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恋愛小説短編集

いや、むしろ俺のほうが義妹のことが好きだが?

「ただいま! 愛しのマイリトルシスターちゃん!」


 帰宅してすぐさま俺は義妹にそう愛を伝える。

 とどけ! 君にこの思い!


「……またそれ? いい加減に諦めたら?」


 彼女、じゅんは俺の妹だ。

 正式に血がつながった妹ではなく、義妹だが。

 

 純はいわゆる引きこもりと呼ばれる人だ。

 学校でいじめにあったのか、はたまた他の理由があったのか……。

 根掘り葉掘り聞きだす趣味はないので今まで問い詰めたことはない。


「どうせまた一緒に学校に行こうって言うんでしょ?」


 その通りだ。

 何故そんなことをするかって?

 答えは単純明快、彼女の可愛らしさを世界中の人たちと分かち合いたいのさ。

 ここまで可愛らしい彼女が誰の目にも触れないなんて、お兄ちゃん耐えきれない!


「頼む! 後生だから一緒に登校しよう! もっと君のかわいいを皆に知ってほしいんだ!」


「かわっ……!」


「そうだ。 頼む、一回だけでもいいから」


「――わかったわよ。明日、学校に行く。そのかわり、一緒に登校してくれなきゃ行かないから」


 本当かい? 愛しのマイリトルシスター!

 こうしちゃおれん。義妹の可愛らしさを学校の皆に伝えるために早速夜なべをせねばなるまい。


「おにいちゃん、余計なことしなくていいからね。はい! もう寝ること」


 釘を刺されてしまった。そうなっては『義妹説明書』を作っている時間はもうない。

 残念なことだ。


 しかし収穫もあった。

 純は明日一緒に登校する約束をしてくれた。

 根は真面目な子だ。約束を破ることは絶対にない。

 かくして俺と純が一緒に学校に行くことは確定した。



 翌日一緒に登校しながらさりげなく俺は聞いた。


「そもそも今まで何で学校に行かなかったんだ?」


「この朴念仁! ――学校に好きな人がいるから。気づいたら恥ずかしくなってきて、学校に行くのが嫌になった」


 なん、だと……? 義妹に想い人がいる?

 ――なんて見る目があるやつなんだ! きっとそいつは純の魅力に気づいて、好意を向けられるようなことをしてきたに違いない。

 不登校の原因になったことは残念だが、俺はその男といい友達になれそうだ。


 その人物と仲良くなって『義妹かわいい』を共有したい。


「その男子って誰? 俺、お近づきになりたいんだが」


「おにいってデリカシーないよね。……でもこの先おにいちゃんがその人と仲良くなることは無理だから。絶対、何時何分、地球が何回まわっても」


 小学生か。

 そこまで純が言うってことは、本当に俺とは相性が悪い男性なんだろうな。



 学校についた俺らは一緒に同じ教室へ行く。

 義妹なのになぜ同じクラスへ移動するかって? それは俺らの親同士が今年再婚したばかりで、偶然クラスメイトの純が義妹になることが決定したからだ。

 両親の再婚当初はドタバタもあったが、今では無事にお兄ちゃんと義妹の関係になった。


「純ちゃんおはよう! ひっさしぶりー!」


「ちょっ、やめてよー」


 クラスメイトに引っ付かれた純は嫌そうな声をあげつつも、まんざらな様子ではなかった。

 その後ホームルームを終え授業を二時限終えたところで、純が立ち上がりこちらに来る。


「――おにい、やっぱ無理。帰りたい」


 なんてこった! このままでは愛しのマイリトルシスターが早退してしまう。

 とりあえず体調不良の原因をさりげなく聞き、保健室に行こうか? と伝える。


「いや、そうじゃなくって……。帰りたくなった原因、分かっているから。ほら、朝話した件が原因」


 つまりこのクラスに純の想い人がいるんだな。

 悪手かもしれないが非常事態だ。一体だれがその相手なのか特定して、然るべき対処をするしかない。


「で、誰がその男なんだ?」


 義妹は質問に答えない。ただ、何かを訴えるかのように俺の目を凝視する。

 ――は? もしかして好きな相手っていうのは……。


「まさか。ははっ」


「そのまさかだから」


 赤面しながら彼女はそう答えた。

 そりゃその男性に俺が出会えない理由もわかるわ。彼女の想い人はまさかの俺自身である。

 そんな好きな人と家でも学校でも四六時中一緒に居たらパンクもするはずだ。


「まぁ、なんだ。その、ある程度ガス抜きすれば何とかなるんじゃないか?」


「――ハグしてくれたら落ち着くかも」


 ここ、学校の中なんですけど。

 いいんですか? これ。 不純異性交遊にならない?

 いや、ならないはずだ。

 なんせ俺にとって純は、飽くまでもかわいいかわいい義妹だからな。


 クラスメイトの視線は痛いが、このまま早退させるよりはいい。

 ハグをするという案に乗った。


「ほら」


「ん」


 俺は両手を広げ、彼女が近づいてくるのを待った。

 そして純は俺の腕の中に納まり、満足そうに『んーっ』と声をあげながら頭をぐりぐりと俺の胸に擦り付ける。

 マーキングかな?


「頭撫でて」


「いいぞ」


 俺が頭をなでていると、彼女はじれったそうにする。


「やっぱり我慢できない」


 まさか健闘空しく彼女は帰る気になってしまったのだろうか。

 ――これ以上引き留めるのは純に悪いな。体調を崩さないうちに一旦帰宅して貰おう。


「もっと頭を撫でてほしいし、ぎゅーってしてもらいたい。もっと、もっと――」


 純さん? 若干ヤンデレ化してますよ?

 ほら、クラスの皆もこっちをずっと見ているし。


「私の『かわいい』をみんなに伝えたいんでしょ? 好きな人といる女子ってかわいいと思わない?」


 いや、俺もそう思いますよ?

 でも、時と場所、場合が問題でして……。


「――はーっ……。ほんとおにいちゃん、好き」


 俺も同意見だが負けてないし? いや、むしろ俺のほうが義妹のことが好きだが?

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