振り出し
「えー、今回、愛海様を私たちの推測から、引き出し手紙事件の共犯者として、無実の罪を着せ、勝手に疑ってしまったこと、昨日、本当の体調不良で休まれた愛海様に、逃げやがったな、あの腰抜けチキン野郎と思ってしまったこと、そこまで賢くない愛海様に頭の切れる犯人像を押し付けてしまったこと、
この三つについて、義男と和樹の両名が愛海様に対し、心からお詫びを申し上げます。申し訳ございませんでした。」
俺と義男は、椅子に座る愛海に向かって、ひざまずき、頭を下げた。
「三つ目は謝る必要なくない?私、馬鹿だと思われてたの?」
「はい、それは申し上げる必要もない周知の事実かと。」
「……謝る気ないでしょ?」
「いえ、この通りでございます。」
義男は俺の後頭部を押さえて、もう一度、土下座を強要してきた。
「まあ、私は馬鹿でもなんでもいいんだけど、それで私が犯人に仕立て上げられていたその引き出し手紙事件ってのはなんなの?」
そう聞かれた俺たちは、今まで起きたことを一つ一つ説明していった。
「……なるほどねえ。面白そうね。今の時代、ラブレターなんて珍しいからなんかロマンチックで素敵。」
「それは他人事だから言えることであって、実際、引き出しの中に手紙が毎日置かれているのは、気味が悪いものですよ。愛海様。」
「愛海様って言うのやめてよ。……まあ、気味が悪いっちゃ悪いわね。でも、気味悪がられることを分かっているのに、なんでそんなことをするのかしら?」
「そりゃ、そんなことをする奴は、頭がおかしいんだから、常識にあてはめて考えない方がいいでしょう。」
「まあ、それはそうかもしれないわね。ところで、その問題の三通目には、どんなことが書いてあったの?」
俺は立ち上がって、自分の机の中に置いてある手紙を、愛海の下へ持ってきた。
「和樹君へ
私の手紙に返信をくれてありがとう。
不法侵入ってどういう意味だったっけ。ちょっと和樹君の書いてくれた手紙の意味が分からなかったかな。知らない間に、また私の知らない言葉を覚えたんだね。
いつもみたいに言葉の意味を教えてくれないかな?
君は私にたくさんのことを教えてくれたよね。昨日書いた歌だったり、言葉だったり、最近の遊びだったり、私は君からいろんなことを知れることが嬉しかったな。
でも、君は私のことをたくさん忘れてしまったんだよね。こんなことを言っても、きっと分からないよね。
でも、きっと君は私を思い出して、見つけ出してくれると信じています。」
愛海は手紙を声に出して、読み上げた。
「激ヤバじゃん。これは自分の世界に入っちゃってるわ。
もし、和樹に見覚えがないなら、これって、ストーカーみたいなもんじゃない。特に、不法侵入を知らないってとぼける所がヤバさに拍車をかけてる。」
「助けてよ、愛海~。義男の推理が精神の支えだったのに、外れちまったから、ずっと怖いんだよ。怖いから、あんまり眠れてないんだよ。前まで全然気にしてなかった家の雑音一つ一つが、恐怖でしかないんだ。なんだか誰かがいるみたいなそんな感覚になって、ヤバいんだよ。」
それを聞いた義男が突然立ち上がって、大声を上げた。
「それだ。差出人は密室を開ける必要なんてなかったんだ。」




