【コミカライズ配信記念】※番外※暑い夏!!ファアアァイ!土用の丑の日はないけれど!!【中編】
ドンドン、ドンドコドン、と、闇夜に響く陣太鼓の音と、ワーワーと山道を進軍するアグドニグルの…ヤシュバル様が率いる一軍。と言って、ガチの戦争用の本隊ではなくて、あくまでヤシュバル様の一声ですぐに動かせる私兵の、ごく一部だそうだ。
「姫君!!お寒くございませんか!!」
「声でか……っ…耳が、キーンってする……」
「はっ、申し訳ござらぬ!」
「耳が…耳が……」
私の乗った馬の手綱を握っているのは、馬より頭二つ背の高い猪武者…じゃなかった。名門・黄家の公子様。ローアンの令嬢のハートクラッシャー。冬眠しそこねた熊こと、黄月さんである。『皇子様の右腕で名家の公子♡』という、肩書だけならアグドニグルの未婚のご令嬢たちの憧れの男性筆頭候補だが、先日も親が頑張ってまとめた縁談を秒で破壊してきた。
折角の縁談だからと黄月さんはお相手の女性のお好きだという月餅を手作りして挑んだが駄目だった。私も手伝ったんだけれど駄目だった。
ご本人は普通に話しているらしいが、怒鳴られているような、怒号のような声がデフォルトである。乳母日傘で大切に育てられてきた名家のお姫様は挨拶されただけで失神する。
私が耳を抑えると、黄月さんはぎゅっと両手で口元を抑える。それでももごもごと何か言っていて聞こえずらいが言いたいことがわかったので首を振った。
「寒くないですし、お腹もすいてないですし、夜だけど眠くないです」
そう答えると黄月さんは「それはなによりでござる!!」とまた大声で叫んだ。
耳が痛い。
さて、なぜ寒さの心配をされているのかというと、簡単だ。
「殿下ー!殿下!!張り切りすぎでございますぞ!殿下ァアアアアア!!!!!!」
私の安全確認ができた黄月さんは山の上の方に向かって叫ぶ。
轟く雷鳴に、負けないくらい響くのは氷が砕ける鋭利な音。
雷で引火して燃える山の中に、氷の槍がいくつも突き刺さる。
そして氷の矢が降る度に、獣の絶叫が上がった。
「はっはっはは、我らが第四皇子殿下があれほど昂って戦っておられるお姿は久しぶりでございますなぁ!!それも無理からぬこと!姫君が殿下の雄姿をご覧になりたいと望まれたのですからな!!!!」
「……え、えっと……わ、わぁ……こ、光栄です……」
違う、とは言えない雰囲気である。
天猿。
なぜ高級うなぎを欲したら天猿討伐ということになるのか。
わかるようでわからないまま今夜を迎えた。
ローアンから馬を走らせて少し行った小山に、ちょうど討伐依頼が出ているということでヤシュバル様に連れてきていただいた……まではいいが。
さて、私が「一緒に行きたいです」と幼女らしくお願いすると、ヤシュバル様は色んなことを考え込んでから、ご自身の側近、副官、右腕、懐刀と、呼び方は何でもいいのだけれど、とにかく信頼している武人である黄月さんを呼んで『シュヘラを守るように』と短くお命じになった。
そしてそれを受けた黄月さんが『拝命いたしました!!姫君に何かあれば黄家全員が首を切ります!』と即答した。
……このお二人のやり取り、何も大げさではない。
とくにヤシュバル様は、私のことをあれこれ色々……最近は色々と、悟っていらっしゃる。
目の前で黄月さんが『一族全員道連れにします』と誓ったことで、私が後先考えない突発的な行動をしないように……先手を打っている。
くっ……私の未来のお婿さんが、私の扱いを……気付き始めている。
負荷をかけすぎた……!
「あの……黄月さん……もっとこう……近くで見たいっていうか、私も天猿が見たいんですが」
なんでうなぎが天猿なのか、その謎を解くために我々はアマゾンの奥地へ……ではないけれど、山奥まで来ているのである。陛下にも「今夜は美味しいうなぎですよ!」とお手紙を残している。
……山中に響き渡る獣の絶叫が、うなぎの上げた声なのか、見に行きたい。
「あっはははは!姫君!ははは!姫君!何を世迷い事を仰られるのか!!あのような怪物の前に小さな姫君をお連れするなど!!わははははは!!」
「一体なんなんだ……天猿……」
私がお願いしても一蹴にされる。
あのヤシュバル様が一撃で倒せず山狩りになっているのだから、相当の怪物なのだろうけれど……益々気になる。そもそも……うなぎとどんな関係が……。
うっかり目の前に降りてきやしないかと期待がないわけではないが、ヤシュバル様が前線で戦って相手をされているので、そんなアクシデントは発生しないだろう。残念だ。
「……ヤシュバルさまが、私の未来のお婿さんがかっこう良くすてきに戦っていらっしゃる所が見れたら、とても嬉しいんですが……」
「なんと!!姫君!!!!なんといじらしい!!!!!!しかし!!!無理なものは無理でござる!!」
ッチ……。
幼女らしく目をウルウルとさせて見つめてお願いしても無理だった。さすがは黄月さん。乙女心を粉砕して突き進む独身貴族。これは琥珀の方に変身してみても駄目そうだな……。賢者より慎重。
「キュイキュイ」
「キィー」
「む?」
「うん?」
私が諦めかけていると、茂みからひょっこりと顔を出してきたのは……茶色い毛並みの、子猿さんが二匹。
『キャワワワン!』
すぐさまわたあめが虚空から飛び出し、子猿さんたちを威嚇する。
犬猿の仲という言葉がよぎりつつ、私の脳裏に二対一で子猿さんたちに惨敗するわたあめが浮かんだが、予想に反して、子猿さん二匹はわたあめに怯えて、ぎゅっと、お互いの体を抱きしめ震える。
「む……?なんと、野生の猿のようでござるな……なるほど……哀れな」
私よりも小さい子猿さん二匹を見て、黄月さんが目を細めた。
可愛い野生の猿を見て哀れむ理由があるのだろうか。
「……おそらく、山上の天猿はこの子猿らの親でござろう……」
「……うなぎをとりに来てるのでは??」
「天猿、つまりは天の祝福を受けたうなぎを食した猿でござる」
……パードン??
神妙なお顔で黄月さんが語るのは……この山を荒らす天猿について。
元々、山にはうなぎが生息しており、この時期になると天から降る雷が……うなぎにうっかり直撃すると、うなぎが雷の祝福に目覚めるらしい。
そしてうっかりそのうなぎを食したお山のお猿さんは、尻尾がうなぎになるそうだ。
そしてそうなった猿は狂暴化するので討伐対象となり、尾は高級食材「うなぎ」として扱われるとか……。
「イブラヒム殿のお考えでは、天猿となった猿の自我はなく、尾の部分が主人格だとか」
「寄生されてるんじゃないですかそれ怖っ……」
そんなブツを陛下にお出ししていいのか。いいんだろうか。
周囲に電撃をまき散らし咆哮を上げながら木々をなぎ倒して大暴れする大猿、すなわち、うっかり雷があたったうなぎ。
……。
スイカといい勝負だな!!
お久しぶりです。お元気ですか。
千夜千食物語、コミカライズが今なら(2024/9/3)全話無料で読めます。
毎秒陛下が格好いいので全人類見てくださいお願いします。




