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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
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四十一話 帰宅後の出来事

お昼になったので昼食の準備をして、武と美佐子さんを呼んだ。


「おみやげ代わりに今朝買って来たの。横浜名物なのよ。食べてね」と言ってシウマイ弁当を披露する。


美佐子さんは俺が茶碗にご飯をよそっているのを見て、


「お姉さんのはないんですか?」と聞いてきた。


「私は横浜で食べたからいいの。武は二個ぐらい食べられるでしょ?」


「こんな小さいの、余裕だよ」と言って包装を開ける武。


「シュウマイは四個しか入ってないのか」と俺と同じ感想を言う。


「色んなおかずが入ってる方が豪華でしょ」と俺が言われたことを武に言い返した。


「横浜は楽しかったですか?」と聞く美佐子さん。


「ええ。山下公園、マリンタワー、港の見える丘公園などの景色がいいところや、横浜中華街、元町商店街などを見て回ったわ。後で絵葉書を見せてあげる」


「合宿って、遊びに行ってるだけじゃないか」と茶々を入れる武。


「半分遊びなのは否めないけど、街であった外国人に英語で話しかけてみるという英研の合宿目的も忘れなかったわよ」


「さすがですね。私にはなかなかできません」と俺を立ててくれる美佐子さん。


「その様子が見たかったな」とシュウマイを口いっぱいにほおばりながら武が言った。


俺の立派な姿を見たかったわけではなく、笑い話のネタを探したいのだろう。俺の時代のようにネットが発達していたら、匿名掲示板で俺のことをさらしていたに違いない。・・・この時代で良かった。


「おいしかったです。ごちそうさまでした」食べ終わってお礼を言う美佐子さん。武も母も同じ頃に食べ終わったので、俺は鞄の中から買ってきた絵葉書を出した。


「これが山下公園と氷川丸、こっちがマリンタワーね」と言ってみんなに説明する。


「このステージみたいなところはどこですか?」


「それは港の見える丘公園の展望台ね。港が一望できるわ。いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』はここから見た景色を歌ったものらしいわ」と仕入れた知識を披露した。


「そうなんですか・・・」うっとりした目で見る美佐子さん。


「その絵葉書が気に入ったのならあげるわ」


「いいんですか?」


「どうぞ、どうぞ。もらってくれると嬉しいわ」


ちょうど父が帰って来たので、シウマイ弁当を食べてもらいながら合宿の報告を繰り返した。武と美佐子さんはどこかへ遊びに出て行った。


食後、合宿中の汚れ物を洗濯する。お昼過ぎているが、暑いからすぐに乾くだろう。


洗濯物を干し終わると、俺は両親に断って家を出た。行き先は一色の家だ。


一色の家の中華料理屋に入って一色の両親にあいさつする。客が少ない時間帯だったので、二階にいた一色はすぐに下りて来た。


「連絡をくれたそうね、ありがとう」とお礼を言う。


「気にしないで。・・・とりあえず上に上がって」と言われ、一色の後について階段を上り、一色の部屋に入った。


「適当に座ってよ」と言われて座ると、畳の上にしおりを挟んだ新書サイズの本が置いてあるのに気づいた。タイトルは、『ホームズの冒険』だった。


「あら、ホームズの小説を読み返しているの?」


「それはね、シャーロック・ホームズじゃなくて、『シュロック・ホームズの冒険』って本なんだ」


「シュロック?」


「ホームズのパロディ小説だよ。読者でもわかるような誤った推理をするコミカルな作品だよ」


「へ~、そんな小説もあるのね」


「シャーロック・ホームズは知らない人のいない名探偵だからね、パロディ作品やオマージュ作品が多数出てるんだよ。作者のコナン・ドイルの息子と、有名な探偵小説作家のジョン・ディクスン・カーが合作した、『シャーロック・ホームズの功績』なんて本もあるんだよ。どれも本家には及ばないけどね」


「チヨちゃんはそんな本まで読んでるんだね」


「・・・こういう話をミステリ研の部室で神田君とよく話したな。彼も読書家だからね、お互いに知らない本を紹介し合ったもんだよ」


「神田君はチヨちゃんみたいな人と相性がいいんだね」俺じゃだめだな、と思った。


「そうでもないよ、神田君はミチのことを、あまり本は読んでないけど自分の話を興味深く聞いてくれるいい人だって言ってたよ。ところで、神田君の家にもう一度電話をかけたんだけど・・・」


「ど、どうだった?」


「そのときもお母さんらしい人が電話に出たんだ」


「そ、それで?」


「神田君に今日の三時半に私の家へ電話してくれるよう伝言を頼んだんだ。『ミステリ研のことで相談がある』って言ってね」


「三時半?」あと十分くらいだ。


「ミチの都合がわからなかったから適当に約束したけど、ちょうどいいときに来てくれて助かったよ」


「まずいときに来た」と思って苦笑した。まさか一色の家に来て、神田君と電話越しにではあるが、いきなり話をすることになるなんて。


「今は店が空いているから、一階に下りて待とう」一色に連れられて一階に下り、空いているテーブル席に座る。


「ジュースでも飲む?」と聞く一色。俺は首を横に振った。


「水でいいわよ」


俺の返答を聞いて、客用のガラスコップに水道水を注ぐ一色。ちなみにこの時代の庶民はミネラルウォーターなんか知らないし、売っているところを見たこともない。


俺の前にコップを置いて席に着く一色。コップを口に当てて水をすすったときに電話がかかってきた。


「電話に出るよ」と一色が両親に断って、レジの近くにあるピンク電話(店舗用の簡易公衆電話)の受話器を取った。


「はい、一色です。・・・あ、神田君?」と話す一色。


「・・・うん。そのことだけど、ミチがいるから替わるよ」


一色から受話器を渡されてあわてて耳に当てる。


「あ、神田君?藤野です。お久しぶりです」


「やあ、藤野さん。電話をもらったそうで」と神田君の声が受話器から聞こえた。


「はい。・・・その後合宿があったりして、電話をかけ直す暇がなかったので、チヨ・・・一色さんにかけ直してもらったんです」


「そうだったんだね。一色さんが電話をかけて来るから何事かと思ったよ。彼女は立花先生とつき合ってるんだからね」


「そ、そうらしいですね」と俺は一色の顔を見ながら苦笑した。


「それで、例の映画を観に行く件ですが・・・」


「うん。君はいつがいい?僕はいつでもいいんだけど」


・・・神田君とやっぱり映画を観に行くことになるのか。まあ、お世話になったし、約束したからね。


「それでは、今度の木曜日のお昼頃ではいかがでしょうか?」水曜日に英子さんの家庭教師をするから、マンションに泊まって、その翌日に会うことにすれば、いちいち家から来なくていい。


「じゃあ、その日に明応大近くの駅前で会おうか?」


「はい。それでかまいません」


「じゃあ、よろしく」と言って神田君は電話を切った。一色の家、というか、店にかけているのだから、長話はできないと思ったのだろう。


俺も受話器を降ろすと、近くに聞いてないふりをして立っていた一色に礼を言った。


「ありがとう、チヨちゃん。ようやく神田君と連絡が取れたわ」


「役に立って良かったよ」と一色。「神田君と会うのかい?」


「ええ。レポートの資料集めを手伝ってもらったお礼を兼ねてね」


「今日は時間があるんでしょ?私の部屋で話そうか?」


「お手伝いはいいの?」


「夕方まではそんなに客は来ないから大丈夫だよ」と一色が言ったとき、再び電話が鳴った。


「はい、一色です。・・・え?先生?」一色の声が変わった。それからしばらく話を聞く一色。


「はい。私はかまいません。・・・その、友だちをつれて行っていいでしょうか?」としばらくして一色が話した。


「あのときの後輩じゃありません。・・はい、その人です」と言って一色は俺の方を見た。


「・・・わかりました。すぐに聞いてみますので、ちょっと待って」一色は受話器の送話口を押さえると、厨房の方に声をかけた。


「おとうさん、おかあさん、明日のお昼に立花先生に会いに行ってもいい?」


「お呼ばれかい?行っといで」と一色の母親が答え、父親もうなずいた。


「ミチ、明日の午後、つき合ってもらえるかい?」一色が今度は俺に聞いてきた。


「明日は大丈夫だけど」と俺はわけもわからずに答えた。


「大丈夫です。・・・それではそこに二人で行きます。さようなら」と一色が答え、受話器を戻した。


「立花先生と警視庁の刑事さんに明日会うけど、ミチが前に預けてくれた泥棒の似顔絵について進展があったんだって」


「え、そうなの!?」と俺は驚いて聞き返した。あの市松人形窃盗事件は迷宮入りになったのかと思っていた(十八〜二十一話参照)。


「それは絶対に聞かせてもらわなくっちゃ。・・・でも、わざわざチヨちゃんに連絡してくれるなんて、そうとう親切な刑事さんね」


「実は何か相談事もあるらしいよ」


「相談事?一色名探偵の出番なのね」


「ミチも頭いいから、一緒に考えてよ」と言われた。一色がいれば俺の出番はないと思うが。


その後、先ほどの部屋に上がり、夕方まで近況を話し合った。俺は横浜に行き、観光して回ったことや、幽霊電車の謎を解いたことを説明した。


「とても興味深かったよ。ミチはやっぱり頼りになるね。交通機関を使ったアリバイ工作は時刻表や路線図を比較して検討すれば解けるかもしれないけど、年によって路線が変わるというのは厄介だね。知ってる人がいて助かったね」


「そうなのよ。今は時代の移り変わりが早い時期なのかしら?そのことが物事を余計にややこしくしたんだわ」


そんなことを話しているうちに階下の店に少しずつ客が来始めたようで、俺は一色にお礼を言って一色の家を出た。その帰りに明日香の家に寄る。


水上家の玄関のドアホンを押す。しばらくするとお手伝いさんが顔を出したので、


「こんにちは、藤野です。明日香さんとマキさんはご在宅ですか?」と聞いた。


俺の声を聞きつけたのか、明日香と真紀子が廊下をどたどたと走って来た。


「お姉様!」「みっちゃん!」


「合宿から昨日帰って来たからあいさつに来たの」


「さあ、上がってよ」と明日香に言われ、水上家にお邪魔する。


明日香の部屋に通されると、「はい、おみやげ」と言って横浜の絵葉書を一枚ずつ二人に渡した。山下公園と氷川丸の絵葉書だ。


「ありがとう、みっちゃん。・・・すてきなところみたいね」と真紀子。


「いいところだったわ。いつか行ってみるといいわよ」


「大人になったらいろいろなところに行ってみたいわ。横浜だけじゃなく」


「とりあえず来年には修学旅行で京都と奈良に行くけどね」と明日香が言った。


「歴史のある町なら鎌倉、港町なら横浜や神戸、それに北海道や九州にも行ってみたいわね」


「そうね。来年には大阪万博もあるし。・・・でもそんなに旅行できるかしら?」と真紀子。


「今は高度経済成長期って言われているから、大人になったらもっと裕福になって、日本中に旅行するだけじゃなく、海外旅行だって夢じゃなくなるわよ」


二人の話を聞きながら、俺の時代のことを思い出した。一部の地域を除けば海外旅行に自由に行けた時代だった。ただし金銭的余裕があればの話で、あいにく俺は外国はおろか、国内旅行もあまりしたことがなかった。


この時代ではいろいろなところへ行けるようになるのだろうか?


四十一話登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺、ミチ、お姉様、みっちゃん) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。英語研究会(英研)部員。

藤野 武(ふじのたけし) 美知子の弟。市立中学二年生。

芳賀美佐子はがみさこ 市立中学二年生。弟の武の彼女。

一色千代子いっしきちよこ(チヨちゃん) 明応大学文学部一年生。

神田一郎かんだいちろう 明応大学商学部一年生。

立花一樹たちばなかずき 明応大学医学部法医学教室の助手。一色千代子の彼氏。

眞鍋英子まなべえいこ 若草女子高校二年生。美知子の家庭教師先の教え子。

水上明日香みなかみあすか 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

内田真紀子うちだまきこ 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。


歌謡曲情報


いしだあゆみ/ブルー・ライト・ヨコハマ(1968年12月25日発売)


書誌情報


ロバート・L・フィッシュ/シュロック・ホームズの冒険(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、1969年6月30日初版)

ロバート・L・フィッシュ/シュロック・ホームズの冒険(ハヤカワ・ミステリ文庫、1977年3月31日初版)

アドリアン・コナン・ドイル、ジョン・ディクスン・カー/シャーロック・ホームズの功績(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、1958年5月31日初版)


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