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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・秋冬編)
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六十五話 秋冬編の終わり

冬休みの最後の日に家庭教師に行ったが、ほとんど新年のあいさつと雑談で終わった。


その日の夜、祥子さんは杏子さんに例の件を聞き出そうとしていた。


「ねえ、杏子、こんなことを聞くのは何だけど、おじさんとおばさんって駆け落ちしていたの?」


「私の両親のこと?ええ、そうよ」とあっさり答える杏子さん。


「母が松葉女子高生だった時に父と知り合ってつき合い始めたんだけど、両家の親、つまりおじいちゃんたちとおばあちゃんたちは大反対だったそうなの」


「それで駆け落ちしたの?大胆なことをしたわね」


「先生たちにまで連絡が行って、母は校内でも監視されていたみたいなんだけど、友だちの助けを得て学校から抜け出したんだって」(「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」五十九話参照)


「そうなのね。全然知らなかったわ」


「みんな、あまり話したがらなかったみたいだから。多分、明日香も知らないわ」と杏子さん。


「それなのに美知子さんは知っていたのね?」と俺の方を見る祥子さん。


「わ、私も知ったのは偶然なんです。松葉女子高には、昔女子生徒が学校のトイレから忽然と消え失せたという噂があって、それを友人と調べていたら、たまたま杏子さんのお母さんのことだとわかったんです」と俺はあわてて弁明した。


「駆け落ち中に私ができたんで、二人の結婚を認めてもらったらしいの。つまり、私は両親のキューピットね」と、人ごとのように穏やかに話す杏子さんだった。


翌朝、俺は朝食の片づけを終えると短大に登校した。そしてクラスメイトたちに会うと、「あけましておめでとう、今年もよろしくね」とあいさつをし合った。


中には、「美蕾みらいさん、おめでとう」と俺の高座名で返事をしてくれた子がいてややめんくらった。あの落語を聞いてくれていたのだろうが、今後はあの高座名を名乗るつもりはない。


教室で佳奈さんと芽以さんに出会うと、さっそく春休みの予定について話し合った。


「追再試がなければ二月には春休みになるけれど、万博は三月十五日から始まるから、十五日に二人で大阪に来てもらうということでいい?」と佳奈さんが俺と芽以さんに聞いた。


「前は三月二十日頃と言っていたけど、少し早めるのね?」と聞く俺。


「万博が始まる日に大阪に行って、そのまま万博会場に行くの?」と芽以さんが聞いた。


「そうじゃないの。大阪に来た日に万博に行っても、半日もいられないじゃない」と佳奈さん。


「つまり、万博に行く日は早くて十六日になるのね?」と俺は聞いた。


「そう。十五日は初日だし、日曜日だから来場者がとても多いでしょうね。その点十六日は月曜日だし、小中高はまだ春休みになっていないはずだから、少しは会場がすいていると思うの」


「なるほど。いい考えね」と芽以さんが感心した。


「三月十四日には開会式があるらしいけど、招待客しか入れないから私たちには関係ないわね。でも、テレビ放送があるみたいだから、それを観て気分を高めてね」


「オリンピック並のお祭なのねえ」と感無量な俺。


「私は先に大阪に帰っているから、十五日になったら二人で新幹線で来て」


「そうか。行きは私と芽以さんの二人か」と俺はつぶやいた。大阪が地元の佳奈さんが一緒でないので一抹の不安を覚える。


「二人で新幹線に乗れるかしら?」と芽以さんも不安を口にした。


「大丈夫、大丈夫」と根拠なく保証する佳奈さん。


「新幹線の運賃っていくらなの?」と俺はもうひとつの心配事を佳奈さんに聞いた。


「えっと・・・ちょっと待ってね」手帳を取り出す佳奈さん。


「超特急ひかり号の普通車が、運賃二千二百三十円と特急料金千九百円で、合計四千百三十円ね。特急こだま号の普通車だと、特急料金が千五百円だから、合計三千七百三十円ね。これは指定席の料金で、自由席だと百円引きの三千六百三十円よ。そしてグリーン車がそれぞれに二千円足して・・・」


「あ、待って。グリーン車には乗る気ないから」と俺はあわてて止めた。


「ひかり号とこだま号ってどう違うの?」と聞く芽以さん。


「ひかり号は停まる駅が少なくて、新大阪まで四時間で着くわ。こだま号は各駅停車だから五時間かかるわね」


「一時間しか違わないなら、こだま号の自由席にしようか?」と俺は芽以さんに聞いた。百円でもこの時代なら馬鹿にできない額だ。


「私はそれでいいわよ。指定席だと指定された列車にしか乗れないんでしょ?発車時刻に遅れたら大変だから、自由に乗れる方がいいわ」と芽以さんが言ってくれた。


「それで、新大阪駅に着いたらどうするの?」と俺は佳奈さんに聞いた。


「悪いけど、新大阪駅に着いたら私の家に電話して。そうしたらすぐに迎えに行くわ」


「佳奈さんの家は新大阪駅から近いの?」と聞く芽以さん。


「新大阪駅からだと在来線で梅田に出て、阪急電車に乗り換えるから、・・・急いでも三十分以上かかるわね。その間、どこかで待っていてよ」(作者註、阪急電鉄の昭和四十五年当時の正式な社名は京阪神急行電鉄だが、公式の略称は阪急だった)


「わかったわ。その時はよろしくね」と俺たちは佳奈さんに言った。


大阪旅行のスケジュールを整理すると、三月十五日(日)に新幹線で新大阪駅に着き、佳奈さんの家にお邪魔する。十六日(月)と十七日(火)は朝から万博会場に行く。


東京に帰るのは三月二十一日(土)の予定で、十八〜二十日はその日の気分次第で京阪神を観光する予定だ。


「万博ではどのパビリオンから見に行くか、今から計画しておきましょうね」


「佳奈さんから聞いた三菱未来館と、月の石が展示されているアメリカ館は外せないわね」と芽以さん。


「ロボットが演奏する様子が見れるフジパンロボット館にも興味があるわ」と俺。


「ところで入場料はいくらなの?」


「私たちなら確かひとり六百円よ。パビリオンに入るのは無料ただだけど。・・・そうそう、私の家から万博会場まで電車に乗ると九十円かかるわよ」


百円単位ではあるが、どんどんとお金が出て行くようだ。


「電車?国鉄なの?」


「阪急電車よ。万博会場の西口ゲート前に臨時駅が作られたそうだから、駅から降りてすぐに会場に入れるわ」


「西口から入るのね。どこが近いのかしら?」と俺が聞き、佳奈さんが持って来ていた万博会場の地図を見ながら三人であれこれと相談した。


「万博に行かない日はどうするの?」と聞く芽以さん。


「宝塚歌劇とか、遊園地に行ってみようか?」と佳奈さん。


「いいわね」と芽以さんが答えた。まだまだお金がかかりそうだ。


「遊園地は万博会場にもあるんじゃない?確か、エキスポランドだっけ?」と俺は聞き返した。


「ダイダラザウルスというジェットコースターがあるって紹介記事で読んだけど」


「人が多いと乗れないかもしれないからね、別の遊園地に行った方が遊べると思うのよ」と佳奈さん。


「そうね。・・・大阪には遊園地がいくつもあるの?」


「宝塚歌劇がある宝塚市には、宝塚ファミリーランドがあるわ。・・・兵庫県だけど」


「佳奈さんの家からなら比較的近いのね」


「宝塚歌劇を見るためにはまず宝塚ファミリーランドに入園しないといけないの。それだけでお金がかかるから、どうせなら遊園地でも遊びたいわね」と佳奈さんが答えた。


「宝塚ファミリーランド以外には、大阪府内ならひらかたパークとか、生駒山上遊園地とか、みさき公園なんかがあるわね。家から近くて行きやすいのはひらかたパークぐらいかな?」


東京近郊にもいくつか遊園地があったと思うが、俺はこの時代に来てから遊園地に行ったことはなかった。それが大阪まで行って遊園地で遊ぶことになるなんて、妙な気分だ。


それはともかく、こうして春休みのおおまかな予定が立ったので、短大の試験を落とさないように勉強し、また、家庭教師を頑張って旅行費用を貯めることに専念しよう。


その日の夜、下宿に戻って俺は祥子さんと杏子さんに春休みの旅行について話した。


「万博か、おもしろそうね」と祥子さん。


「どうせ大阪に行くのなら、うめだ花月やなんば花月に寄ってみたらどう?」と杏子さんが提案した。


「落語なら笑福亭仁鶴や桂三枝、漫才なら横山やすし・西川きよしが人気があるし、花紀京や岡八郎が出演する吉本新喜劇も有名よ」


「そ、そうですか・・・」仁鶴や三枝(六代目桂文枝)や西川きよしは平成時代でも有名だった人だ。


「藤山寛美の松竹新喜劇もおもしろいけれど、人情噺だから、ちょっと説教臭いかしら?」・・・さすがにそこまではよくわからなかった。


「佳奈さんや芽以さんと漫才について話したことはないから、二人とも興味がないと思うわ」


「佳奈さんって、大阪の人なんでしょ?だったら興味があるはずよ」と決めつける杏子さんだった。


その週も英子さんの家庭教師に行った。


「年末の映画は面白かったわね」と英子さん。


「そうね。でも、英語の勉強にはなったの?」


「一日じゃああまり身につかなかったかも。また、洋画を観に行きましょうよ」


「そうねえ・・・」家庭教師代をもらって映画を観に行くのはさすがに気が引けた。


「でも、勉強になりそうな洋画ってそうそう公開していないでしょ?」


「映画館の予定を調べたら、一月二十四日に『イージー・ライダー』というのが公開されるそうよ。先生は知ってる?」


「イージー・ライダー」か。・・・オートバイに乗って旅をしていて銃で撃たれるというおおまかなあらすじしか知らなかった。


「よくは知らないわ。でも、英語の勉強には適してなさそう」と俺は答えた。


「ところで三月の予定なんだけど、私は三月十五日から三月二十二日まで旅行に行く予定なの。その間は家庭教師ができないから、また春休みの日程を考えといてね」


「わかった。・・・どこへ旅行に行くの?」


「大阪よ。大阪の友だちの家」


「ひょっとして万博を見に行くの?」


「二日間くらいは行く予定よ」


「いいなあ、私も行ってみたい」と英子さん。


「ご両親に連れて行ってもらったら?」


「でも、高校生にもなって親と旅行なんて」


「別にいいじゃない」


「かと言って、友だちと一緒の旅行もできないし。・・・お金がないし、親も許してくれないだろうし」


「勉強を頑張って、早く大学生になることね」と俺は英子さんを慰めた。


翌日、授業が終わって下宿に帰ったら、杏子さんと一緒に上谷部長がいた。


「やあ、美知子、待ってたよ」と俺に声をかける上谷部長。待っていたと言われて一抹の不安が胸をよぎる。


「上谷先輩。・・・就職は決まったんですか?」


「ああ、そっちは親のコネでどうにかね。それより、徳方大学の落語研究部からお誘いがあってね」


「お誘い?」


「うん。二月の下旬に開催する定例の発表会に参加しないかというお誘いだよ。独断で承諾しておいたからね、よろしくね」


「勝手に決めないでくださいよ。・・・どこでするんですか?」


「大学近くの公民館を借りて、一般客相手に落語や漫才を披露するんだって。部長が私の卒業記念公演を観て気に入ったようでね、自分たちの発表会にも花を添えてほしいってさ」


「花?・・・ひょっとしてまたドレスを着て落語をしろってことですか?」


「そうお望みだったよ。私は晴着だけどね」


「いやいや、コンパニオンじゃないんですから」


「とにかく、それまでに『寿限無』の復習と、新作の練習をお願いするね」


「新作?私も二題することになっているのですか?」


「そういうことのようだね。古典でも、創作でもいいから頼むね。そうそう、わずかだけど車代は出してくれるってことだから、がんばろう!」


杏子さんはにこにこして聞いているだけだった。決定済みのようだから逃げられそうにない。大阪旅行の前に難題が加わって、俺は途方に暮れてしまった。


これで秋冬編を終わります。次回、関西編にご期待ください。


登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。高座名秋花亭美蕾(しゅうかていみらい)

黒田祥子くろだしょうこ 秋花しゅうか女子大学二年生。美知子の同居人。

水上杏子みなかみきょうこ 秋花しゅうか女子大学二年生。祥子の従妹。美知子の同居人。

丹下佳奈たんげかな 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

嶋田芽以しまだめい 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

眞鍋英子まなべえいこ 若草女子高校二年生。美知子の家庭教師先の教え子。

上谷葉子かみやようこ 秋花しゅうか女子大学四年生。落研部長。


映画情報

ピーター・フォンダ主演/イージー・ライダー(1970年1月24日日本公開)


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