シンデレラの昔の話
「ヴィオル、どれぐらいで舞踏会に着くの?」
「それを聞く前に俺に対して言わなきゃいけないことあるよな?」
エラはワクワクしながら質問しますが、ヴィオルの声はとても低く、怒りで満ち溢れています。
「あ、ごめんごめん。すっかり言い忘れてたわ。ヴィオル、とても似合っているわ。素敵よ」
「そんな回答を求めているんじゃない。俺が欲しいのは謝罪! 無理矢理俺を女装したことを謝って欲しいんだよ」
して欲しかった謝罪とは全く異なるエラの謝罪がよりヴィオルを怒りを加速させました。
しかし、エラは少しも気にすることはありません。
「ごめんごめん。でも私の願いはヴィオルと一緒に舞踏会行くことだから行ってくれるよね」
「舞踏会に行きたいとは言ったけど、俺と行きたいなんて一言も言っていなかったよね?」
「今願ったから叶えてね」
エラの無茶振りでも、そのように強請られたら叶えないわけにはいかないヴィオルでした。
「ねぇねぇ、ヴィオル。私、今思い出したことがあってさその話を聞いてよ」
エラは話を逸らすためにヴィオルが良いよと言う返事を聞かず勝手に語り始めたのでした。
それは暑い8月の時、エラが毎年恒例の父親と母親と共に王都に遊びに行ったエラが幼いの時のことです。
最初は両親と一緒に回っていたのですが、エラは夢中になり勝手に色々な所へ行ったため気づいた時には両親と離れて一人ぼっちになってしまいました。
エラは知っている人が回りにいなかったため怖くなり大きな声で泣き始めてしまいました。
すると、1人の男の子が大丈夫かとハンカチを渡してくれたのです。
そして背中を擦ってエラが泣き止むまで擦ってくれました。
エラが泣き止むと彼はどうしたのと優しく理由を尋ねました。
エラは自分が両親と離れて独りぼっちになったこと、知らない人ばかりで怖かったことを彼にゆっくりと伝えました。
それを聞いた彼はお父さん達を探しに行こうと手を差し出し、エラはその手を取ったのでした。
彼はエラの両親の特徴を尋ねました。
エラは父親が気弱であるものの優しく、母親はしっかりとしていて話が面白いと伝えました。
彼はそんなことを聞きたいんじゃないよと笑いますが、お母さんの性格がアレクシスに似てるとも言いました。
「アレクシスってだあれ?」
「アレクシスはしっかりとしていて、面白くて、何でも知っていて、ルックスも良い王子なんだ」
彼は王子のことを次々と語りました。
エラは彼の話にしっかりと耳を傾けました。
聞けば聞くほど王子が素晴らしい人だと分かりました。
エラはほんとうに王子はすてきなひとなんだね、すごいねと笑顔で褒めました。
「それにしてもなんでたすけてくれたの?」
「可愛い女の子が困っていたら助けたくなるものだろ?」
「あなたは、やさしいね。すごい!」
「俺は家では問題ばかり起こしているよ。凄くなんかないよ」
「そんなことない! すごいもん! やさしくて、たのしましてくれたのにすごくないわけないよ。すごいよ」
彼は屈託のない笑みを浮かべありがとうと伝えたのでした。
「エラ、どこだ?」
「エラ、いるなら返事してちょうだい」
ちょうど話が終わったころ遠くから叫ぶ声が聞こえました。
エラは馴染みのある声を聞き、嬉しくなりそのまま声の聞こえる方へ向かいました。
そこには会いたかった父親と母親がいました。
両親2人はエラを見て喜び、母親は嬉しそうにエラを抱きしめました。
エラも2人に笑顔を見せたのでした。
父親はエラに大丈夫だったかと尋ねるとエラはだいじょうぶだったよと答えました。
エラは彼のことを思い出し再び先ほど通った道を走りました。
しかし、そこには彼は居らずいつもの王都の姿しか残っておりませんでした。
「私ね、あの時お礼をしっかり言えなかったことを後悔しているの。彼は王子のことをよく知っているようだったから多分かなり高位な人だわ。その上とても仲良さそうだったから乳兄弟とかそこらへんではないかしら? そう思うと今回舞踏会で会えるかもしれないなと思ったの。あの時ですら素敵だったもの。今ならもっと素敵でしょうね」
エラはその出来事を思い出し、彼にも会いたいと思いました。
エラがヴィオルの方を見ると右手を顎に当て、眉間のしわを寄せて難しそうな顔をしていました。
エラは不思議に思い、どうしたのと尋ねます。
「彼は何歳ぐらいの人だったんだい?」
「多分、私より5歳ぐらい上かな」
エラは質問に質問を返され少し戸惑いましたが、一応その質問に答えました。
その答えを聞いたヴィオルはやっぱりなと独り言を呟きます。
「エラ、それは……」
ヴィオルがそれを言い終わる前に馬車は辿りつきました。
「着いたわ。ヴィオル、行きましょう」
エラはヴィオルの手を取り、馬車から降りたのでした。