#2 resolution
「ねぇねぇママ! 新生児の視力って0.01ぐらいなんですって! 耳は良く聞こえるらしいから、お話するときは近くでしてあげますね!」
「まぁ、流石お姉さんね。よく勉強できていますね。これからも頑張って」
「うん! |忠幸<ただゆき>も、これからお姉さんと一緒に頑張りましょうね!」
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耳から温い液体が抜けた直後、鮮明になった謎言語は慣れ親しん
だ日本語に聞こえた。
それと同時に眼前で輪郭を得た顔は、紛うことなき人間の幼児のもの。
毛髪もまた、日本で頻繁に目にする黒髪だ。
続けて接近した母親も黒髪で、その顔は謎|人型生命体<ヒューマノイド>なんかじゃなかった。
視力0.01って恐ろしくぼやけて見えるんだな。
状況から考えるに、転生先が日本である線が濃厚になってきた。
いやしかし、日本によく似た国が異世界に存在する例は多くある!
ステータス! 鑑定! アナライズ!
これまた多くの例がある、「ゲームのステータスのようなもの」を呼び起こすべく強く念じるも何も反応がない。
|wind<風よ>! |breeze<そよ風よ>!
魔法っぽいのも無反応だ。
「|倫華<りんか>、スマホお願い」
「はいお母さん!」
「ありがと」
(貧弱な視力でも、目の近くにカメラがあれば、その画面を通してはっきり見える)
前世の唯一の友人の言葉を思い出し、上半身を起こした母の手元を注視する。
「カメラ目線できて偉いね。はい、チーズ」
画面に映る俺の背後には、少々滲んで見えたものの、一般的と言えるだろう病院の風景が広がっていた。
俺の異世界ドリームは、砕かれた............
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今後の身の振り方を考えるべく目を瞑っていると、スライド式のドアが音をたてて開かれた。
何事か、と確認すると、息を切らした青年が膝を屈め、僕の瞳を覗きこんでいる。
「忠幸、お父さんだよ」
体が意に反して強張った。
前世における俺の死因は、父である。
勿論、現世の父と前世の父は別人だ。
そう理解してはいるものの、逃げ出したいほど恐ろしい。
......だからといって逃げることは許されないな。
これから、長い、深い付き合いになるのだから。
差し出された父の指を、反射に任せることなく、力いっぱい握る。
前世の俺は父に嫌われており、中学校を卒業することなく死んでしまった。
逆説的に、良好な家庭環境は少年期を生きる上で大きなアドバンテージになる。
進学にも影響するだろう。
見てろよ、糞親父。
現世では、力をつけて、強く生き抜いてやる!