シンデレラはメイド長と対面する
メイド長と対面したエラ。
第一印象はかなりクールで何でも出来る感じがしました。
継母と同じく厳しそうな雰囲気が漂っています。
継母は実際に厳しいものの優しさも知っているため怖く感じませんが、メイド長はどんな人かまだ知らないため、エラはかなりの不安を覚えます。
「私、ランカスター公爵家のメイド長を担っているスカーレット・ルイーズ・バーナードと申します。今回は奥様から貴女の指導をするよう頼まれました。よろしくお願いします」
とても礼儀正しく表情を一切変えないため、より厳しそうな印象を持ちました。
しかし、この雰囲気に飲まれてはいけない、ちゃんと気を引き締めないと一呼吸して背筋をピンと伸ばします。
「今回こちらの屋敷で雇ってもらうことになりました、エラ・アン・ヴァーンズとです。どうぞよろしくお願いします」
エラはメイド長にカーテシーをとりました。
「どうやら元令嬢だけあって最低限のことは出来るようですね。本来なら募集した中から私が雇うかどうか決めるのですが、奥様が決めるとはこんなケース初めてです。しかし、辞めさせるかどうかを決めるのは私ですから、奥様に気に入られているとは言え調子に乗らないように」
目をギランと光らせてかなり強い口調で当たるメイド長。
相手が元令嬢とか関係なく、どうやら公爵夫人が自分の相談もせず勝手に採用したことが気に食わないようです。
自分の仕事を奪われたと思ったのかもしれませんし、自分を信頼していないと感じたのかもしれません。
どう言う理由なのかまでは分かりませんが、嫌味たらたらに忠告したことは、エラに会う前から気に入らないと言うことをよく表していました。
エラはメイドの中で1番偉い人に嫌われた状態と、マイナスからのスタートであり、大きな不安を覚えたのでした。
その忠告を終えた後、メイド長が連れ出されたのは掃除用具置き場。
エラはまさかここに連れてくるとは思わず驚いてしまいました。
実はメイドと言っても多くの種類があります。
メイド長のように家事自体はせず、屋敷の鍵の管理やメイドの雇用の採用や解雇の決定、新人メイドの指導などを行うハウスキーパー。
夫人や令嬢の身の回りの世話をするレディースメイド、いわゆる侍女。
寝室や客室などの部屋の設備を行うのがチェインバーメイド。
コックの指示に従い雑務を行うキッチンメイド。
接客をメインとするパラーメイド。
子守り担当のナースメイド。
洗濯がメインであるランドリーメイド。
家事の全般を行うハウスメイド。
大抵、令嬢や元令嬢にはレディースメイドやパラーメイドを行わせ、平民にはランドリーメイドやハウスメイドなどを行わせます。
そのため、ハウスメイドを割り当てられたことは元令嬢であるエラに対して侮辱行為に近いものがありました。
つまりこれはメイド長からエラに対しての嫌がらせでした。
エラは元令嬢で容姿も良いので、継母からは多分パラーメイドになるだろうと言われていました。
しかし、マナーや作法が苦手なエラは心の中ではボロが出やすいパラーメイドは嫌だなと思っていました。
家事は得意なため、出来ればハウスメイドになりたいと考えていました。
そのため、ハウスキーパーのメイド長に嫌われたことが転じて自分が希望していたハウスメイドになれることはエラにとっては大万歳。
思わずメイド長の両手をとって、顔をこれでもかと近づけて大きな声でありがとうございますありがとうございますとメイド長の身体を思いっ切り揺さぶりました。
元令嬢なら、ハウスメイドを割り当てると嫌になって投げ出すだろうと思ったメイド長はエラの行動にポカーンとし、立ち尽くしてしまいました。
メイド長には全く理解出来ない状況です。
その反対にエラは最初の不安がスッと無くなっていきました。
そして、その代わりにやる気が次々と湧いてきます。
これなら自分の実力を出し切れると確信したエラは掃除用具のロッカーを開けて箒を取り出し、喜んで掃除を始めたのでした。




