思い出のマザーグース
「和樹君へ
君の混乱した様子を見ると、まだ私のことを思い出せていないみたいだね。確かに、もし、私のことを思い出せていないなら、この状況は怖いし、驚いちゃうかもしれないね。
なら、少し思い出す手助けをするために私のことを書いていこうかな。
もちろん私は女の子だよ。それと私は小、中学校の和樹君をよく知っているかな。その時の記憶で言えば、君はきらきら星とかロンドン橋落ちたとかの歌を歌っていたね。私は君の歌うきらきら星は好きだったよ。
きらきら星は今でも思い出すことがあるの。君はきらきら星は覚えているかな。いくら忘れやすい所があっても、流石に覚えているかな。
私のことはこのくらいしかないかな。この手紙の返信は前回の手紙に書いてあった通りにしてください。君からの返信が来ることを願っています。」
引き出しの中の手紙には、そのように書かれていた。この手紙に書かれている通り、俺は小さい頃、きらきら星とか、ロンドン橋落ちたとかの曲をよく歌っていた。今でも全部の歌詞を覚えている程に、印象に残っている。
しかし、不思議なことは、その歌はいつも一人で歌っていたことだ。小、中学校時代は、全く遊ぶ友達がいなかったので、一人で砂に絵を描いて、遊びながら、歌っていた。それが学校の同級生に見られて、気味悪く思われ、友達がさらにできないという負のスパイラルに陥っていた。
ああ、ダメだ。嫌なことを思い出してしまった。忘れようと必死になっていた聞こえる陰口を言われ続けた日々や何をするにもはぶられた記憶。しかし、その記憶の中にこの手紙の差出人のヒントが隠れている。
大体のクラスメイトの女子の名前は覚えているが、どの女子も特別仲良くした記憶はない。もしかしたら、何かあったかもしれないが、記憶に残っていない。
なぜか知らないが、小中学校の記憶はかなり薄れている。やはり、嫌なことは脳がすぐに消してしまおうとするらしいが、その影響だろうか。
差出人の推理はこのくらいにして、この引き出しに手紙を置く手口は全く分からない。確実にこの家に家族以外の出入りはないし、昨日の手紙のせいで、戸締りもちゃんとしていたことも確実だ。
さらに、昨日俺が手紙を読んだということを知って、すぐに返信を書いた。
つまり、この手紙の差出人は、家族と学校の人間ではないが、家族と学校の人間しか知らない情報を知っていたということになる。




