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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
29/75

二十九話 祭のあと

日が暮れ始めた境内で、俺は漫談を続けていた。


「ちゃんちゃちゃちゃちゃかちゃかちゃんちゃん。巫女さんの袴と思って履いたら〜、赤い腰巻だった~」


下ネタだが、観客の間からくすくす笑いが漏れてきた。あきれてきたのかな?


「こしまきってなあに?」そのとき、照子ちゃんが武に聞くのが聞こえた。


「昔の女の人の下着、つまりパンツのことだよ」と武が説明したら、照子ちゃんがけらけらと笑った。それに引っぱられて観客からの笑いが増える。


「ちゃんちゃちゃちゃちゃかちゃかちゃんちゃん。ちゃんちゃちゃちゃちゃかちゃかちゃんちゃん」かまわずに続ける。


「白いタオルと思って顔を拭いたら〜、おじいちゃんのふんどしだった~」


観客の笑いが起こる。ここが引き時だと思い、


俺は「お後がよろしいようで~」と言ってステージを降りたが、そんな俺を森田さんがジト目で見つめていた。


「お姉さん、さすがは前生徒会長、舞台度胸があるね〜、と言いたいところだけど、少し下品だよ〜」


「ごめんね、モコちゃん」


「私はかつての姉さんの漫才で慣れているけどね」と明日香が近くに来てフォローしてくれた。フォロー、でいいのかな?


「巫女の衣装を着たら、腰巻きと思われそう」と真紀子も困った顔をしていた。


「そ、そろそろ帰ろうかな?楽しかったけど、明日帰る準備をしなければならないから」


「もう帰っちゃうの?」と聞き返す明日香。


「いろいろ予定があるからね、家庭教師とか」と答える。


「私も宿題があるから、そろそろ帰らなくちゃ」と森田さん。


「そう言えば、スカートを縫わなくちゃならなかったわね」と明日香が思い出して言った。


「また、お姉様のお母様に教えてもらいにいこうかしら?」


「私もまだ縫ってないから、一緒に行こうかな?」と真紀子も言った。


「どこにかえるの?」と、俺たちの話を聞いて武に聞く照子ちゃん。


「自分の家だよ。町の方にある」と武が答えると、


「かえらないで〜!なつやすみがおわるまでいっしょにあそぼうよ〜」と照子ちゃんが武に食い下がった。


「武はもう少し泊まっていったら?私と一緒に帰る必要ないでしょ?」


「そ、そうだけど・・・」


「とりあえず帰ってから決めましょう。照子ちゃんを送って行かないといけないし」


「う、うん」と答える武。


「ところで、家庭教師はいつ?」と聞く森田さん。


「二十日の水曜日よ。高校二年生の女の子に英語を教える予定」


「私もお姉さんに家庭教師をしてもらおうかな」


「私も!」「私も!」と異口同音に叫ぶ明日香と真紀子。


「あなたたち二人は成績がいいじゃない」と二人に言った。少なくとも俺が二年生だったときの学年順位よりも上だろう。


「モコちゃん相手だとお互い甘えが出て、あまり勉強にならないかも」と森田さんにも言う。初対面どうしの方が緊張感があっていいだろう。


去年祥子さんに受験勉強を見てもらったことを棚に上げることになるが、祥子さんは俺にけっこう厳しく指導してくれた。だから緊張感があった。期間が短かったけど、それもかえって良かったのだろう。


しかし俺は祥子さんのように教えられるか、まだ自信がない。


「その女の子に家庭教師をして、うまくやれるようだったら考えてもいいけどね。・・・もう少し待ってね」と森田さんに言っておく。


俺は明日香と真紀子に別れのあいさつを言い、まだ人が多い神社の境内から離れて行った。森田さんはもちろん、武と照子ちゃんも一緒だ。


照子ちゃんはもっとお祭りを見たいようだったが、そろそろ帰らないと家に着く頃にはあたりが真っ暗になりかねない。


「おまつりはあしたもあるの〜?」と武に聞く照子ちゃん。


「今日で終わりだよ」と武が答えると、照子ちゃんは残念そうな顔をした。


「もっとうたをうたいたかった〜」


「歩きながら歌えばいいよ。伴奏はないけどね」と武が言うと、


「じゃあうたう〜!・・・♪あれまつむしがないている〜」と照子ちゃんが『虫のこえ』を歌い出した。


残念ながら帰り道沿いの田んぼからはカエルの鳴き声しか聞こえて来ない。どちらかと言うと『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌の方がふさわしいだろう。それでも照子ちゃんの声はよく響いた。


「・・・ああおもしろい、むしのこえ〜」


「歌が上手ね、照子ちゃん」と森田さんが褒めた。嬉しそうな顔をする照子ちゃん。


「ほかの歌も知ってるの?」と俺が聞くと、


「しっているよ!・・・♪ゆうや〜けこやけ〜の〜・・・あれ?このうたおひるにきいた〜」と、歌うのをやめて俺を見る照子ちゃん。あの漫談のことか。


「お姉さん、あの漫談は意味がわからなかったわ」と森田さんも俺に言う。


「数年経てばわかるわよ」と答える。その頃には一世を風靡しているはずだ。


祖父母の家に着くと、俺たちは家の中に入ったが、武は照子ちゃんを家に送って行った。小さい子をひとりで帰すわけにはいかないからだけど、武もよく面倒をみるなと感心する。


俺は祖父母に「ただいま」と言ってから、


「私たちは明日帰るけど、武はもうしばらく泊まるみたい」と伝えた。


「おお、そうかい」と言いながら、喜んでいる風の祖父と祖母。


「森田さんも今度来たときはもっとのんびりしてね」と祖母が森田さんに言い、


「はい!是非、よろしくお願いします!」と答えていた。


あたりが暗くなった頃に武が帰って来た。手には昨日小魚を入れて行った鍋を持っている。


「お疲れさま」とねぎらう。


「中田さんには会ったのかい?」とまた聞く祖母。


「うん。おばあさんが出て来たら照子ちゃんが大声で『おまつりたのしかった〜。おやつたべた〜』とか言ってさ、俺に向かって『いつも遊んでくれてありがとう』って言って鍋を返してくれたよ。それだけだけどね」と武が答えた。


「武はいつまでいるんじゃ?」と聞く祖父。


「う〜ん・・・」と天を見上げて唸る武。早く帰りたいという気持ちと、照子ちゃんを置いては帰りにくいという思いがせめぎ合っているのだろう。


「一週間ぐらいいなさいよ。明日香ちゃんとマキちゃんもその頃に帰るはずよ」


「そうだな〜」と武はまだ考え込んでいた。


翌朝も照子ちゃんは朝早くから来て、一緒に朝食を摂った。俺と森田さんは帰る仕度をしていたが、武が残ると聞いて喜んでいた。


「きょうはなにしてあそぶ〜?」としきりに聞いている。


まもなく明日香と真紀子が俺たちを見送りに来た。


「私たちはいつものようにあと一週間くらいこっちにいて、それから帰るわ。帰ったらあいさつに伺うから」と明日香。


「あ、私は二十三日の土曜日は夕方に同窓会があるし、二十五日の月曜日から二十九日の金曜日までは英研の合宿で家にいないから」と断ると、明日香ががっかりした顔をした。


「今月中はほとんどいないのね。・・・それでもお母様にスカートの縫い方を聞きに行くかもしれないわ」


「わかった。お母さんに言っておくから気兼ねなく来てね」


真紀子は森田さんに、「じゃあ、モコさん。二学期もよろしくね〜。夏休み中に会うことがあるかもしれないけど」とあいさつしていた。


その間に武と照子ちゃんは遊びに行き、俺は祖父の軽トラの荷台に、森田さんは助手席に乗った。


「おばあさん、お世話になりました。明日香ちゃんとマキちゃんもまたね〜」と言って手を振っているうちに、軽トラがゆっくりと発車した。


荷台の上で心地良い風を受けながらあたりを見回す。次にここに来るのは来年の夏休みかな?そう言えば佳奈さんに万博に誘われていた。・・・行けたとして、何日くらい滞在できるのだろう?


それとも来年は就職活動をしているのかな?いい就職先が見つかればいいけど・・・。


そんなことを考えていると、少し離れたところの田んぼのあぜ道に、たもを持った武と照子ちゃんがいるのに気づいた。二人とも祖父の軽トラには気づかず、じっと田んぼの脇の用水路を覗いているようだった。


そんな二人の姿もどんどん遠くなり、間もなく駅前に着いた。


「おじいさん、ありがとう」とお礼を言うと、森田さんも深々と頭を下げていた。


「私なんかを泊めていただきほんとうにありがとうございました」


「いやいや、美知子のお友だちなら大歓迎だ。またいつでも来てくだされ」と祖父。


「はい、よろしくお願いします!」と、森田さんが祖父に言った。


思い起こせば去年の春、美術室で初めて森田さんに会ったときの印象は、ちゃらちゃらへらへらして軽薄そうな感じだった。実際はそれほどでもなかったけど。


でも、祖父母の家に来てからの森田さんは、言葉遣いも立ち居振る舞いもしっかりしていた。一年で成長したのか、俺の第一印象が間違っていたのか・・・。


俺たちは祖父からおみやげの夏野菜を詰めた袋を受け取り、駅舎に入って切符を買った。やがて電車が来たので、祖父に改めて別れのあいさつとお礼を言ってホームに入った。祖父は俺たちが乗った電車が発車するまでしばらく見送ってくれた。


「とても楽しかったです。お姉さん、ありがとうございました」おみやげの夏野菜を抱えながら着席して、俺にもお礼を言う森田さん、


「そんなに何度もお礼を言わなくていいわよ。私も楽しかったわ」


「いえいえ、私のわがままを聞いてもらって嬉しかったです。それでお返しですが・・・」


「お返し?」


「はい、明日の夕方、私の家に来てもらえませんか?感謝のご馳走をふるまいたいと思います」


「あ、明日なら行けなくもないけど・・・」


「今度はお手伝いしなくてけっこうです。私が料理を作りますから。・・・お母さんと」


「へえ?モコちゃんも料理をするようになったの?」


「はい!お姉さんみたいな完璧な女性になりたくて!」


森田さんの言葉に思わず頬をかいた。家や下宿では料理をよく作っているし、勉強もそれなりに頑張っているが、完璧にはほど遠い。たいして美人でもないし。


「そんなに褒められるほど立派じゃないわよ。・・・でも、料理ができるのに越したことはないわね」


この時代では家事は女の仕事だと思われている。もっとも俺の時代でも、その認識はあまり変わってなかったが。


「とにかく、明日は私の作った料理を食べに来てくださいね」と念を押された。


「わかったわ。楽しみにしてるから」


俺の家の最寄り駅に着くと、しばらく歩いてから森田さんと別れた。森田さんはしばらくの間、俺に手を振り続けていた。


「ただいま」と言って俺の家の玄関に入ると、すぐに母が出迎えてくれた。


「お帰り、美知子。・・・あら、武は?」


「武は向こうで会った女の子に気に入られてね、もう一週間泊まることになったわ」と俺が言うと、母は目を丸くして驚いていた。


俺は笑いながら荷物を下ろし、照子ちゃんのことを説明した。話を聞いて笑い出す母。


「あの子は小さい頃は女の子と遊んだりしなかったのにね」としみじみと言う母。


「小さい子に慕われて年長者としての自覚が出て来たのかもね」


「森田さんは?楽しく過ごしてもらえた?」


「ええ。ずっと楽しそうにしていたわよ。・・・それで明日の夜、夕飯を食べに来てくれって頼まれたの。森田さんが自分で作ってくれるそうよ」


「あら、まあ。・・・美知子のために腕を振るってくれるのね?」


「そうみたいね。・・・それから、私がいないときに明日香ちゃんやマキちゃんが裁縫を教わりにくるかも。そのときはよろしくね」と頼んでおいた。


二十九話登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺、お姉様、お姉さん、みっちゃん) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

中田照子なかだてるこ 小学校低学年の女の子。

藤野 武(ふじのたけし) 美知子の弟。市立中学二年生。

森田茂子もりたしげこ(モコ) 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

水上明日香みなかみあすか 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

内田真紀子うちだまきこ(マキ) 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

丹下佳奈たんげかな 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。


TVアニメ情報


フジテレビ系列/ゲゲゲの鬼太郎(1968〜1969年)


レコード情報


熊倉一雄/ゲゲゲの鬼太郎(1968年9月20日発売)


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