シンデレラ家の事情
彼女の話を要約すると次の通り。
実は子爵家自体はかなり昔から存在しておりましたが、もともと土地がコケ痩せておりあまり作物が育たないため、もともとそこまで裕福ではありませんでした。
そのため、使用人は少ししか居らず、夫人や令嬢が普段しないことでも一般庶民が普段行う、つまり並大抵のことは自分達で出来たのです。
エラはその時使えていた使用人達とは大変仲が良かったため、料理や掃除の仕方など多く知っておりました。
また、継母達はもともと男爵家の夫人と令嬢。
その男爵家はもともとは小さな商家でしたが、男爵は先代である彼の父親が事業を成功して男爵位を受け継いだ者でした。
そんな裕福な環境で育っていた彼女達は教養が高く令嬢としての作法は完璧だったのです。
子爵は夫人を失ったため、まだ9歳と幼いエラを1人にして仕事に出るのはためらわれました。
そのため、当時未亡人であった元男爵夫人と再婚することを決めたのでした。
再婚してから3年後、つまりエラが12歳の頃、子爵は馬車が転倒し崖から落ちて亡くなってしまいました。
この国では女の人が爵位を受け継ぐことが出来ないため爵位を失い、残された遺産もそこまで多くありませんでした。
そのため4人のうち誰かが働きに行かなければならなくなりました。
そこで、教養の高い3人は他の貴族に侍女として勤めたり、家庭教師として指導したりして外で働くことにし、あまり教育がなく家事や掃除が得意だったエラが家のことを任されたのでした。
「しかし、それはやはり虐められているのに近いのではありませんか? 普通、成人もしていない子どもを1人になんてしませんよ」
その言葉にエラの反論が始まってしまいました。
「そもそもね、この国の仕組みがおかしいの。男性優位の世の中だから、お義母様はこの土地を治めることが出来るのに爵位は受け継ぐことが出来なかった。もともとこの土地を治めていたのはお義母様と言っても差し支えはなかったわ。だってお父様は頼りなかったもの。お母様とお義母様の支えがなかったら爵位なんかとっくに無くなっていたわよ。なのにどうして、どうして優秀な2人の方がお父様のお付きにみたいな目で見られるのよ」
「それに貴族優位過ぎる社会が理由でもあるの。だってさ、貴族と同じことしているのに給料が貴族の半分以下なんだよ。勿論、王様とか爵位を持っている人が政治を治めたり、高貴な貴族の人の元に仕えていたりする人が給料が高いのは分かるよ。だって普通の人達がそんなの出来ないもん。でも、同じ貴族の所に同じ職業について同じことをやっているのにどうして給料がここまで変わんの? 貴族と言う理由だけで給料が倍以上になんのよ。そんな社会だから3人で働いてもらわなければ、私達の生活も苦しいの。だから仕方ないことなのよ」
そして最後に次のように叫びました。
「それにお義母様は私を虐めてなんかない!お義母様はお父様や私をきちんと愛してくれているのよ。そうでなければこんな管理にお金が掛かる家や土地をわざわざ今も持っておかないわ。私何度売ろうと言ったか……。でもお母様はお父様が残した大事な遺産なのだから売るわけにはいかないと聞かなくて……。それに私が16歳になるまでは出来るだけ早く帰ってきてくれたのよ。お義姉様達も私のことが嫌いだったらあんなに熱心に指導なんてしないわよ。私はね、お義母様達を愛してるし、本当に尊敬しているの。血こそ繋がっていないけど自慢の家族なのよ」
言いたいことを言い終えると彼女はとうとう泣き始めてしまいました。
ヴィオルは彼女にハンカチを差し出し、彼女の背中をさすって慰めます。
「本当にすみませんでした。どうやらこちらの勘違いだったようです。しかし、優しいお義母様だと言うのならどうして貴女を舞踏会に連れて行かなかったのでしょうか? 落ち着いてからで構わないので理由をお聞かせ願いますか?」
10分ぐらいしてエラはようやく泣き止みゆっくりと語り始めました。
「本当はね、お義母様達は私も連れて行きたかったの。絶対良い機会になるからって、貴女なら心の底から愛してくれる人が現れるはずだからって。でもね、私が嫌だって意地を張って連れて行ってもらわなかったのよ。話していたから分かると思うけど、私はとても綺麗に喋れないし、正しい言葉遣いだってあまり出来ないわ。それに貴族界のマナーもよく分からないしね。お義姉様達は私を熱心に指導もしてくれたけど、かなりハードだったし、あまりにも難しすぎて私には出来なかったのよ。私はどうやら庶民に近い令嬢だったから今さら完璧にしようとしても無理だったみたいなのね。おまけに作ってもらったらそれだけお金も嵩むしね。だから私はお義母様達と一緒に行くのはやめたの。私と一緒に行ったらお義姉様が恥かいちゃうからさ。本人達は最後まで連れて行こうとしてくれたけど、私は仮病使ってお義母様には諦めてもらったわ」
そう言ってエラは自嘲しました。
ヴィオルは行きたくても行くことが出来なかったエラを可哀想だと思いましたが、とある疑問も浮かびました。
「Missエラ、お義母様達が貴女を連れていけなかった理由はよく分かりました。しかし、では何故わざわざ自らドレスを作ってまで1人で舞踏会に行こうと思われたのですか?行きたいなら、彼女達と一緒に行けば済む話だったのではありませんか?」
エラは少しその質問に戸惑いましたがその理由を話すことにしました。
 




