シンデレラの新たな称号
エラがふと目線をしたに下げると魔法陣が目に入りました。
「と言うか、何で私を置いて勝手に1人で行こうとしたのよ。酷いわ」
エラは指切りまでしたのに約束を破ろうとしたヴィオルに腹を立ててしまいました。
「いや、そもそも俺はエラを連れて行くことには大反対なんだ。やっぱり連れて行きたくない」
「何でよ。さっきは分かったと言ってくれたじゃない」
ヴィオルが最後まで納得はしていないのは分かっていましたが、それでも信頼して許可を出してくれたと思ったのでかなりショックでした。
「だって連れて行ったらやらかす未来しか見えないからさ」
「はい? それどういう意味よ!」
「そのままの意味だけど」
自分は後悔しないためと言う理由もありますが、もともとは助けるつもりで参戦しようと思っていたので、自分が行ったら足を引っ張るみたいな言い方をされて更に苛立ちます。
「だってエラは基本何も考えずに行動するだろう。猪突猛進と言うか、単細胞と言うか」
「猪突猛進はまだしも、単細胞は言わなくていいわ!」
「いや、事実だし」
ヴィオルがさらりと毒づくことを言うのでますます腹が立ちました。
「それがエラの良いところだし、そこが好きなところでもあるのだけれど……。でも戦時中は戦略的に行って、また臨機応変にも対応しなきゃいけないから、何も考えず突き進むエラには絶対向いていないと思うんだよな」
ヴィオルにそう言われると納得をせずにいられないことがエラには悔しくて堪りません。
「なら、ヴィオルが私をリードしてよ。出来るだけその指示に従うから。私だって役に立ちたいから、足を引っ張らないようにしたいもの。お願いします」
エラはやはり参戦したいと言う気持ちは変わりません。
エラはヴィオルに深く腰を折って頭を下げました。
「はぁ……やっぱりエラはこれぐらいじゃ折れないか……」
ヴィオルはため息をつきながらも杖を取り出します。
「エラ、辺境地に行くにしても俺の婚約者としてじゃなくて、魔女として行くつもりで行け。婚約者として連れて行ったら騎士達に何を言われるか分からないから。むしろ魔女として行った方が歓迎はされるだろうし」
「ちょっと待ってよ。私まだ魔女になってないんだけど」
「俺が魔女認定してやるよ」
エラは先程魔女になるためには試験を受けて突破しなければならないと聞いたので、まだ試験も受けたことがないのにどうやって魔女になれるのだと疑問に思ってしまいます。
「普通は師匠となる魔女や魔法使いを探して、そのもとで修行する。そして頃合いが来たら師匠から試験を出されて突破したら魔女や魔法使いになれると言う仕組みなんだけれど。まあエラなら、どの魔女や魔法使いのもとでもすぐ試験に突破して魔女になれるだろうし、問題ないだろう。試験したら最低でも1ヶ月はかかるからな。そんな時間ないし」
確かにヴィオルは6歳の時から修行をし始め、15歳の時に魔法使いになったと言っていました。
つまり、ヴィオルは9年もかけて魔法使いになったのです。
きっと祖父から魔法使いの試験を受けて突破したに違いありません。
「本当に私を魔女にしても良いの? 私はヴィオルみたいに試験どころか何の修行もしていないのに……」
エラは全くもって修行をしたことがなかったので、頑張って修行して魔法使いになったヴィオルに申し訳無さを感じたのでした。
「エラと俺の差は単純に師匠がいたかどうかだけだ。弓だって長年かけて練習してきただろう? 似たようなものさ。それにさっき言っただろう。魔女そのものだと。自分の実力信じられないのかい?」
「信じているわよ!」
ヴィオルはエラの即答に少し笑ってしまいます。
「エラ、魔女になって辺境地に行く覚悟はあるのだね」
「勿論。私の気持ちは生半可なものじゃなくてよ」
ヴィオルはエラの真剣な眼差しに意を決します。
「分かった。ならこれからエラを魔女認定するよ。名前は何が良い?」
「名前? 私の名前はエラ・アン・ヴァーンズだけど?」
エラは何で自分の名前があるのに、自分でわざわざ名付けにければならないのか理解が出来ませんでした。
「そもそもヴィオルってどんな名前だっけ? えっと……ヴィオル・アーサー・ジェームズ・ハワードだっけ? あれ? もしかしてジェームスだったりする?」
「最初のであってるよ! ヴィオルと言う名前は結構ある名前だから言うまでは気づかないと思っていたけど、まさか元貴族令嬢が王族の名前知らないとは……」
貴族だと顔は知らなくても王族の名前ぐらいは知っているので、ヴィオルは大変驚いてしまいました。
「やっぱり普通は知っているのね。お義母様やお義姉様達には王族どころか、求婚してくれた相手の名前すら知らないのかと驚いていたし……」
ヴィオルは一瞬、地方の貴族はもしかして王族の名前を知らないのかとさえ思いましたが、そんなことはなくどうやらエラが知らなかっただけのようだと分かりました。
「もしかして、陛下や殿下の名前すら覚えてないとか?」
ヴィオルは怖くなってエラに尋ねてみることにしました。
「王様の名前は、ウィリアム・アーサー・ルイ・オルガ。王子様の名前がアレクシス・アーサー・フィリップ・オルガでしょう」
「まだ良かったよ。2人の名前を知っていて」
国民だったら絶対に知っている名前を知っているだけなのにエラの場合だと安堵してしまうのでした。
「大丈夫よ。もう完全に覚えたわ。ヴィオル・アーサー・ジェームズ・ハワード!」
「それをドヤ顔で言われても反応に困るのだけど……」
取り敢えずちゃんと名前を覚えただけでも良しとしようと思いました。
1つ咳払いをして再び話題を元に戻します。
「そんなことより名前のことについて説明してなかったね。名前と言うのは魔女としての名前だ。エラ自身の名前のことじゃないよ。要するに魔女としての異名と言うことだね。因みに俺は月影の魔法使い、じいちゃんは漆黒の魔法使い、母さんは黄金の魔女。エラもこんな感じで何か命名して」
魔女や魔法使いにはそんなカッコいい名前があるとは素敵だとエラは思いました。
エラもカッコいい名前を付けたいと思いましたが、なかなか思い付きません。
「ねぇ、そもそも何で3人はその名前にしたの?」
3人の命名の仕方が分れば参考になるかもしれないと思い尋ねてみることにしました。
「単純に俺は月と影の魔力が強いから月影、じいちゃんは目の色が黒いから漆黒、母さんは髪が金髪だから黄金。正直そこまで深い意味はない」
思った以上に名付け方がシンプルだったので、エラは拍子抜けしてしまいました。
どうやらそこまで深く考える必要はなさそうなので、咄嗟に思いついた名前を口にしました。
「陽光の魔女。私は光の魔力が強いし、何より月影の魔法使いとは対比となって良いコンビって感じしない?」
「でも、エラって陽の魔力を使えるようになったのはごく最近だよね……」
「細かいことは気にしちゃ駄目なの。ここは素直に受け止めるところよ」
ヴィオルは少し引っかかりますが、自分を意識して名付けてくれたことは嬉しく思いました。
「エラ・アン・ヴァーンズをこれより陽光の魔女として認める」
ヴィオルはそう叫んで杖を振りました。
すると、エラの前に光り輝くものが現れました。
手に取ってみると、それは手の平サイズのブローチ。
黒色をした丸い形をしていて、真ん中には金色で陽光の魔女と記されていました。
「そのブローチが魔女としての証だからな」
エラは魔女として認められたことが嬉しくてたまりませんでした。
「ねぇ、ヴィオルのブローチも見たり出来る?」
ヴィオルは勿論と杖を一振りしてブローチを取り出しました。
ヴィオルのブローチも黒色で丸い形でしたが、文字は月影の魔法使いと記されてありました。
エラはヴィオルと同じブローチを持つことができ、笑みを浮かべたのでした。




