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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
33/75

三十三話 同窓会

俺は買って帰った『The Little Mermaid』の文章をノートに書き写し始めた。一冊しかなかったので、買った本は英子さんに渡すつもりだが、そうすると手元にテキストが残らないからだ。


文章は二行空けて書き写した。その二行の上の行に難しい英単語の意味を調べて書き、下の行に文章の和訳を書いていく。・・・けっこう難しくて、時間を取りそうだから、とりあえず英文だけ書き写すことにしよう。


家庭教師をするときに二時間まるまるこの英文を読み進めるのは、さすがに英子さんも頭が疲れるだろう(教える俺はもっと疲れる)から、動詞の活用を問う試験問題も作っておこう。


木、金と土曜日の午前中を家庭教師の準備に費やし、午後はのんびりと過ごしていたら、夕方近くになって玄関戸が開いて俺を呼ぶ声が聞こえた。


「こんにちは〜!宮藤で〜す!美知子はいる〜?」


淑子の声だ。俺はすぐに立ち上がると玄関に行った。


「トシちゃん、ようこそ!」とあいさつして、淑子の後に貴さんが立っているのに気づいた。


「貴さんもお疲れさま。・・・二人とも上がってください」俺は二人を招き入れた。


お茶の間に入ってもらい、ちゃぶ台の前に座ってもらうと、俺はお茶の準備をした。お茶の間にいた両親は、淑子は見知っていたので初対面の貴さんにあいさつしていた。


俺は二人にお茶を出しながら淑子のお腹を見た。お腹が大きくなっているほどではないが、淑子が全体的にふっくらしたように感じる。お腹の赤ちゃんのために栄養を摂って太ったのかな?でも、太ったかなんて聞かないでおこう。


「同窓会は五時から二時間ぐらいだけど、その間貴さんはどうしてるの?」と俺は貴さんに聞いた。


「久しぶりの市内だから、本屋や道具屋を見て回っているよ」と貴さん。


「七時頃に駅前で待っているから」


「その頃にトシちゃんを無事に送り届けるわ」


その後しばらく近況を話し合っていたが、四時半頃になったので、両親に見送られて三人で家を出た。


途中の商店街で貴さんと別れて目的地の中華料理屋に向かう。そこそこ大きいお店のようだ。俺たちがテーブルとカウンターが並ぶ店内に入ると、まだ時間が早いせいかあまり客はいなかった。


俺は店員に会場を聞いて、店の奥の階段を上るよう言われた。


淑子が足を滑らせても受け止められるように淑子に先に階段を上がらせる。階段を上がったところにあるふすまを開くと、中は二十畳ほどの和室になっていて、大きな座卓が縦に並べてられていた。そして既に多くの元クラスメイトが来ていた。


「あ、生徒会長だ!」と誰かが俺に気づいて叫んだ。


「お久しぶり〜」「元気そうね」などと声が響く。俺はいちいちあいさつを返しながら、幹事の齋藤さんと佐藤さんに促されるまま一番奥の席に座った。


淑子は俺の隣だ。その隣に一色が座っていた。


「チヨちゃん、こんにちは〜」「ミチも元気そうだね」とあいさつを交わした後で、


「チヨちゃん、後で相談事があるの。帰りに少しだけつき合って」と頼んだ。


「今日は急いで帰らなくていいって両親に言われているからつき合うよ」と言ってくれる一色。


雛子さんと翠さんもあいさつに来た。


「美知子さん、この間はありがとう」「私もありがとう」と二人にいきなりお礼を言われた。


雛子さんのお礼は先日蕗子ちゃんの子守りをしたことだろう。翠さんのお礼は・・・手紙で妖怪の相談を受けた件かな?


「二人とも幸せそうね」と言っておく。赤ちゃんは?と聞こうと思ったが、これは俺の時代では何たらハラスメントに当たるだろうと気がついて聞くのをやめた。本人たちからの報告を待とう。


柴崎さんと坂田さんも一緒に寄って来た。


「藤野さ〜ん、先日はありがとう」と、東北旅行のお礼を言う柴崎さん。


「こちらこそ楽しかったわ。・・・あれから何か進展があった?」


「あれ以来、警察からの連絡はないみたい」と柴崎さん。


「でも、妖怪の可能性は否定されたから、おじいちゃんも安心して暮らせているみたい。小夜も喜んでいたわよ」


妖怪は出なくても、また泥棒に入られる危険はあるぞ、と俺は思ったが、「良かったね」とだけ言っておいた。


「みんな〜、会費を集めるわよ〜」と佐藤さんが声をかけた。俺たちは財布を出して伊藤博文の肖像が印刷された千円札を取り出す。・・・家庭教師代が飛んで行く。


佐藤さんたちにお金を渡しているときに三人の店員さんが大皿と飲み物を次々と持って来た。


大皿には料理ではなくお菓子類が盛られている。スナック菓子のカール、かっぱえびせん、ココナッツ風味ビスケットのココナッツサブレ、ホワイトクリームで包んだ細い棒状のソフトクッキーのホワイトロリータなどだ。どれも俺の時代でも売られているお菓子ばかりだ。なぜか皿の隅にパラソルチョコレートが置かれていた。


飲み物はファンタオレンジの瓶だった。コップと栓抜きも配られていく。・・・お菓子は山盛りに盛られているが、お腹いっぱい食べても原価は千円に満たないだろう。差額はこの部屋の使用料かな?


そんなことを考えているうちに同窓会の開始時刻となった。


部屋の入口側に座っていた齋藤さんと佐藤さんが立ち上がり、


「それではこれから松葉女子高校三年二組の同窓会を開催します」と宣言した。


拍手で満たされる室内。


「それではさっそくですが、乾杯のご発声を生徒会長であり、我がクラスの委員長であった藤野美知子氏にお願いします。みなさん、コップの準備をしてください」


栓抜きが回され、シュポシュポっと栓を抜く音が響き渡る。俺のファンタは淑子が栓を抜き、コップに注いでくれた。


コップを持って立ち上がる。


「みなさん、準備はよろしいでしょうか?」


「はい」「いいわよ」という声があちこちから聞こえる。


「私が元委員長の藤野です」と自己紹介をした。誰かがツッコんでくれると思ったが、部屋は静まり返っている。同じような経験を修学旅行のときにした記憶がある。


「卒業してから五か月ぶりの再会ですね。みんな、いろいろな進路に進んだので積もる話も多かろうと思います。今日は高校時代の旧交を温めて、時間が許す限り歓談しましょう。・・・それでは乾杯しますので、ご唱和をお願いします」と俺は言ってコップを持ち上げた。


「三年二組の再会を祝して、乾杯!」


「乾杯!」「乾杯!」という声があちこちから返って来た。俺はファンタを一口すすると、頭を下げてから座った。


「乾杯のご発声ありがとうございました」と幹事の齋藤さん。


「本日の同窓会には都合がついた三十人ほどに出席していただきました。お菓子はもう食べてかまいませんが、順番に近況を報告していただこうと思います。時間が限られているので、おひとり一、二分でお願いします。・・・それではまず委員長から」


また俺か、と思いながら再び立ち上がった。


「私は秋花しゅうか女子短大の英文学科に進学して、勉強を続けています。それだけです」


すぐに座ろうと思ったら、「彼氏は?」「結婚の予定は?」などの質問が飛んだ。


「あいにく恋愛、結婚に関して、報告できることはまだ何もありません」失望する旧友の視線を無視して座り込む。


「それでは次は副委員長の一色さん」と佐藤さんが指名する。


一色もしぶしぶ立ち上がり、「私は明応大学の文学部に進学し、今はミステリ研究会という部活で毎日探偵小説を読んでいます」と言った。


「あいかわらずね」というような囁き声が漏れる。一色が座ろうとしたとき、


「ちょっと待って!一色さんにはほかに報告することがあるでしょ!」と佐藤さんが指摘した。一気に視線を集める一色。


「何?」「まさか、一色さんに彼氏が?」とざわつく旧友たち。


一色は顔を赤くして口ごもっていたが、齋藤さんが、


「医学部の先生とおつき合いを始めたんでしょ?お互いの家の公認で。きっちり説明しなさいよ」と口を出したため、室内が嬌声で包まれた。


俺は既に知っていたから驚かないが、若い女性の恋話コイバナへの食いつきは半端ない。階下の店内に声が響いているんじゃないかと気が気でない。


結局、一色は十分くらい説明させられていた。このペースだと全員に回らないぞ。


一色が座ると次々と元クラスメイトたちが近況を報告した。進学、就職、家事手伝いと進路は様々だが、やはりと言うか、結婚報告には全員が興味津々だった。


翠さんの新婚報告の後、「子どもはまだなの?」とハラスメントまがいの質問が飛ぶ。


「が、がんばってます」と翠さんが答えると、再び黄色い声が巻き起こった。


雛子さんも同じような質問攻めにあった。


「子どもはまだだけど、幼い妹たちがよく遊びに来るので、お姑さんは孫代わりにかわいがってくれます」と雛子さん。


「お姑さんと仲良さそうでいいわね」と誰かが感想を囁いた。


淑子の近況報告の際も赤ちゃんはまだかという質問があった。淑子は、「準備してま〜す」とだけ答えて明言を避けた。雛子さんや翠さんに気を遣ったのかな?


柴崎さんは徳方大学の幼児教育研究部に入って、幼稚園を訪問して劇や大喜利を見せていることを話した。


「彼氏はできたの?」という質問には、


「全然。・・・幼児教育研究部はほとんどが女子部員で、今のところ男性と知り合う機会はなかなかないわ」と答えていた。


「ほとんどが女子部員だって?・・・その口ぶりだと男子部員もいそうね?」と誰かが追求する。


「他大学から参加している男子部員がひとりいるけど、別の女子部員の元々の知り合いで、この二人が一緒にいることが多いわ」


「奪っちゃいなさいよ」と誰かが物騒なことを言ったが、柴崎さんは苦笑しただけだ。


坂田さんは俺と同じ短大に進学し、英語研究会と徳方大学の幼児教育研究部に入部していることを説明した。なぜか「彼氏がいるか?」という質問はなかった。なんでだ?


その後もお菓子をつまみ、ファンタをすすりながら元クラスメイトたちの近況を順に聞いていった。時々質問やツッコミが飛ぶ。さすがに数か月では彼氏ができたり結婚話が進んでいるといった報告はほとんどなく、一色の快挙?が際立つ結果になった。


その後も旧友たちと楽しく歓談し、二時間はあっという間に過ぎ去った。この後は別の客がこの部屋を使うそうで、延長はできないということだった。


「それでは最後に藤野さんに閉会のお言葉をいただきます」と佐藤さんに指名されたので、俺はまた立ち上がった。


「楽しい時間があっという間に終わりを迎えました。みんなが楽しくたくましく暮らしているのを聞いて大変うれしく感じました」


俺は齋藤さんと佐藤さんの方を向いた。


「今日の同窓会は齋藤さんと佐藤さんが率先して企画し手配してくれました。また、この会場の手配は一色さんの協力によるものです。この三人に拍手をお願いします」


ぱちぱちと拍手が鳴り響き、齋藤さんと佐藤さんが照れていた。一色は「たいしたことしてないよ」と謙遜していた。


「次回の同窓会・・・は、一年後になるかわかりませんが、また再会して旧交を温め直しましょう」と俺が締めくくって、拍手がまた一段と鳴り響いた。


みんなでぞろぞろと中華料理屋を出、三々五々に帰って行く。俺は齋藤さんたちに別れのあいさつをして、一色と淑子の三人で残った。


「まず、トシちゃんの旦那さんが待っている駅前に行きましょう」と俺が言って三人で駅前に向かった。


駅前に停めてある車のそばで貴さんは立っていた。俺たちは声をかけて淑子を助手席に乗せると、手を振って車が帰って行くのを見送った。


「で、話って何だい?」二人きりになるとさっそく俺に聞く一色。


「実は神田君のことなんだけど。・・・神田君の自宅に二度電話したの。一度目は神田君が出て、お盆が過ぎたら映画を観に行く計画を具体的に決めようって話したの」


「それで二度目に何かあったんだね?」


「そうなの。二度目は神田君のお母さんらしい人が出られて、用件をうまく説明できなくて。・・・変に勘ぐられたんじゃないかと思うと、かけ直すのがためらわれて」


「で、私に電話してほしいってこと?」と一色が先読みして聞いてきた。


「そうなんだけど。・・・だめかな?」


「いいよ。そのくらい仲介してあげるよ」と一色は快く引き受けてくれた。


俺はそのまま一色の家に寄り、忙しそうに仕事をしている一色の両親に軽くあいさつした。そして一色が、俺が持参した葉書を見ながら神田君の家へ電話をかけてくれた。


「一郎さんはおられますか?・・・私は明応大学のミステリ研究部の部員の一色と申します」・・・一色の話し方から、また母親が電話に出たことがわかる。


「ご不在ならまたかけ直します」と言って受話器を降ろす一色。


「神田君も間が悪いね」と俺に言う一色。その通りだと思った。


三十三話登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺、ミチ) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

眞鍋英子まなべえいこ 若草女子高校二年生。美知子の家庭教師先の教え子。

宮藤淑子みやふじとしこ(トシちゃん) 美知子の女子高校時代の同級生。新婚。

宮藤 貴(みやふじたかし) 淑子の夫で従兄。

齋藤美樹さいとうみき 美知子の女子高時代の同級生。家事手伝い。

佐藤孝子さとうたかこ 美知子の女子高時代の同級生。家事手伝い。

一色千代子いっしきちよこ(チヨちゃん) 美知子の女子高時代の同級生。明応大学一年生。ミステリ研部員。

加藤雛子かとうひなこ 美知子の女子高校時代の同級生。新婚。

三澤 翠(みさわみどり) 美知子の女子高時代の同級生。新婚。

斉藤蕗子さいとうふきこ 雛子の妹。二歳くらい。

柴崎由美しばざきゆみ 美知子の女子高校時代の同級生。徳方大学一年生。

坂田美奈子さかたみなこ 美知子の女子高校時代の同級生。秋花しゅうか女子短大家政学科一年生。

白井小夜しらいさよ 松葉女子高校二年生。柴崎由美の従妹。

神田一郎かんだいちろう 明応大学商学部一年生。ミステリ研部員。


お菓子情報


明治製菓/カール(1968年7月25日発売、2017年8月に東日本での販売終了)

カルビー/かっぱえびせん(1964年発売)

日清シスコ/ココナッツサブレ(1965年発売)

ブルボン/ホワイトロリータ(1965年発売)

不二家/パラソルチョコレート(1954年発売)

日本コカ・コーラ社/ファンタオレンジ(1958年発売)


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