シンデレラと継母は公爵家に入る
継母は早速エラも雇ってもらうよう頼んだ手紙をその場で書き、その場で公爵家に送りました。
すると夕方頃には許可の返事がきて2人は安堵しました。
それから1週間は継母に作法やマナー、そして世の中の常識を教えてもらいました。
ヴィオルと共にレッスンはしたため、ある程度は形になっておりましたが、継母はそれ以上に厳しく指導します。
正直ヴィオルの時ですら大変だったので、継母とのレッスンは更に大変でした。
今までは自分には何をやっても令嬢らしいことは不可能だと諦めていたためやる気も起きず、上達する気配すらありませんでした。
しかし、ヴィオルとのレッスンもそうですが、今すぐ必要となったためきちんと出来るようにとやる気も出ました。
そのため、エラはヴィオルや継母が思っていた以上に早く上達し、かなり淑女として近づいていきました。
1週間後、エラは継母と共に勤務先へ向かいました。
働く場所はランカスター公爵家。
ランカスター公爵家は、国が建設された時に唯一公爵家として認められた家紋であり、とても由緒あるところです。
また、貴族の中でも有数の力を持っているところでもありました。
エラの家から馬車で1時間程度の所に公爵家があり、少し遠いですが行き帰りはそこまで難しくはありませんでした。
最初は思わず働くと言ってしまったエラでしたが、ランカスター公爵家のことを学べば学ぶほど立派な所だと分かり公爵家に行くのが怖くなりました。
しかし、継母に手紙を送ってもらい許可まで得たので今更引き返すことは出来ず、このまま継母と共に公爵家で勤めることを決めてやって来たのでした。
2人は公爵家に到着し表側からではなく裏側の入口から公爵家に足を踏み入れました。
すると、1人のメイドが現れて自分についてくるようにと言って2人を奥へと歩かせます。
メイドはとある扉の前で止まり案内をやめました。
そして、継母に扉を叩くよう指示します。
継母は1つ深呼吸をしてコンコンコンと3回扉を軽く叩き、透き通った声で失礼しますと一声上げました。
すると向こう側からどうぞお入りになってと上品で鈴のように綺麗な声が聞こえ、継母は扉をゆっくひと引いて2人は中に入りました。
そこに座っていたのは公爵夫人。
とても品があり、物腰の柔らかい女性でした。
「ようこそ、ランカスター公爵家へ」
「お久しぶりです、ランカスター公爵夫人。今回、私エノレア・エミリー・ヴァーンズと義娘のエラ・アン・ヴァーンズを雇ってくださり本当にありがとうございます。どうぞ共によろしくお願いいたします」
「初めまして、ランカスター公爵夫人。私、エノレア・エミリー・ヴァーンズの義娘エラ・アン・ヴァーンズです。今回こちらで働かせてもらうことができ大変光栄です。よろしくお願いします」
2人は公爵夫人にカーテシーをとりました。
「今日からエノレアさんは家庭教師として、エラ嬢はメイドとしてよろしくお願いしますね」
向けられた笑顔はとても愛嬌があり、公爵夫人に惚れてしまいそうな可愛さがありました。
そんな笑顔に絆されず、継母は目をとても大きく見開いておりました。
「私は義娘と共にメイドとしてここで雇わるはずではありませんでしたか?」
思わず継母は大声を出してしまいました。
確かに継母はメイドとして雇われたとエラに言っていました。
しかし、公爵夫人の話だと家庭教師として雇うと約束していたことになります。
これは一体どう言うことかと分からなくなった時、公爵夫人は口を押さえて目を見開きました。
「あら、伝え忘れていたようですわ。実は娘のマリアにエノレアさんのことを話したところ、エノレアさんのお話が面白いからとエノレアさんのことを大変気に入ったようですの。だから是非、娘の家庭教師になってもらおうと思いまして。頼まれてくれますか?」
なんと継母は公爵夫人だけでなく、公爵令嬢にまで気に入られたようです。
エラはますます継母が凄いことを実感させられました。
継母は綺麗なカーテシーをとり一礼します。
「喜んでお受け致します」
公爵家に入る前は、継母は困った時はすぐに自分に頼って少しずつでも良いから早く出来るようになりなさいと言ったのにも関わらず、思いがけないハプニングであったとはいえ、エラに申し訳なくなりました。
しかし、さすがに雇われる立場である継母は雇い主であり、その上に力もある人からの頼みを断るわけにはいきません。
継母は大丈夫かしら大丈夫かしらと大変落ち着きがなくエラのことを心配しました。
本当は不安しかありませんが、継母を安心させるためにエラは絶対大丈夫と笑顔で答えます。
それでも不安な継母でしたが、何を言っても覆ることがないため、エラの言葉を信じて公爵令嬢のいる元へ向かったのでした。
こうしてエラは仕事中、継母に頼ることが出来なくなってしまいました。
エラは大丈夫よ大丈夫よと心の中で何度も繰り返し唱えて、やるぞと意を決してメイド長のいる所へ向かったのでした。




