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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
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四話 明日香への葉書

翌日の昼休み、俺はいつものように佳奈さんや芽以さんと一緒に学生食堂でお昼を食べていた。そこへ坂田さんが近寄って来た。


「藤野さん、ちょっといい?」と隣に座って俺に話しかける坂田さん。


「ええ、いいわよ。なあに?」


「黒田先輩にね、私からも藤野さんを英研に誘うよう頼まれたの」と坂田さんが言って俺は驚いた。


「え?英研に入部するの?」と俺に聞く佳奈さん。


「えっとね、英語のレポートで悩んでいて、祥子さん・・・同居している黒田先輩にどうしたら英語が上達しますかって聞いたの。そしたら英研に入ると英語に慣れてうまくなるわよって誘われたの。回答は保留してるんだけど・・・」


「私たちも英文学科なんだけど、英研って普段から英語ばかりしゃべるの?ちょっと大変そうね」と芽以さんが横から言った。


「そんなことはないわよ。たまにフィールドワークと称して街中で外国人に話しかけるってことはしているけど、普段はおしゃべりしているだけよ。それも日本語でね」と坂田さん。


「それは楽しそうだけど、英研らしからぬ活動ね」と佳奈さんも言った。


「それはともかく、同居している先輩がなぜあなたに勧誘を頼むの?本人に直接言えばいいことじゃない?」と芽以さんが坂田さんに向かって疑問を口にした。


「先輩からの命令って感じじゃなく、自発的に入部してほしいからかしら?」と坂田さんは俺の隣に座って言った。


今の下宿の賃料は祥子さんと杏子さんそれぞれの両親が支払っている。俺は家事を手伝う代わりにただで住ませてもらっている。祥子さんは優しいから、そういう金銭的な上下関係を盾に取って俺に強要したくなかったというのもあるだろう。


「・・・そうねえ」と考え込む俺。


「今は落研おちけんに入ってるんでしょ?藤野さんも落語とか練習しているの?」と芽以さんが俺に聞いた。


「自分で落語や漫才をしようとは思ってないの。たまに浅草とかに行って、落語や漫才を鑑賞しているだけよ」


「英研だって英語の勉強のためと言って映画館に洋画を観に行くこともあるわよ。似たような活動じゃない?」


坂田さんにそう言われると、なんとなくその気になっていく。


「・・・わかったわ。今やってるレポートやそのほかのことが落ち着いてきたら、前向きに考えてみるわ」と俺は坂田さんに言った。


「ほかのことって?」と突っ込む佳奈さん。俺が明言しないところにツッコんでくるから佳奈さんには油断ができない。


「勉強やレポートとは別に調べごとをしているの。・・・ところで感謝の印としてちょっとしたプレゼントを贈るとしたら、どんなのがいいかしら?」と俺は聞いた。プレゼントする相手は、SFのことをいろいろと教えてくれそうな神田君のことだ。


「相手の性別や年齢によるわよ。・・・男なの?」と佳奈さん。


「ま、まあね」と俺が答えると、佳奈さんと芽以さんと坂田さんが一斉に食いついてきた。


「若い男なん?」「彼氏なの?」「つき合っている相手がいたなんて知らなかったわ!」


「か、彼氏とかじゃないの。同い年くらいの大学生だけど、いろいろと教えてもらうことになったので、そのお礼を考えているだけよ」と俺はあせって弁明した。


「何を教えてもらうの?」「まさか、愛の手ほどき?」「手取り、腰取り?」と追及の手を緩めない三人。


「そんなんじゃないわよ。・・・例の『自分の好きなもの/ことについて英文で詳述せよ』って課題のレポートがあったでしょ?文学の一ジャンルを題材にしようと思って、昨日明応大に行って一色さんと会ったの」・・・最初に「レポートとは別の調べごと」と言ってしまったので矛盾した言い訳だったが、そこには誰も気づかなかったようだ。


「一色さんってのが男子学生の名前?」「明応大生ってエリートじゃない?」同時に聞く佳奈さんと芽以さん。


「一色さんは女子高の同級生なの。読書家だけど、私が調べているジャンル、科学小説のことはよく知らなさそうだから、よく知っている男子学生を紹介してもらったの。それだけよ」


「それだけなの?つまらないわね」と佳奈さん。そうです、みなさんが楽しめる要素は特にありません。


「まあまあ。感謝が愛に発展するってこともあるかもよ」と芽以さん。いえ、ありません。


「ところで、手相はまだ観れないの?」と坂田さんが聞いてきた。


「そうそう、手相のことは私も気になってた」と食いつく佳奈さん。


「前にも言ったけど、当たるって保証はないから今はやめているの」


「手相が観れるようになったら私のも観てね」と芽以さんにも言われた。


「似顔絵もまだ描けないの?」と追い討ちをかける坂田さん。


「え?似顔絵も描けるの、藤野さん」


「卒業前は手相を観れて、似顔絵も描けて、願いを叶えるミチンガってのを作ってくれて、全校生徒から慕われていたのよ」


ミチンガとはミサンガを真似た編み紐のことだ。最初から「ミサンガ」と言っていたのに、俺の名前「美知子」から「ミチンガ」と言い間違えられたのが定着してしまったのだ。


「みんな、適当にやってたことだけどね。でも・・・」俺はそう言いながらノートの新しいページを開いた。


坂田さんを見ながらさくさくと似顔絵を描いてみる。走り描きだけど、そこそこうまく描けた。


「あら、ほんとうに似ているわ。やっぱり藤野さんには意外な才能があるのね」と感心する佳奈さん。


「画用紙に描いてもらったら色もつけてもらえるんだけどね」と坂田さんが言いながら、手を伸ばして俺のノートを取ろうとした。


「あ、待って」と俺は言って、ノートに描いた似顔絵と坂田さんの顔を代わる代わる見た。


そのとき、何となく坂田さんの似顔絵が赤く光った気がした。


「・・・やっぱり坂田さんは早めに結婚するみたい。でも、短大を卒業してすぐというわけじゃないから、卒後はまず就職することを考えた方がいいわよ」


なぜだかわからないが、頭に浮かんだことを話すと、三人が固まった。


「え?藤野さん、今占ったの?」「手相じゃなく似顔絵占い?」「私も観てほしい」と三人が口々に言った。


「坂田さんの似顔絵を見ていたら何となくそう思っただけ。二人の似顔絵も描いていいけど、こんなノートじゃなく、今度スケッチブックを持ってくるからそれまで待って。・・・あ、それから、似顔絵を描いても、占いができるかどうかはわからないから」


「・・・今すぐ占ってほしいけど、綺麗な似顔絵もほしいから我慢するわ」と芽以さんが言った。


「その代わり必ず似顔絵を描いてね」「私も」「私もちゃんとした似顔絵が欲しい」とまた三人に口々にせがまれた。


「いいけど、ほかの人には言わないでね」


女子高時代にミチンガや手相占いを求めて生徒が押しかけて来たことがあった。いちいち応対するのが大変だったので、他人に知られたくなかった。


「どうせなら似顔絵占い同好会を作ろうか?」と坂田さんが提案して来たが、それはきっぱりとお断りする。


「今は何となく頭に浮かんだことを話したけど、その状態がずっと続くか保証できないわ」


「大学祭の日に屋台のような感じで似顔絵を描くのもいいかもね。可能ならオプションで占いもするのよ」と芽以さん。俺は肩をすくめることしかできなかった。


「とにかく英研の件は考えておいてね。その代わりプレゼントを見繕っておくから」と言って、坂田さんは昼食を食べ始めた。


その日の授業が終わると俺はマンションに帰って夕食の準備を始めた。今日のメニューは無難にコロッケとお味噌汁だ。コロッケは手作りで、ジャガイモを茹でて潰し、衣を付けてフライパンで揚げた。売られているお惣菜を並べても誰も文句を言わないだろう。しかし、俺は手作りのあっさりでほくほくした味わいが好きなのだ。


キャベツの千切りとトマトも添える。キャベツの千切りはしばらく水に浸けてからザルにあけておいた。水に浸けている間にキャベツの栄養分が流れ出そうだが、歯触りがシャキシャキしてくる。祥子さんと杏子さんにどっちが好きか聞いて、シャキシャキキャベツを作るようになった。


祥子さんと杏子さんが帰って来て、夕食と入浴をすませた後、俺はいつものように勉強机代わりのテーブルに向かった。


「今日も勉強するの?」と聞いてくる杏子さん。


「今日は葉書を書こうと思っているの」と答えると、祥子さんがつかみかからんばかりに迫って来た。


「まさか、男に出すんじゃないでしょうね!?」


「へぇ?」祥子さんの勢いに間の抜けた声を出す俺。


「男ってなあに?」と杏子さんが聞いてきた。


「今日英研で坂田さんに聞いたのよ。美知子さんが男性へのプレゼントを買おうとしてるって。どこに男を作ったのよ!?」


「それは聞き捨てならないわ」と杏子さんも言った。「そんな暇があるなら落研おちけんの活動をもっとしてよ」


「英研もね」


「そのプレゼントの件は、レポートの題材を教えてもらう予定の人にお礼としてあげようかなと漠然と考えているだけです。交際相手とかじゃありませんから」


「それは誰なの?」と聞く杏子さん。


「女子高のとき同級生だった一色さんの友人なの。読書家らしいから、いろいろと話を聞かせてもらおうと思っているだけなの」と俺は必死で弁明した。


「そうなの?・・・美知子さんの結婚相手は私が紹介してあげるから、変な男に入れ込むんじゃないわよ」と祥子さんに釘を刺された。


「はいはい」と素直に答えておこう。


「葉書は明日香ちゃん宛に出すの」


明日香は杏子さんの妹で、祥子さんの従妹でもある女子高の後輩だ。俺のことを慕ってくれていたが、卒業式以来会う機会がなかった。


「明日香に?何の用?」と聞く杏子さん。


「実はゴールデンウィークに会う約束をしてたんだけど、すれ違っちゃったの。だからレポート書きが終わってからだけど、松葉女子高の期末試験が終わった頃に会いに行こうと思って」


「レポートを書き終わるまで家に帰らないのね?」と祥子さん。


「はい。土日にがんばって書き上げたいと思ってるんです」俺はそう言って杏子さんの方を見た。


「杏子さん、家に帰ったら明日香ちゃんにいつ会いに行ったらいいか聞いておいてくれませんか?」


「わかったわ」と言って微笑む杏子さん。


俺はもう一度葉書に向かって、次の文面を書いてみた。


水上明日香様 お元気ですか。先日はお会いする約束をすっぽかしちゃってごめんなさい。是非お会いしたいけど、いくつかの科目でレポートを出さないといけないので、しばらくはそちらに帰らず勉強に専念したいと思っています。それがすんだら明日香ちゃんの家に遊びに行くわ。具体的な日程は杏子さんに伝えてもらうのでよろしくお願いします。素敵なドレスができたそうですね。いつか見せてくださいね。それでは明日香ちゃんと楽しくおしゃべりできる日を心待ちにしています。 美知子


葉書いっぱいに細かい字をたくさん書いてしまった。読みにくいかな?でも書いてしまったことだし、これで出してみよう。


「葉書じゃなくて便せんに書いてくれたなら、私が直接明日香に手渡したのに」と杏子さんに言われてしまったと思った。


「もう書いてしまいましたし、杏子さんが家に帰る土曜日よりも早く着くと思いますから出しておきます。杏子さん、明日香ちゃんの都合を聞いてきてくださいね」


「わかったわ」と快諾する杏子さん。


翌朝ポストに葉書を投函する。


その週の土日は俺はマンションに残り、ひとりで勉強をして過ごした。杏子さんと祥子さんは自宅に戻り、葉書を受け取った明日香と話をしたらしい。


日曜日の夕方に戻って来た杏子さんは明日香と日程を相談したことを教えてくれた。


「明日香に聞いたら、試験が終わるのが七月十二日の土曜日だから、その日の夕方にうちで食事を食べてもらうのはどうかって言っていたわ」


「十二日ですね。わかりました。私はそれでかまいません」


「以前私たちのドレスを作ったって言ったでしょ?明日香とマキちゃんがそのドレスを着て出迎えてくれるそうよ」


そのドレスについてもいろいろと因縁がある。


俺が女子校の三年生だった年に、幼馴染の恵子が俺のドレスを自作してくれた。それに感化されて明日香と杏子さんと、ついでに水上家に同居しているマキちゃんのドレスを春休みに注文したのだ。


「とても楽しみだわ。みんなのドレス姿を見るのが」卒業時点ではなぜか三人のドレス姿を見ることはないだろうと思っていた。だから感慨ひとしおだ。


「私も参加するわ」と祥子さん。「おばさんたちにそう伝えておいてね。・・・私はドレスは着ないけど」


歌が上手な明日香とマキちゃんと杏子さんと祥子さん。またみんなの前で俺の下手な歌を披露することになるのかな?・・・とりあえず何を歌うか考えておこう。


四話登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

丹下佳奈たんげかな 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

嶋田芽以しまだめい 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

坂田美奈子さかたみなこ 美知子の女子高時代の同級生。秋花しゅうか女子短大家政学科一年生。

黒田祥子くろだしょうこ 同居人。秋花しゅうか女子大学二年生。英語研究会(英研)に所属。

水上杏子みなかみきょうこ 同居人。祥子の従妹。秋花しゅうか女子大学二年生。落語研究会(落研おちけん)に所属。

神田一郎かんだいちろう 明応大学商学部一年生の知り合い。

一色千代子いっしきちよこ 美知子の女子高時代の同級生。明応大学文学部一年生。

水上明日香みなかみあすか 松葉女子高校二年生。杏子の妹。

内田真紀子うちだまきこ(マキ) 松葉女子高校二年生。明日香の家に同居。


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