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【書籍化】千夜千食物語  作者: 枝豆ずんだ
1章『がっつり硬めのカラメルプリン』
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4、未知なるものへの好奇心は皆あるはず


 どう考えても、私が「有益」かという証明をするのは無理だ。

 レンツェの王族がこぞって示した有能さを悉く退けた軍服女性。その意図は、レンツェの否定に他ならない。


 そもそも、この殺戮は「報復」だと言う。王族とはレンツェ国そのもので、それらを一切容赦なく切り捨てて「無価値」とする事ほど、報復に相応しい事もないだろう。


 最初から王族全員皆殺しのつもりである相手方に、こちらが何を示したところで、これは無意味な問答なのだ。


「なんと?」

「プリンを召し上がりませんか!」


 なので、私がここで口に出すべきは「自己アピール」ではなくて、提案。


 食べるか。食べないか。


 普通に考えて、こんな状況で「食べる」という選択肢を取る筈はない。


 筈はない、のだが、ここで私が口に出す「プリン」という名前。


「ぷり……」

「なんだ?」

「レンツェの料理か?」

「いや、聞いた事がない」


 名前の響きからどんなものか想像もできないもの。


 召し上がる、という言葉から「食べ物」「料理」であることは推測できる。が、いったい何かわからない。

 わからないが、自分の命がかかっている状況で提示してくるのだから、何かきっと特別な、それこそ先ほどの王族たちが金銀財宝、鉱山、所有の何もかもを必死に口に出したように、特別優れた品であるに違いないと、訝しむ人々が勝手に想像してくれる。


「ふむ」


 軍服女性は少し考えるように口元に手をあてた。


「それはすぐに献上できるものか」

「いえ、今から私が作ります」

「作る」

「プリンというのは、やわらかく滑らかで、甘く、口の中でとろけるけれど、形はまるで……いえ、この世のものに例えられるものはありません」


 一体どんな料理なのだ、と周りの騎士達が驚いた。


「おそらく、この世で作れるのは私だけだと思います。閣下、私が有益か無益かの判断は、私にはできません。が、私の作るプリンを召し上がって頂いてから、私の首を落とされても、損はないかと存じます」

「ふむ」

「陛下、なりません。かような言葉は命惜しさの出たらめに違いありません。敵国で、それもレンツェの王族の作ったものを口になさるなど、なりません」


 軍服女性は私の提案を一蹴しなかった。それどころか、考え込む。交渉の余地あり、という態度に私が「よっしゃぁ!生存フラグは逃さない!」と内心ガッツポーズをしていると、青白い顔の不健康そうな男性が声を上げてきた。余計な事を……。


「イブラヒム。と、申すがな。それではそなた、賢者と称えられるそなた、プリンなるものを知っておるか」

「……かような名のものはレンツェには存在いたしませぬ」

 

 幼い王女が口から出まかせを言っているのだと決めつける強い目。

 名前の愛らしい響きや、私が「やわらかく」「甘く」なんて言ったのも、いかにも幼女が好みそうな想像の料理だと、その言い分はわかるにはわかる。


 だが陛下と呼ばれた軍服女性……え、陛下?


「……へい、か?」

「うん?なんだ、知らぬか。そうか。我こそは、アグドニグルが皇帝。クシャナ・アニス・ジャニスである」


 こうていへいか。


 偉そうな人だなー、とは思っていたが……皇帝陛下その人だとは……。驚き、目を丸くしていると、皇帝陛下はころころと喉を震わせた。


「まだ質問しておらぬ愚物どもは残っておる。全ての首を落とす間に、そのプリンとやらを作るがよい」



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2023年11月1日アーススタールナ様より「千夜千食物語2巻」発売となります
― 新着の感想 ―
意外かもしれないが、選択肢としては悪くない。 ありきたりのもので有益性を示すには、他国に知れ渡るほどの名声がないと無理。 普通の王族が、教養として修めた程度の学問や技術など塵芥のようなもの。そんなモノ…
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