3、自分の事
「この場には、レンツェの王族を連れて来いと申したが」
引きずり出された私を眺め、軍服女性は青い目を細めた。
小汚く震えている見るからにみすぼらしい子供。それが私だ。
楽しい惨殺パーティに私のような薄汚いのが紛れ込んでご立腹なんですかね!?
喜々として、というわけではないが容赦なく首を刎ね続けた軍服女性の方はきっと偉い方なんだろうとはわかる。
苛立つような女性の言葉に、すかさず側にいた騎士が何か耳打ちした。
「……愚かなことを。これまで一度も王族らしい扱いをしてこなかったくせに、王族として死ねと言うか」
溜息一つ。軍服女性は私に顔を向けた。
「その方、名は?」
「……エ、エレンディラ、です」
「娼婦の子?」
よく娘にそんな名前を付けたな、と軍服女性は転がっている父上の頭を持ってこさせ、唾を吐き捨てた。
まだ生きている兄上たちの何人かがその侮辱行為に憤り立ち上がるが、すかさず騎士達が剣を抜いたので大人しく座る。
「……」
また何か、騎士が耳打ちした。
「ヤシュバルが?――そうか。それで、この娘は自分で自分を王女と申したか」
外での騎士さんとの会話を聞いていたのだろか。それらしい報告をしている。軍服女性は頷きながら、ふむ、と、玉座の上で足を組みかえた。
「その方、自身を王女と思うておるのなら、私は問わねばならぬ。――貴様は有益か、無益か?」
わかりきった質問だ。
これまで王族としてまともな教育も受けてこず、生き延びることに必死だったエレンディラが、これまで殺された王族たちより有能なわけがない。
王族としての権利を何一つ与えられてこなかったのに、ここで王族として死ぬ義務だけ果たせと言われている。
しかし、その理不尽な問いは、私の言葉が引き起こしたものだ。
私は自分で自分を「王女」と言ってしまった。
王女の自覚があるものが、これまで物乞いのような生き方しかしなかった、という判断。
王女だと自覚しながら、生きる以上の努力をしなかった、それは王族として怠慢であると、そう判断。七歳の子供に求めるものではないが、私が自分で「王女だ」と、名乗ったから、王族として相応し扱いをされているだけのこと。
私はこの世界で自分を自覚して、まず決めたのは王族への復讐。けれどそれは、あっさり叶ってしまっていて、そうなると、次に考えるのは、死んでしまったかわいそうな女の子。エレンディラの幸せだ。
一先ず、ここはどうにかこうにかして、生き延びる!
「閣下」
私はゆっくり立ち上がった。
寒さは室内の暖かさと緊張して高鳴る鼓動で薄れ、体の血のめぐりが良くなった思考は前世の日本人の記憶をはっきりと呼び起こす。
私は日本という国の、下町で食堂をしている親戚のお世話になっていた。
二十歳になる前。
色々あって、実家にいられなくなって、親戚の家に住ませて貰った。
和食から中華洋食まで何でも「作れれば提供する」食堂はそこそこ繁盛していた。常連のOLさんや、作業員さん、色んな客層の人たちが食事をしに来てくれた。
私の『前世知識』は、その時に教えて貰った料理しかない。
「閣下、プリンを、召し上がりませんか!」
まっすぐに軍服女性を見上げて、私は提案した。