは架空の会社です。

 どうかよろしくお願いいたします。

「あった!あったよのぞみっち!私の受験番号!」

「おめでとうすうちゃん。一緒に通よおうね」

「私が受かったのも全部のぞみっちのおかげだよ」

「どういたしまして。あとさんづけでしょ?」

「あう……そうでした。ありがとうノゾミさん」

「二人きりの時は好きに読んでいいからねスウさん」

 スウがノゾミに感謝を示す中ノゾミは優しく言う。

 

「今年もマヤル中高一貫校の倍率高かったね」

「そりゃマヤルインダストリーが経営する学校だもの」

「大企業だもんねマヤル。入学すると就職楽だし」

 合格発表の帰り道、スウとノゾミの会話が弾む。

「部活どうする?」

「将来性考えるならやっぱプログラムっしょ」


 合格発表を受けスウの家はごちそうが出された。

 時間はあわただしく流れ、入学式を迎える。

 

  ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

 

 入学式と体験入部を終え、部動初日がやってきた。

 

「はわー、ここにいる子みんなプログラム希望?」

「そうよスウさん。プログラミング部入部希望者ね」

 きょろきょろとスウは周りを見渡す。

 

「言語どうするよ?俺はC言語にした」

「オレはJAVA。やっぱネット用がいいっしょ」

「僕COBOL」

「COBOLって絶滅危惧だろ?」

「うん。だから覚えておくと良いかなって」

 楽しげな会話がスウの耳に届く。

(なに言ってんのかちんぷんかんぷだよ……)

 スウはノゾミをチラッと見る。


「私はSwiftPlaygroundsとPerl」

 にこやかにノゾミはスウに言う。

(私は学校の授業でやったぐらいなのにー!)

 スウが心の中で叫ぶ。

 

「今年も入部希望者が大勢だな」

 顧問の先生が教室に姿を見せた。

 ざわつきが次第に落ち着いていく。


「これから入部テストをします」

 みんなのレベルを知りたいと顧問の先生が話す。

 その声に続いて教室の扉が開く。

 女性の先生や先輩たちが家電製品を運んできた。

 

「この家電製品はすべて我々が作った商品です」

「困ったことにエラーが出て故障中なの」

 顧問の先生の後に女性の先生が言葉を続ける。

「エラーの原因を見つけて直せたら合格とします」

 先輩たちがゴーグルと杖と端末を手渡し始めた。

 

「そのゴーグルでプログラムコードが見えるからね」

「杖はなんのために?」

「プログラムって魔法っぽいでしょ♪」

 生徒の質問に女性の先生が抑揚をつけて答える。

(語尾に♪があると答えやすい気がする……)

 会話のやり取りからぼんやりとスウは思う。


「冗談はさておき昔トラブルがありました」

 コホンと咳払いをして顧問の先生は話し始める。

「修理依頼の我々の商品にウイルスがあったのです」

 教室がざわつく。

「産業スパイの仕業と判断し、対策結果になります」

 静かになった後、顧問の先生が会話を続けた。

「端末を守るために杖からコードを発信すると?」

「そういうことです」 

「家電製品は順番に好きなの選んでいいわよ」

 

  ★    ☆    ☆    ☆    ☆

 

 順番待ちの中、スウは考える。

(ウイルスってなんだろ?病気とかかな?)

「コンピューターウイルスだからね」

 ノゾミがスウに小声で教えた。

「マヤルインダストリーの情報を盗もうとしたのよ」

 簡潔にまとめノゾミはスウに要点だけを伝える。

「はわー悪い人もいるものねえ――って私の番だ」


「あこの電子レンジうちで使ってる」

 スウは親近感を持って電子レンジを手に取った。

「ならそれにする?」

「はい!そうします!」

 女性の先生にスウは元気に答える。

 

 やがて全員に家電製品がいきわたった。

「残りは先輩たちが直します」

「修理する場所は個室ですか?」

「はい。それぞれに部屋が用意してあります」

 顧問の先生と生徒のやり取りにスウは凍りつく。

 

(ここでみんなでワイワイやると思ってたよ)

「理系だからですか?」

 とある生徒がイラついた様子で質問を飛ばす。

「先生の担当科目は国語です」

 顧問の先生が落ち着いた様子で答えた。


「アンコンシャスバイアスは視野を狭くしますよ」

 偏見や思い込みがあると顧問の先生は指摘(してき)する。

「確かに理系の人には秘密主義な人もいるわ」

「それは文系も一緒です」

「社会では間に合うかどうかが求められてるの」

「文系の考えと理系の考えをうまく織り交ぜような」

「わかりました」

 そう答えると、生徒は家電製品を返却に来た。

 数人の生徒がそれに続く。

「受ける人はこっちへ」

 顧問の先生の案内に従い、何人かは動き始める。

 

 立ち尽くすスウの前に女性の先生がやってきた。

「スウさんはどうする?」

「あのその私プログラムは授業程度で!」

「大丈夫よ。私もそうだから」

 女性の先生はスウににっこりとほほ笑む。


「ホントですか?」

「ええ。VBAのマクロを画面操作で組めるぐらい」

「なら私やってみます!」

「スウさんの答えを見せてね」

「はい!あと台車借りていいですか?」

 スウは借りた台車に電子レンジを乗せる。

 そして台車を引いて個室へ向かっていった。

 

  ★    ★    ☆    ☆    ☆

 

「えーっとどうしようかな」

 個室を見渡しながらノゾミは考えていく。

「先生たちだいぶヒントくれたよねー」

 ノゾミは掃除機の電源を入れ画面を操作する。

「E-03か」

 そうつぶやくとノゾミは電源を消し個室を探す。

「マニュアルは……ペーパーレスがあったんだっけ」

 ノゾミは手を止め掃除機をぐるぐる回し始めた。

「あった!型番!」


 掃除機の型番を見つけるとノゾミは端末を出す。

「マヤル 掃除機 型番っと」

 検索すると画面にマヤルのマニュアルが表示された。

「IDとパスワード……先生に聞こう」

 

 先生が教えてくれたIDとパスワードを入力する。

「エラーコード一覧は――29ページか」

 端末を操作してエラーコードを探す。

「吸い込みが原因……一応やっておこう」

 ものは試しとノゾミは個室にあったブラシを取る。

 吸い込み口を清掃して再度電源を入れた。

「E-03は一緒。なら内部のプログラムが問題」

 ノゾミはゴーグルをかける。

 そしてウイルス対策プログラムを走らせた。

 

「ウイルスは大丈夫。ようやくコードね」

 ノゾミはそう言ってプログラムの修復を始める。


  ★    ★    ★    ☆    ☆


(なにをどうすればいいんだろ?)

 スウは掃除機とにらめっこしていた。

(いつもならのぞみっちが教えてくれたからなあ)

 小学校の頃を思い出し、スウは思い出にひたる。

(頼りすぎてたね、私)

 スウはそう思いコンセントにプラグを差し込む。

 

(自分で選んでここに来たんだしひとりでやろう)

 電子レンジの画面をスウは見つめる。

(E-05かあ……なんだろ?これ)

 

 時間だけが流れていく。

 

 コンコンコンと扉のノック音をスウは聞く。

「はーい」

「どう?できた?」

 女性の先生が様子を見にやってきた。


「えーとその……」

 しどろもどろになってスウは答えを考える。

「ひとりじゃ寂しくて」

「そうよね、急にひとりじゃ寂しいわよね」

 スウの回答に女性の先生は理解を示す。

 

「そういうはね、考え方を変えるといいかも」

「考えを変える?」

 おうむ返しにスウは聞き返す。

「ひとりの時間は孤独って考えを逆から見るの」

 女性の先生はスウの目を見て優しく語る。

「そうするとひとりの時間は自由時間になるの」

「自由時間……」

「SNSをやっても動画見ても音楽に(いや)されても」

「なにやってもいいんです?」

「そうよ、復習や考える時間にあてても、ね?」

 復習と聞き入部テストの説明をスウは思い出す。


(いろいろあったなあ。プログラムの言語とか)

 スウの頭の中で出来事がよみがえる。

「先生、このテストってどうすれば合格なの?」

()()()()()()()()()()()()()()()()こと」

「やっぱりプログラムか――ってあれ?」

 スウの頭にある考えが浮かぶ。

 

「先生、プログラムっていろいろあるんですよね?」

「そうよ。たくさんあるわね」

「ならこの電子レンジはどんなプログラム言語?」

「スウさんが読めるプログラム言語よ」

「え?どうやって?」

 女性の先生の言葉にスウは首をかしげる。

「それは企業秘密かな♪」

 朗らかに女性の先生は言葉を返した。

(あれ?てことは――ひょっとして)

 スウの脳裏に考えがひらめく。


(ものは試し!やるだけやってみよう!)

 杖を手にしてスウは言葉を紡ぐ。

 

「言葉よ言葉。おりてきて」

 スウの様子を女性の先生は真剣に見守っていた。

「機械をなおす妖精よ、私の前にあらわれて」

 杖の先端が光るとスウは言葉を強めて言う。

「召喚!」

 

 スウの目の前に黄色い綿毛が下りてきた。

 タンポポを思わせる綿毛から顔と翼が形どる。

(なんかヒヨコみたい……)

 スウはふわふわ浮かぶ妖精を見つめた。

「まず名前を妖精につけようか」

「え?あ、はい――えーと……この子はパルです!」

 パルと名付けられた妖精は嬉しそうに鳴く。

 そしてスウの周りを飛びまわる。


「パル、プログラムになって電子レンジなおせる?」

「パルッピー!」

 

 一声鳴くとパルは0と1の数式に姿を変えていく。

 数式は長いコードとなり電子レンジを通り抜けた。

 

 電子レンジの画面からエラーの表示が消える。

「やった――んですよね?」

「合格よ♪魔法使いとしても」

 前半は朗らかに後半は小声で女性の先生は答えた。

 

  ★    ★    ★    ★    ☆

 

「まさか魔法がこの世にあるなんて……」

「内緒で受け継がれてきたの」

 女性の先生がスウに小声で話す。

「まさかはこっちもだからね♪」

 どうしてとスウが聞き返す。

「この科学万能の世の中で魔法を使うってこと」


「あはは。友達がきっと受かるから私も入りたくて」

 スウは乾いた笑いしながら話す。

「友達か。どんな事教えてもらったの?」

「最近なら花粉症のアジュバント効果です」

「花粉症の症状を重くするやつね」

 女性の先生は即答して会話を続ける。

「言葉で知ることは大切よ。友達と同じぐらいね」

 ネットの知識は氷山の一角と、女性の先生は言う。

「ノソミさんならもう合格して待ってるわよ」

 女性の先生は杖をケースに入れてスウに手渡す。

 

「魔法は企業秘密。いいわね?」

「はいわかりまし――あ!」

「どうしたの?」

「受かった理由どうしよう?なんて答よう?」

「部活終了までに考えてね♪」

 女性の先生はスウに声をかけ個室を後にする。


(なにか理由なにか理由なにか理由――!)

 スウは考えを巡らせて合格理由を探す。

「パルッピ?」

 ふしぎそうにパルはスウを見つめ消えていく。

 

  ★    ★    ★    ★    ★

 

「そうよ!企業秘密!そうしとこう!」

 部活終了のチャイムと共ににスウは答えを出した。

「あれ?パルは?先生は?」

 スウは個室をきょろきょろと見渡す。

 

「あそうだ!のぞみっちが待ってる!」

 慌ててスウは帰り支度を始め友達に会いに向かう。


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