6、まずは材料と調理道具の確保を
プリン。プリン。プリン。
イギリスの蒸し料理「プティング」日本の「茶碗蒸し」と同じく、卵の凝固作用を利用して作る料理。
日本ではホテルニューグランド発の、フルーツと生クリームをたっぷり載せた「プリンアラモード」シナモンやレモンで香りづけをするスペインの「クレマカタラーナ」卵黄を多めにして作るベトナムの「バイン・フラン」など等、様々な呼び名、様々な食材を用いて世界各国で親しまれる卵料理の一つだ。
必要になるのは新鮮な卵と牛乳、良い感じに甘いお砂糖。そしてあればうれしい生クリームとバニラエッセンス。
「君の言った材料はこれだけだが……本当にこれで、ぷりんなるものができるのか?」
案内された厨房は、これまでエレンディラがこっそり入っていた使用人たちの食事用の厨房ではなくて、王族の口に入るものを作る上級厨房。並ぶ道具はどれも丁寧に手入れがされていて、本来なら本日の晩餐で出されるはずだった料理の数々が鍋の中や、調理台にそのままにされている。
……というか、離宮で隔離生活を送っていたエレンディラは状況をさっぱり理解していなかったけれど、この国は戦争中、だったのではないのか?あまりに「普段通りの生活そのままが、ある日突然ストップした」状態で違和感がある。
料理人たちはどうなったのか。血のあとや死体が転がっていないのでここで殺されてはいないはずだが……。
「はい。十分です。ありがとうございます」
軍服女性、じゃなかった。皇帝陛下に献上するものなので、まず食材から何から、騎士さんのチェックが入り私に渡される。こんな幼女が毒を盛るなんてするわけないのだが、敵国のプリンセスなので警戒されるのは仕方ないネ!
「それじゃあ、まずは手あらいをしっかりして。騎士さん、その甲冑は脱いでくださいね」
「……?」
「?」
「……?」
「?」
あっちの方に置いておくといいですよ、と私が指を刺した方向と、そして再び私を見て騎士さんは首を傾げた。
「?」
「?」
お互いキョトン、とする。
「脱がないでレッツクッキングはちょっと……レベルがたかいとおもうのですが……」
「……私もするのか?」
「え、しないんですか?」
なんで?と私は眉を顰める。
その為について来たのではないのか??
食材チェックと調理過程の監視だけで……まぁ、良いのかもしれないが……しないの??
「料理をしたことがない」
「なにごとも初めてはありますよ」
うんうん、と私は頷いて自分の手洗いうがい、更に厨房の隣にある更衣室に置いてあった清潔なエプロンを折って着ける。
「それじゃあ騎士さん、オーブンをつけておいてください」
この世界にもオーブンはあるのだが、エレンディラは使用したことがないし、私も異世界の……家電で動いていないでかいブツの使い方などわからない。
「……これは……ここを、こうすれば……?つく、のか?うん?」
しかし頼りになると思った大人、騎士さんも料理未経験者なだけあってオーブンの使い方を御存知ないようだ。……なんと。
折角オーブンがあるのだが……残念。
「おっきいお鍋があるので、これでも大丈夫です」
「そ、そうか。すまない」
オーブンが使えない場合もちゃんと考えてある。私が大きいお鍋を指差すと、騎士さんはほっとした顔をしてくれた。そしてオーブンが使えなかった埋め合わせというのか、私が「水をいれてください」「そこに持ちあげて、火にかけてください」と言うのに素直に従ってくださる。
うんうん。正直、幼女の体では鍋を持ちあげるとか無理ゲーだったので大助かりだ。
さて、カップを探そう。
プリンが存在していない以上、プリン型なんて都合の良いものがあるわけもない。ので、がさがさと棚やら引き出しを漁ると、ありました、丁度よさそうなカップが!三つも!
「これを入れ物につかいます」
「これは……式典用のオリハルコンの聖杯か。なるほど、これならば献上品として申し分ない」
銀色にキラキラ輝く綺麗なカップを騎士さんは目を細めて眺めた。
オリハルコン……ゲームとかでよく聞いた名前ですが……熱伝導……しますか……?
しなかったら計画が総崩れである。しかし良い感じのカップが他には見つからず、あまり時間をかけては兄弟の首が足りなくなるだろう。大きな深皿は……鍋に入らないし、オーブンが使えない以上、熱の入りに不安が残る。ので、この世界のオリハルコンの熱伝導率を信じてレッツクッキングトライするしかない。