5、ここが恋愛フラグですよ奥さん!
「いやぁああぁあああ!!!」
「お願いします!お願いします!どうか、どうか命ばかりは……ッ!」
「こ、こんな非道……許されると思っているのかッ!」
「地獄に落ちろ!この悪魔め!!」
「呪ってやる!呪ってやる!!貴様の魂を呪ってやるぞー!!!!」
ずるずると引き摺られては短い問答の後に、ザッシュザッシュと首が落とされていく。
レンツェ国は小さいわりに、王族が多い。代々好色というのか、一夫多妻が許されているので、エレンディラの父も三十人近い兄弟がおり、更に十人以上の側室を迎え、その子供も倍以上いるの。
てっきり私は自分が集められたあの場所で全員だと思っていたけれど、入りきらない王族たちが別の部屋に押し込められ、順々に陛下の前に連れて行かれるようだった。
一応エレンディラは現国王の娘、であったので最初の間に入れられたのだろう。
まぁ、それはいいとして……。
私はプリンを作るまで生死保留という扱いになり、親族の首切りショー会場から隔離された。連れて行かれるのは王宮の厨房。初めて歩く王宮の広い廊下。辺りに兵士の死体や血が飛び散っている中、私を先導してくれているのは池の側で会った騎士さんだった。
皇帝陛下が「この子供を見ていてやれ」と、そのようにおっしゃった。お名前は「ヤシュバル様」と言うらしい。
皇帝陛下の「ご子息の一人」というが、お若く見える……頑張っても三十代、くらいにしか見えない陛下と、そう年の変わらなさそうなご子息……。
「あまり周りを見ないように。子供が見るものではない」
私がきょろきょろしていると、騎士さんは振り返り、私の前で膝をついた。黒い甲冑はよく見れば血がついている。黒い髪に赤い瞳の騎士さん。
(うわ……顔が、顔が……良い)
幼女と目線を合わせるために膝をついてくれた騎士さんの顔がはっきり見える。前世でもお目にかかれなかったレベルの顔面偏差値に思わず身をのけぞらせると、騎士さんは顔を背けた。
「さぞ私が恐ろしいだろう」
私が怖くて怯えたゆえの反応だと思ったらしい。騎士さんはゆっくりと立ち上がり、また歩き出す。普通、こんなに背の高い騎士さんと幼女のエレンディラであれば歩幅は違うので一気に置いて行かれるのだが、ゆっくりゆっくりと、騎士さんは歩いてくれた。時折振り返っては私がきちんとついてきているのか確認し、頷いた。
や、優しい~!
*
(見れば見る程、気の毒な娘だ)
ヤシュバルは自身の後ろをついてくる敵国の姫を何度も振り返っては、溜息をついた。
むせ返るような血のにおいと、死体が転がる中を、びくびくと怯えながら歩く敵国の姫。
調べさせたところ、歳は七つか八つだというが、アグドニグルのそのくらいの年齢の子供と比べると、かなり痩せ細っている。明らかな栄養失調。まともに手入れもされていない髪は随分と傷んでいる。これが一国の姫だとは、誰も思わないだろう。
城の人間の話によればこの姫は「汚点」として冷遇され、見向きもされず放っておかれてきたそうだ。
それでも王族だからと処刑されることとなったのは、悲劇でしかない。王族が富と栄誉を謳歌する代償に国の責任を負う立場であるとすれば、特権を何一つ使えなかったのに義務だけ押し付けられたこととなる。
が、それでも王族は王族の務めを果たすべきだと、そう思考を切り替えるべきなのに、後ろを歩く少女のあまりにも頼りない姿に、ヤシュバルはふつふつと込み上げる慣れない感情があった。
せめて何か優しい言葉をかけてやりたいと思うが、ヤシュバルは子どもの相手などしたことがない。皇帝クシャナに忠誠を誓う属国が人質にと送り出し、皇帝の養子となってからも、その前も、剣を振るうくらいしか能のない男。
目を合わせて笑いかけてやれればいいが、怯えられてどうしようもない。
どうしたものか、と困り果てながら、それでも背後にか細くトテトテと聞こえる足音に意識を集中させた。
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