魔法使いの幼少時代
ヴィオルは父親が貴族で母親が魔女のハーフの子どもでした。
ヴィオルの父は領地の経営で忙しく、母は領地の問題を自身の魔法で解決するため様々な所へ出かけるので、ヴィオルは両親からは全くと言っても差し支えがないほど交流することがありませんでした。
そんなヴィオルを支えてくれたのが、母方の祖父でした。
彼はヴィオルをとても可愛がってくれたため、彼はほぼ毎日祖父の家に行き、祖父と一緒に戯れていたのでした。
祖父は彼に色々なことをしてくれました。
例えば、あれが食べたいと言ったらすぐに食べさせてくれたり、あそこに行きたいと行ったらすぐにひとっ飛びで連れて行ってくれたりと様々な体験をさせてくれました。
また、駄目なものは駄目としっかりといけないも教えてくれました。
ヴィオルが6歳の頃、祖父と一緒に妖精の国に行った時のことです。
その国では普段は妖精しか居らず、たまにこのように観光客が訪れるのでした。
妖精は10cmから1m程度とそれぞれ差はありますが、人間と比べるとやはり小さくとても可愛らしいのでした。
また、妖精は水や風などのようなそれぞれの加護を持っており、全員が2枚の羽を持っていました。
そんな妖精の国では争いはなくとても平和でみんなが仲良し。
ヴィオルも妖精達とはすぐに仲良くなり戯れておりました。
妖精の国に滞在して1週間たった頃、なんとこの国にある1匹の妖怪が侵入してきました。
どうやら少し結界が弱まっていたようです。
その妖怪はその国にある豊かな資源を奪うため、何匹かの妖精に怪我をさせてそのまま逃亡しようとしました。
それを止めたのがヴィオルの祖父。
彼は魔法で妖怪の体を拘束し、弱まっていた結界を急いで張り直します。
そして、怪我をした妖精達を手際良く手当てしました。
こうして、彼のおかげで被害を最小限に抑え、対処することができたのでした。
その事件が終わった後、2人は祖父の家に戻りました。
ヴィオルは祖父に魔法を教えて欲しいと懇願しました。
彼は祖父の魔法で妖精達を助ける姿を見て感心し、また、心の底から自分も祖父のように他の者達を助けたいと思ったからでした。
祖父は魔法を使うことは危険だからおいそれとは教えられないと最初は断りましたが、何度も真剣に願い出たヴィオルを見て魔法を教えることを決意したのでした。
祖父の指導はとても厳しいものでした。
少しでも気を抜くと注意され、私的な理由で魔法を勝手に使うとすぐに激怒しました。
そんな厳しい訓練に耐えたヴィオルが15歳になった頃ようやく立派な魔法使いとなったのでした。
魔法使いまでなったヴィオルにも、祖父は習い始めた時と同じように『魔法は絶対に悪用してはならない』と言い続けたのでした。
「本当に素晴らしい人でしたよ。祖父としても魔法使いとしてもね。先ほど申した通り私は祖父に懐いておりましたから、他界した時には大変悲しみましたよ。また会えないかといつも考えてしまいます」
「本当に素敵な人だったのですね。魔法使いになられたのはお祖父様のおかげでしたのね。凄いですわ」
エラはヴィオルの話を最後まで聞き、本当にヴィオルの祖父が凄い人だったと身にしみて分かりました。
「Missエラ、祖父の偉大さが分かっていただけて嬉しいです。しかし、どうして急に敬語で仰るのですか?」
「だってお貴族様なのに、失礼なことしました。凄くすみませんでした」
エラは地面に頭を付けて綺麗に土下座をしました。
ヴィオルがここまで喋り方や動作が洗礼されていたのは貴族だからと言うことも身にしみて分かったからこそ今までの無礼を精一杯謝罪したのでした。
ヴィオルは、頑張って丁寧に話そうとしているのは分かりましたが、かなり言葉の使い方がおかしいためそのことが大変気になり、また何よりもエラの思い切った行動に腰を抜かしました。
ヴィオルは急いでエラを立ち上がらせて土下座をやめさせました。
「Missエラ、そのような行為はおやめください。貴女の体が汚れてしまいます。それにわざわざ敬語を使わなくて構いませんよ」
「いや、お貴族様にあんな喋り方するのはできないのです」
ヴィオルはオロオロするエラがとても可愛らしくて思わず微笑んでしまいます。
「私は貴族と言っても私自身には権力自体はありませんから気になさる必要はありません。別に舞踏会に今伺っているわけでもありませんから、気軽に接してください。確かに敬語で頑張って話そうとしている姿も可愛いですが、気ままに楽しそうに話している姿の方が可愛いですよ」
「調子良いこと言っちゃって。お世辞上手ね」
「本心ですよ」
エラはお世辞とは言え、普段言われない可愛いと言う言葉に嬉しくも思いましたが、恥ずかしくもなり頬を赤く染めました。
「ヴィオルもそんな丁寧に話さないで気軽に話そうよ」
「いえいえ、私はこちらの話し方のほうが楽ですのでご遠慮いたします」
「でも、最初の方で俺って言ったり、やめろと命令口調になっていたよね。どうしてなの?」
エラは意地悪そうに笑みを浮かべました。
「それは……えっと……何と申しますか……えっとですね……。それは、貴女が私の体に触れたからですね、その突然のことで驚いたと申しますか……偶々ですよ。あまり気になさらないでください」
今まで冷静に対応をしてきたヴィオルが急に慌てふためく姿は可笑しくてしょうがありません。
エラは可愛いなと思いながら追い打ちをかけます。
「私、友達が欲しいの」
エラはそう言ってヴィオルの頬を触れて、「ね」と首を右に傾けました。
本来なら大変無礼な行為ですが、ヴィオルが気軽に接しろと言ったのでこのような行動を取ったのでした。
しかし、普通は恋人や夫婦以外はダンスや挨拶の時しか触れ合いません。
おまけに顔を触れるなんて特別な間柄でない限りする行為ではありません。
そんな常識を覚えていなかったエラだからこそできた行動でした。
「だからやめろって言っただろう」
その言葉を言った瞬間ヴィオルはしまったと思いましたが、完全にエラの策略に嵌まったのだと分かり降参しました。
「分かったよ。これで良いか?」
「ええ、そうしてちょうだい」
その作戦に成功したエラは満面の笑みを浮かべたのでした。