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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
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四十六話 幼稚園の妖怪(美知子の妖怪捕物帳・什参)

「さて、ほろ酔い加減になってきたから、そろそろ本題に入りましょうか」と徳方大学幼児教育研究部(幼研)の金田部長が言った。


酔ったら頭が回らなくなるんじゃないかと思って俺はほとんど飲まなかったが、顔が赤くなっている部員もいた。大丈夫かな?


「じゃあ、田川君、おねが〜い」と明らかに酔っている別の女子部員が言った。


「あなたがしきらないでよ」と注意する山元さん。山元さんは田川君の幼馴染らしいから、ほかの女子生徒に話しかけられたくないのかな?と俺は邪推してしまった。


「じゃあ、田川君、改めて説明して」と山元さんが田川君に言った。


「それでは藤野さん、よろしくお願いします」と頭を下げる田川君。彼はお酒に強いのか、顔はまったく赤くなっていない。


「よろしくお願いします」と俺も頭を下げる。そのときちらっと山元さんの方を見たが、俺を警戒している素振りはなさそうだった。


「実はうちの幼稚園に森 杏奈(もりあんな)ちゃんという園児がいるんだ。その子はいつも母親が送り迎えに来ていたんだけど、その母親はあまり化粧っ気のない地味な・・・清楚な女性だった」


「田川君はそのお母さんを知っているの?」と柴崎さんが口をはさみ、山元さんが柴崎さんをにらんだ。


「田川君は夏休みの間は幼稚園を手伝っているのよ」と山元さん。


「そうなんだ。だから最近の様子しか知らないけど、杏奈ちゃんはいつも母親が迎えに来ると笑顔で『ママ〜』って言って駆け寄って行って抱きついていた。その光景は微笑ましいものだったよ」


「だった、と過去形なのね?嫌な予感がするわ」と俺は言った。山元さんは俺をにらまなかった。


「ところが今週の月曜日に、母親とは似ても似つかない女性が杏奈ちゃんを迎えに来たんだ」


「まったくの別人なの?」


「派手な化粧をして、バーのホステスが着るような派手目の服を着ていた。背も少し高いようで、とても同じ人には見えなかった」


「それはちょっと怪しいわね。幼稚園の先生は杏奈ちゃんをその女性に託したの?」


「もちろん先生方も驚いてね、『いつも来られていたお母さんは?』と聞き返したんだ。するとその女性は『失礼ね、私が母親よ!』と怒ったそうなんだ。元の母親は怒声を上げるような人ではなかったから、対応していた先生はたじたじだったよ」


「田川さんもその女性を見て別人だと思った?」


「僕は以前の母親にも、化粧をした自称母親にも、近くで応対したことがほとんどなかったからよくわからない」


「それでどうしたの?」


「別の先生が園内にいた杏奈ちゃんに『あの人は誰?』って小声で聞いたんだ。すると杏奈ちゃんは『おかあさん』と答えたらしい」


「杏奈ちゃんは母親だと認めたのね?」


「さらに念のために先生のひとりがこっそり森さんの自宅に電話をかけたけど、誰も出なかった。・・・結局、杏奈ちゃんが母親だと認めているから引き渡さないわけにもいかず、杏奈ちゃんはその厚化粧の女性と帰って行ったよ」


「それが月曜日のことなのね?翌日は?」


「翌朝もその厚化粧の女性が杏奈ちゃんを幼稚園に預けに来たよ。化粧は崩れかけていて、遠目でもひどいありさまだった。その女性は何も言わずに杏奈ちゃんを預けて帰って行った」


「杏奈ちゃんに何もなかったのなら良かったわ。・・・それだけ?」


「その日の夕方もその厚化粧の女性が迎えに来て、水曜日も同じように送り迎えに来ていた。ところが木曜日、つまり昨日は、顔に白粉おしろいを塗った厚化粧のおばあさんが杏奈ちゃんを送り迎えに来たんだ」


「え?杏奈ちゃんのおばあさん?」


「老婆という意味のおばあさんで、ほんとの祖母かはわからない。幼稚園に顔を出したのは初めてだったそうだ」と田川君。


「そのおばあさんが今朝も送って来た。多分、夕方も杏奈ちゃんを迎えに来るんじゃないかな?」


「う〜〜ん、確かに妙な話だけど、それが妖怪とどう結びつくの?」


俺の言葉を聞いて、別の女子部員が身を乗り出して来た。


「私の地元の奈良県には、白粉婆おしろいばばという妖怪の伝説があるんです。鏡を引きずって歩いてくるのですが、顔一面に白粉おしろいを雑に塗りたくっていて、とても不気味だそうです」


「顔に白粉おしろいを塗ったおばあさんを妖怪に例えるのはいくらなんでも失礼すぎない?」と俺が聞き返したら、


「いえ、もうひとつ、奈良県にある長谷寺というお寺にも別の白粉婆おしろいばばの言い伝えがあるんです」とその女子部員が続けた。


「その白粉婆おしろいばばは、白河しらがばばあとも呼ばれています。戦国時代のことなんですが、長谷寺で観音像を作るために何人もの仏師が集まりました。そこで近くの白河しらが村から美少女が来て食事の世話などをしていましたが、その美少女が帰るときに興味を持った仏師が後を追ったら、道すがら顔から白粉おしろいが剥がれ落ちてきて、老婆の顔になったという伝承です」


「最初からおばあさんが若作りをしていて、仏師たちを騙していたの?」と山元さんが聞いた。


「いろいろな言い伝えがあって、一説では仏師のお世話で苦労をし過ぎて老婆になったとも言われています」


「急にけたってことね?」と金田部長が聞いた。


「もしかして、杏奈ちゃんのおかあさんが急にけてきて、厚化粧でごまかしていたけど結局老婆になってしまったって言いたいの?白粉婆おしろいばば、もしくは白河しらがばばあみたいに」


「そういう話を思い出しただけです」と、その奈良県出身の女子部員は言った。


「今まで聞いた話を整理するわね。杏奈ちゃんを送り迎えしたのは、地味な・・・清楚な母親と、厚化粧の母親と、白粉おしろいを塗ったおばあさんの三人ね?杏奈ちゃんは清楚な母親をママと呼び、厚化粧の母親をおかあさんと言ったのよね?おばあさんのことは何と呼んでいたの?」と俺は聞いた。


「何て呼んでいたのか先生方も聞いてないと思う」と田川君。


「さすがにおばあさんは母親とは別人でしょうね。・・・老化が早く進む病気があるらしいけど、数日という短期間ではおばあさんにまではならないでしょう」


「そうね。じゃあ、清楚な母親と厚化粧の母親は?身長が違っていたらしいけど」と聞く金田部長。


「これは同一人物である場合と、別人である場合の二通りが考えられるわ」


「同一人物の場合?」と田川君が聞いた。


「杏奈ちゃんのお母さんはお金に困って夜の仕事をすることになった。今まではあまり化粧をしない人だったけど、夜の店で働くために派手なメイクをするようになったということよ」


「でも、背の高さが違っていたらしいけど?」と聞き返す田川君。


「夜の店で働くために高いヒールの靴を履いたからかもしれないわ」


「なるほど。・・・でも、杏奈ちゃんは以前の母親をママと呼び、厚化粧の母親をおかあさんと呼んでいたわ。不自然じゃない?」と疑問を呈する金田部長。


「杏奈ちゃんは今までと違う見た目の厚化粧の女性が自分の母親だと頭ではわかっているんだけど、感情が追いつかず、違和感からわざと違う呼び方をしているのかもしれないわ」


「そう説明されると一応は辻褄が合うね。・・・で、おばあさんは?」と聞く田川君。


「母親の実母、または姑で、夜働いている間、杏奈ちゃんの世話をしてもらうために、最近同居するようになったということでしょうか?」


「なるほどねえ。・・・杏奈ちゃんのお父さんはどんな人なの?」と柴崎さんが口を出し、山元さんににらまれていた。


「幼稚園に来たことはないけど、どこかの会社の役員をしているらしいよ。忙しくて杏奈ちゃんの世話はできないんじゃないかな」


「会社の役員?偉い立場かしら?・・・ひょっとしたらちょっと年をとった人かもしれないわね」と坂田さんも口を出し、山元さんににらまれた。


「でも、偉い役職の人なら給料もいいでしょうから、奥さんが夜働きに出る必要はないんじゃないの?」と山元さんが言った。


「家庭の収入まではわからないな」と言って田川君が肩をすくめた。


「それで、別人説は?」と聞く金田部長。


「例えば、厚化粧女とおばあさんが杏奈ちゃんの家に住み着いて、ほんとうの母親、杏奈ちゃんのママが家から追い出されたとか・・・」


「どういうこと?」


「そうですね。・・・がらがらがら」と俺は引き戸を引く真似をした。


「厚化粧女と杏奈ちゃんの父親が自宅の玄関に入って来たところ。


 すると杏奈ちゃんのママが驚いて、『あなた、その方はどなたですか、いきなり家につれて来て?』と聞くんです。


 『私が今日から森さんの妻よ。あなたとは離婚して、私と再婚することになったの。あなたには手切れ金をくれてやるから、さっさとこの家から出て行きなさい!』


 『そ、そんな。・・・あなた、ほんとうですか?』


 『すまんが、そういうことだ。金をやるから、実家に帰ってくれ』


 『そうですか。・・・杏奈、悲しいけどこの家から出て行きましょう』


 『待ちなさい!その子はこの家に残るのよ!私が育てるからあなたひとりで出て行きなさい!』


 『そ、そんな。・・・あなた、どういうことですか?』


 『杏奈はわしの娘だ。金をかけて立派に育ててやるから、安心して実家に帰れ』


 『杏奈!杏奈!・・・』」娘に手を伸ばす演技をする俺。すぐに俺は向きを変えた。


 「『ママ!ママ!』


 『がらがら・・・ぴっしゃ〜ん!』杏奈ちゃんのママは追い出され、玄関の戸が閉められてしまいました。


 『杏奈ちゃ〜ん、今日からあなたの母親は私よ。私をおかあさんと呼びなさ〜い』


 『いや、杏奈ちゃんのママはあのママだけよ!』


 『私をおかあさんと呼ばないと、ママが痛い目を見るわよ!死んじゃうかもよ!』


 『・・・お、おかあさん。ママをいじめないで』杏奈ちゃんは泣く泣く従うのでした」


俺の寸劇に見入る部員たち。


「こうして杏奈ちゃんはママと別れて、厚化粧の女と暮らすようになりました。厚化粧の女は最初は幼稚園まで送り迎えに来ていましたが、すぐに飽きて、使用人の老婆に任せるようになりました・・・」


「かわいそうな杏奈ちゃん!」と感情移入する山元さん。


「杏奈ちゃんのお父さんの浮気が原因だったのね!それにしても母子おやこを引き裂くなんて、非道な真似を!」


「ま、まあ、そういう可能性が考えられるってだけで、真実かどうかはわからないから・・・」


「もしそうだったら、杏奈ちゃんがかわいそう」という囁きが部員たちの間から漏れ聞こえてきた。


「同一人物だったとしても、別人だったとしても、いずれも家庭の問題だから、幼稚園側は口を出せないわね」と金田部長が冷静に言った。


「ただ、気になることが・・・」と田川君が言った。


「何?まだ何か話していないことがあるの?」と聞く山元さん。


「昨日、杏奈ちゃんがおばあさんと帰るときに、『ママは大丈夫?』っておばあさんに聞いていたらしいんだ」


「『ママは大丈夫』って、どういう意味かしら?」と言って山元さんは俺の方を向いた。


「どう考えたらいい?」


俺は少し考えてから口を開いた。


「同一人物説の場合は、夜に働きに出るようになった母親が、慣れない仕事で体調を崩して寝込んでしまったとか」


「なるほど」


「別人説の場合は、家から追い出されたママがひどい目にあっていないか、気になって聞いたのかもしれないわね」


「それで同一人物説と別人説のどっちが正しいの!?」と柴崎さんがしびれを切らして聞いてきた。


「さあ・・・」としか俺には答えることができなかった。


「どっちの説も、推理というよりはただの想像だから。・・・田川さんの話を聞いただけじゃ何とも言えないわ」


「それもそうね」と金田部長。


「それなら明日、うちの幼稚園に来てもらえないか?明日は土曜日だけど、半ドンで午前中は園児を預かるから」と田川君が俺に頼んできた。


明日も特に予定はないが、田川君ちの幼稚園までわざわざ行かないといけないのだろうか・・・?


四十六話登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

金田憲子かねだのりこ 徳方大学三年生。幼児教育研究部部長。

田川隆之たがわたかゆき 晨立大学二年生。幼児教育研究部学外部員。

山元佳子やまもとよしこ 徳方大学一年生。幼児教育研究部部員。

森 杏奈(もりあんな) 田川幼稚園に通っている園児。

柴崎由美しばざきゆみ 徳方大学一年生。幼児教育研究部部員。

坂田美奈子さかたみなこ 秋花しゅうか女子短大家政学科一年生。幼児教育研究部学外部員。


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