表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】千夜千食物語  作者: 枝豆ずんだ
1章『がっつり硬めのカラメルプリン』
7/175

7、今も真っ赤に腫れている


 プリンのおいしさの秘密は、カラメルの部分にあると言っても過言ではないのだろうか?


 頂点にある茶色くも美しい、透明感のある不思議なソース……器をひっくり返して溢れ出るそれはお皿の上に甘くもほろ苦い泉を作る……。プリン本体にからめてスプーンで召し上がる時の、口の中に広がるあの味は、思い出しただけでも笑顔になるものだ。


「と、いうことなので、カラメルはしっかり、がっつり、焦がして作らなければはなしにならないのです」

「し、しかし……砂糖を、焼く?というのは、そんなことをして、大丈夫なのか?」


 まずはフライパンで砂糖を焼くと言うと、騎士さんは眉を寄せた。


「大丈夫です」


 熱したフライパンに水と一番ちょうどいい感じだったお砂糖を入れて私は頷く。


「焦げているが?」

「いいんです」

「煙が出ているが?」

「いいんです!」


 皇帝陛下への献上品なので失敗があってはならないし、まずい物など出してはならない。そういう緊張感が騎士さんにはあって、幼女がレッツクッキングするのを見守って下さる。


 フライパンの中身がぶつぶつとしてきたら弱火に、煙が出てきたら火を止める。この時の色は好み……きつね色でもいいし、生足魅惑のマーメイド的な褐色でも可である。


 そういえば生足魅惑のマーメイド(人魚)って、要するに下半身は人間なのだから上半身が魚なんだろうか。


 そんなことを考えながら、カラメルをオリハルコンのカップに注ぐ。


「そして氷を張ったトレイで冷まし……こおり……氷……!?」


 製氷機の中に入ってるだろう~と、冷蔵庫を探すが……冷蔵庫……?


 ……冷蔵庫?お前……消えたのか。

 いや、そもそも存在していない。冷蔵庫ではなく氷室のようなものはあるが、私のイメージする冷蔵庫はない。


 当然氷もない。


 王族の楽しみのために氷はどこかにあるかもしれないが今はない。


 なくてもいいが、ないのか、氷。冷蔵庫……。


「あっ、雪!」


 外にありますね、積もり積もった雪が!


「待ちなさい、外に出るのか?料理は……」


 あ、脱走とかじゃないです。ちょっとお料理のために雪が必要なんです。そう言えば私が落とされた池に氷も張っていますね。


「……雪や氷が必要なら私に言いなさい」


 持ってきてくれるのかな?


 オーブンは使えなかった騎士さんだが、親切である。私がお礼を言おうとすると、騎士さんは掌を調理台の方へ向けた。


 サァアア、と、何もない所からザル一盛り分ほどの雪と、氷の塊が。


 ……そう言えば、レンツェはあまり雪の降らない地域だ。

 エレンディラの記憶にも雪はない。なので、これまでの冬、凍死の恐怖はそこまで深刻ではなかったし、薪がなくても生き延びる事が出来た。


 それが、今、王宮の外はドカ雪である。前世日本ではテレビの中の「北海道こわい」というくらいでしか知らなかったレベルの積雪。

 

 ……もしや、そういう魔法的なものが??


「おぉ~、便利ですね~!」


 さすがは異世界。家族はクソだし、冷蔵庫がなくて嫌いになりそうでしたが、ちょっと好きになりました。


 きゃっきゃと私は喜んで、雪をトレイの上に敷き詰める。


「これは中々良いものですよー!」


 きっと何やら偉い上級魔法だとかそういう、尊重しないといけないものなのだろう。私が「便利ー」とはしゃぐのを、騎士さんは複雑そうな顔で眺めていた。


「君は」

「はい?」

「君の手足を凍えさせた雪が恐ろしくないか」

「え、いや、雪は冷たいものですから……」


 恐ろしいも何も、自然相手に一々ビビっていたら人類は発展できないのですよ。

 いや、恐れることは必要ですが。委縮して身動きが取れなくなるのはよろしくない。


 それより「私に言いなさい」ということは、また必要だったら出して頂ける、ということですね?具体的には、最後のプリンを冷やす際にもまた雪を出して頂こう。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023年11月1日アーススタールナ様より「千夜千食物語2巻」発売となります
― 新着の感想 ―
[一言] 生足魅惑のマーメイド…た、確かに…!! って感じで大爆笑しました。いや想像したらちょっとシュール…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ