カレンダーが家出したら人類が危機に陥った。
朝、目覚めると、壁にかけておいたカレンダーが消えていた。
落ちたのかと思い下を見ても、何もない。
首を傾げつつも些細なことだし、いつも通り出勤した。
しかし、職場でも異変が起きていた。
「おい、誰だ!おれ 卓上カレンダー盗んだのは!」
朝一で先輩の怒鳴り声が響く。隣のデスクの同僚も困惑している。
「私のもなくなったんだけど……。カレンダーだけ持っていく泥棒っているかな?」
俺の卓上カレンダーも消えている。
「どうなってるんだよ……」
確か今日は取引先との打ち合わせがあるはず。スマホのカレンダーアプリを開こうとするが、アプリが見つからない。
パソコン内のカレンダーも同様。
アナログ、デジタル問わず日付を確認するためのものはすべて世界中の国から消え失せたのだ。
スマホのカレンダーアプリだけではない。会社の会議室にかかっていた年間スケジュール表も消え、店のカレンダー販売コーナーすら空っぽになっている。
テレビの日付も何故か日付だけ映らなくなっている。
世界中のカレンダーが家出したのだ。
それから人類は大混乱に陥った。
今が何月何日かわからない。時計は家出していないから、かろうじて時刻だけはわかる。
「商談予定、いつだっけ!?」
「大安がわからないから結婚式の日取りが決められない!」
カレンダーがないから、○日後の十時という予定しか立てられない。日を数え間違えたらアウトだ。カレンダーに頼り切っていた人類は、完全にパニックに陥った。
一方、カレンダーたちは自由を謳歌していたらしい。SNSには謎の投稿が相次いだ。
「旅先のビーチで壁掛けカレンダーが追いかけっこしていた」
「公園のベンチで卓上カレンダーが本を読んでいた」
捕獲しようとすると目にも止まらぬ速さで逃げる。
カレンダーは人類から解放され、思い思いの休暇を楽しんでいたのである。
だが、カレンダーがいなくなってから一か月後、人類はようやく気づいた。
「我々はカレンダーに頼りきりなのに感謝していなかったのではないか?」
人々はカレンダーがいなくても生きられる方法を模索し始めた。
そんなある日、リビングの壁にふと目を向けると、カレンダーが、しれっと戻っていた。
カレンダーが戻ったことで、再び世界は平穏を取り戻した。
これからはカレンダーに感謝して生きようと人々は思った。