魔法使いとレッスン
「ドレスも馬車もこっちで用意するし、あと必要なのはマナーと作法だけだね」
「ほんの少し行くだけだから大丈夫じゃない?」
エラは必要ないと考えていますが、ヴィオルはあっさりとそれを否定しました。
「もしエラが大失態をやらかして悪い意味で注目を集めたらどうするの?」
「多く人がいるからバレないよ。誰も私なんて見ないって」
「甘いね。舞踏会は殿下に選ばれるための戦場さ。つまり、参加する以上ライバルってこと」
「私は王子目当てじゃないのよ!」
「周りはそう見ないの。取り敢えず、短時間でもやらかす時はやらかすんだから、まずはしないように気をつけて、万が一なんかあった場合にはその場で対応しなきゃ。身元がバレるとお義母様達も笑われものになるよ」
「それは困るわ」
エラは思わず大声を出してしまいます。
「選択肢は2つ。マナーと作法を身につけて舞踏会に行くか、行くのを諦めるか。どっちにする?」
「勿論、行くわ」
エラには行かないと言う選択肢が無かったため、即答で前者の選択肢を選びました。
ヴィオルも意気込みエラを見て安心しました。
「王様も見たいし、美味しいものだって食べたいわ」
どうやら王を見る以外にも目的はあったようです。
ヴィオルは他の人とは全く目的が違うエラを微笑ましく思いました。
「王宮の料理は美味しいから気に入ると思うよ」
「食べたことあるの?」
何気なく言ったことをエラに疑問を持たれ、ヴィオルはまあねと言葉を濁しました。
「じゃあ早速始めよう!」
これからレッスンの始まりです。
まずはカーテシーの練習。
挨拶する上で必須です。
スカートの裾を少しつまみ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足を軽く曲げ、背筋を伸ばしたまま挨拶するのです。
ヴィオルはエラに自分でカーテシーをするよう言いました。
どこまで出来るか様子を見ようと思ったからです。
継母達にも教えてもらったようだから多少は出来るだろうと高を括っていました。
しかし、エラは裾は持ち過ぎてもう少しで中が見えそうになりましたし、足も地面に付くためこのままではドレスが汚れてしまうでしょう。
また、背筋も曲がっておりカーテシーの姿は全くと言っていいほど何もありませんでした。
ヴィオルはここまで酷いと思わず、呆然としてしまいました。
これなら継母達に叱られても仕方ないだろうと思いました。
普通ならその場で匙を投げたくなると思われますが、最後まで教えようとした継母達はそれだけエラを大事にしているのだろうと感じました。
ヴィオルは本当ならば匙を投げたい所ですが、しかし、エラが行きたいと言った以上やめるわけにもいきません。
ヴィオルは骨が折れそうだと溜息をつきました。
2時間ほど経った頃、裾を持つ量は適切になり、足も付かなくなりました。
少し背筋は曲がっていましたが、カーテシーとしては十分な姿をしておりました。
次はマナーです。
料理を取る時にはトングを使い、様々な種類の料理を少しずつ取って盛り付けていきます。
料理をガッツリ食べたいエラは不満そうでしたが、それが端ないとされ、その行動をすると目立つと教えてられたためヴィオルの言うことに従うことにしました。
また、いつも大股で歩くエラに、ドレスの幅内で歩くよう指導しました。
大股で歩くとドレスに引っかるので仕方のないことでした。
その次は挨拶。
細かく教えていたら大変なので、話しかけられたらご機嫌よう、離れる時には用があるので失礼します、ダンスを誘われたら喜んでお受けいたしますとなどと最低限の受け答えを教えます。
エラはダンスを断るのは駄目なのかと尋ねましたが、それは無礼に当たるので絶対に受けるよう忠告しました。
そして最後はダンス。
誘われた時に失態をしたら、これ以上に恥をかくことはありません。
エラの顔は整っており愛嬌もあるため、王子が興味を持って誘う可能性は大いにあると思ったヴィオルは指導することにしました。
誘われた時は手を取ってエスコートしてもらい、まず最初にカーテシーをします。
そして、ダンスの際には右手を上に上げて手を握り、左手は相手の肩に置いて準備スタンバイ。
曲が始まったら相手の足の動きに合わせて自分の足を動かしてテンポを合わせます。
最後にカーテシーを再びして立ち去ります。
これが一連の流れなのですが、エラはいつもカーテシーをするのを忘れてしまいます。
また、ステップもあまり綺麗ではなくエラは毎回ヴィオルの足を踏む形となったのでした。
そうして2時間ぐらい経った後、ようやくカーテシーも忘れず足を踏むこともなくなりました。
正直に言ってヴィオルはダンスが上手くありませんでしたので、上手な殿下なら上手くやってくれるだろうと思いました。
こうしてある程度は形になったため大丈夫だろうと思い、ヴィオルはそろそろ舞踏会に行く準備をすることにしました。




