12、ふわっふわトロける七色パフェ
「おぉ、これはこれは、なんとも爽やかな」
「柔らかく口の中で溶けてしまいます」
「この果物の酸味、なるほどこのようにして合わせて食べれば美味に感じるのですなぁ」
パフェの生クリームや果物を頬張って、神官たちの顔が笑顔になった。普段布で顔を隠し、何を考えているのかわからない淡々とした口調で、レグラディカの神殿内を生きる彼らの人間らしい様子はメリッサを懐かしい気持ちにさせた。
(……)
思い出すのは、自分がいた、今は沈んだ島のこと。
自分が護れなかった島民のこと。
「……あの樹の果物も、パフェにして、皆に、食べて貰えればよかったのに」
「メリッサ?」
「……なんでもないわよ。ふふん、ほら、あんた、一口あげるわ!このパフェ、すっごく美味しいんだから!」
やけに静かなメリッサを心配したのか、白い髪の少女が話しかけて来た。名前は、神の目で見てもぼやけている。
雪の魔獣も神官たちも、あの恐ろしい氷の皇子もこの少女の名前を呼ばない。
レンツェとかいうおぞましい国の王女、というのは彼らの口ぶりからなんとなく察せられた。
ぐいっと、少女の口に果物を押し込み、メリッサは自分も食べる。
真っ白い柔らかな、綿のようなもの。牛の乳だろうか。あの液体がどうしてこんな状態になるのか、メリッサはわからない。甘くて、ふわふわしていて口の中でシュっととろける。
甘くて冷たくて、優しい味。
口にすれば知らず、女神の口にも微笑が浮かんだ。傲慢に笑むことや、他の神々への作り笑い、そんな笑みしか浮かべられなかったメリッサが、まるで島にいた頃のように自然に微笑む。
メリッサが得たパフェは大きな縦長の硝子の器に、いくつもの層が作られていた。
下から、赤、黄色、オレンジ色、桃色、紫、緑。間々に真っ白いあまいものが挟まっていて、一番上には全部の色の果物が少しずつ載っている。
一人でテーブルの上のパフェを喰い散らかした時も、確かに美味しくて珍しくて、面白かった。
「……」
けれど今、皆が笑顔になりながら食べているこの光景。
「……悪かったわね」
「はい?」
「……最初に、勝手に……食べちゃって、悪かったわ」
大神殿レグラディカ。
立派立派な、大きくて荘厳な、大神殿。その主になった。崇められるべきだと、もてはやされるべきだと、そう思って傲慢に、神らしく、ならないとと思っていた。
「……あたし、こういうのなのよね。あたしは、こういう、女神だったのよ」
「……性格が悪いことをそんなに悲観しなくても」
「違うわよ!」
もう!と、メリッサは頬を膨らませる。
小さな島の、樹から生まれた女神メリッサ。
人の笑顔や、他人を労わる慈しみの心を受けて神性を得た女神。
「キャン!」
「あ、あんたも……デコピンして悪かったわ」
「キャワワワン!」
「たいしたことなかった??神に嘘つくとか不敬~!」
足元にじゃれついて来た雪の魔獣を、メリッサは目を細めてぐいぐい、と額を指で押してやる。
「……ねぇ、あんた」
「はい?」
「あんた、やっぱりあたしの巫女になりなさいよ」
あの聖女はもう駄目だろう。
身の内の毒がいずれ漏れ出し、害意となる。当人もそれを気付いているだろうに、ひた隠しにしているのは人間の愚かさか。神は人が過ちを犯すのを黙って見ている。そういうものだ。
しかし、そうなれば大神殿には女主人がいなくなる。
神に仕える最たる者は聖女でなければならない。
この少女なら適任だろう。そう思って告げると、少女は首を振った。
「え、嫌です」
「はぁ!?」
「私、今日これから、もうこの後すぐに……お片付けをしたら、ヤシュバルさまのお家に行くんですよ。あ、メリッサ、手紙書きますね!まだ字、書けませんけど!!」
「は、はぁ~~~~!!?」
ふざけてるの!嘘でしょ!?と、メリッサは大声を上げる。
こんなに聖女の素質がある者を、アグドニグルの王族は囲おうというのか。
「なんだ」
「……この、このッ……!!!!」
さりげなく少女を自分の方へ引き寄せ、メリッサが再び神域に連れて行けない距離を確保したアグドニグルの皇子。メリッサを見て『食べたならさっさと消えろ』と言わんばかりの視線。(メリッサ感)
力では確実にかなわない、少女の方も、行く気満々だ。
メリッサは自分に出来ることが何か必死に、必死に考えて、言葉を絞り出す。
「このロリコンッ!!!!!!!!!!!!!!!」
とりあえず、その日、女神の氷漬けが一体できあがったが、女神は意地で数日後には復活した。
パフェ回終了~。
次回から王宮内編になりますが、その前に(王宮に魔獣登録するためにも)わたあめの予防接種回を入れるべきか迷っています。




