4、未知なるものへの好奇心は皆あるはず
どう考えても、私が「有益」かという証明をするのは無理だ。
レンツェの王族がこぞって示した有能さを悉く退けた軍服女性。その意図は、レンツェの否定に他ならない。
そもそも、この殺戮は「報復」だと言う。王族とはレンツェ国そのもので、それらを一切容赦なく切り捨てて「無価値」とする事ほど、報復に相応しい事もないだろう。
最初から王族全員皆殺しのつもりである相手方に、こちらが何を示したところで、これは無意味な問答なのだ。
「なんと?」
「プリンを召し上がりませんか!」
なので、私がここで口に出すべきは「自己アピール」ではなくて、提案。
食べるか。食べないか。
普通に考えて、こんな状況で「食べる」という選択肢を取る筈はない。
筈はない、のだが、ここで私が口に出す「プリン」という名前。
「ぷり……」
「なんだ?」
「レンツェの料理か?」
「いや、聞いた事がない」
名前の響きからどんなものか想像もできないもの。
召し上がる、という言葉から「食べ物」「料理」であることは推測できる。が、いったい何かわからない。
わからないが、自分の命がかかっている状況で提示してくるのだから、何かきっと特別な、それこそ先ほどの王族たちが金銀財宝、鉱山、所有の何もかもを必死に口に出したように、特別優れた品であるに違いないと、訝しむ人々が勝手に想像してくれる。
「ふむ」
軍服女性は少し考えるように口元に手をあてた。
「それはすぐに献上できるものか」
「いえ、今から私が作ります」
「作る」
「プリンというのは、やわらかく滑らかで、甘く、口の中でとろけるけれど、形はまるで……いえ、この世のものに例えられるものはありません」
一体どんな料理なのだ、と周りの騎士達が驚いた。
「おそらく、この世で作れるのは私だけだと思います。閣下、私が有益か無益かの判断は、私にはできません。が、私の作るプリンを召し上がって頂いてから、私の首を落とされても、損はないかと存じます」
「ふむ」
「陛下、なりません。かような言葉は命惜しさの出たらめに違いありません。敵国で、それもレンツェの王族の作ったものを口になさるなど、なりません」
軍服女性は私の提案を一蹴しなかった。それどころか、考え込む。交渉の余地あり、という態度に私が「よっしゃぁ!生存フラグは逃さない!」と内心ガッツポーズをしていると、青白い顔の不健康そうな男性が声を上げてきた。余計な事を……。
「イブラヒム。と、申すがな。それではそなた、賢者と称えられるそなた、プリンなるものを知っておるか」
「……かような名のものはレンツェには存在いたしませぬ」
幼い王女が口から出まかせを言っているのだと決めつける強い目。
名前の愛らしい響きや、私が「やわらかく」「甘く」なんて言ったのも、いかにも幼女が好みそうな想像の料理だと、その言い分はわかるにはわかる。
だが陛下と呼ばれた軍服女性……え、陛下?
「……へい、か?」
「うん?なんだ、知らぬか。そうか。我こそは、アグドニグルが皇帝。クシャナ・アニス・ジャニスである」
こうていへいか。
偉そうな人だなー、とは思っていたが……皇帝陛下その人だとは……。驚き、目を丸くしていると、皇帝陛下はころころと喉を震わせた。
「まだ質問しておらぬ愚物どもは残っておる。全ての首を落とす間に、そのプリンとやらを作るがよい」






