7、今も真っ赤に腫れている
プリンのおいしさの秘密は、カラメルの部分にあると言っても過言ではないのだろうか?
頂点にある茶色くも美しい、透明感のある不思議なソース……器をひっくり返して溢れ出るそれはお皿の上に甘くもほろ苦い泉を作る……。プリン本体にからめてスプーンで召し上がる時の、口の中に広がるあの味は、思い出しただけでも笑顔になるものだ。
「と、いうことなので、カラメルはしっかり、がっつり、焦がして作らなければはなしにならないのです」
「し、しかし……砂糖を、焼く?というのは、そんなことをして、大丈夫なのか?」
まずはフライパンで砂糖を焼くと言うと、騎士さんは眉を寄せた。
「大丈夫です」
熱したフライパンに水と一番ちょうどいい感じだったお砂糖を入れて私は頷く。
「焦げているが?」
「いいんです」
「煙が出ているが?」
「いいんです!」
皇帝陛下への献上品なので失敗があってはならないし、まずい物など出してはならない。そういう緊張感が騎士さんにはあって、幼女がレッツクッキングするのを見守って下さる。
フライパンの中身がぶつぶつとしてきたら弱火に、煙が出てきたら火を止める。この時の色は好み……きつね色でもいいし、生足魅惑のマーメイド的な褐色でも可である。
そういえば生足魅惑のマーメイド(人魚)って、要するに下半身は人間なのだから上半身が魚なんだろうか。
そんなことを考えながら、カラメルをオリハルコンのカップに注ぐ。
「そして氷を張ったトレイで冷まし……こおり……氷……!?」
製氷機の中に入ってるだろう~と、冷蔵庫を探すが……冷蔵庫……?
……冷蔵庫?お前……消えたのか。
いや、そもそも存在していない。冷蔵庫ではなく氷室のようなものはあるが、私のイメージする冷蔵庫はない。
当然氷もない。
王族の楽しみのために氷はどこかにあるかもしれないが今はない。
なくてもいいが、ないのか、氷。冷蔵庫……。
「あっ、雪!」
外にありますね、積もり積もった雪が!
「待ちなさい、外に出るのか?料理は……」
あ、脱走とかじゃないです。ちょっとお料理のために雪が必要なんです。そう言えば私が落とされた池に氷も張っていますね。
「……雪や氷が必要なら私に言いなさい」
持ってきてくれるのかな?
オーブンは使えなかった騎士さんだが、親切である。私がお礼を言おうとすると、騎士さんは掌を調理台の方へ向けた。
サァアア、と、何もない所からザル一盛り分ほどの雪と、氷の塊が。
……そう言えば、レンツェはあまり雪の降らない地域だ。
エレンディラの記憶にも雪はない。なので、これまでの冬、凍死の恐怖はそこまで深刻ではなかったし、薪がなくても生き延びる事が出来た。
それが、今、王宮の外はドカ雪である。前世日本ではテレビの中の「北海道こわい」というくらいでしか知らなかったレベルの積雪。
……もしや、そういう魔法的なものが??
「おぉ~、便利ですね~!」
さすがは異世界。家族はクソだし、冷蔵庫がなくて嫌いになりそうでしたが、ちょっと好きになりました。
きゃっきゃと私は喜んで、雪をトレイの上に敷き詰める。
「これは中々良いものですよー!」
きっと何やら偉い上級魔法だとかそういう、尊重しないといけないものなのだろう。私が「便利ー」とはしゃぐのを、騎士さんは複雑そうな顔で眺めていた。
「君は」
「はい?」
「君の手足を凍えさせた雪が恐ろしくないか」
「え、いや、雪は冷たいものですから……」
恐ろしいも何も、自然相手に一々ビビっていたら人類は発展できないのですよ。
いや、恐れることは必要ですが。委縮して身動きが取れなくなるのはよろしくない。
それより「私に言いなさい」ということは、また必要だったら出して頂ける、ということですね?具体的には、最後のプリンを冷やす際にもまた雪を出して頂こう。