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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
11/75

十一話 古田さんたちとの再会

試験勉強にいそしみながら七月十九日の土曜日になった。


午前中の講義を終えて学生食堂で昼食を摂ると、マンションに戻り、祥子さんたちと実家のある町に帰った。


今日は祥子さんと一緒に後輩の古田さんの家を訪問することになっている。


「それでは祥子さんの家に誘いに行きますので、一緒に古田さんの家に行きましょう」と、自宅の最寄り駅に着いたときに祥子さんに言った。祥子さんは古田さんの家を知らないからだ。


「お願いね。・・・ところで、今日もドレスを持って行くの?」


「いえ。ドレスを着て来るよう言われていませんし、古田さんの友だちはドレスを持っていませんから、今日は普段着で行きます」


「なら、私もそうするわ」と祥子さん。


祥子さんと別れて家に帰ると、母が迎えてくれた。


「お帰りなさい。今日も夕飯をいただいて来るのね?」


「うん。そういうことみたい」


「今夜はあまり遅くならないうちに帰るのよ」


「わかってるわ」


「ところで・・・雪子ちゃんたちはいつつれて来るの?」


雪子ちゃんとは女子高時代の友人の雛子さんの妹だ。今年小学一年生になったばかりで、その下に月子ちゃんと蕗子ちゃんという幼い妹がいる。


「・・・まだ連絡してないから向こうの都合がわからないけど、明日の朝にでもお宅に寄ってみるわ」と俺は答えた。


友人の雛子さんは既に結婚して婚家にいる。そちらには行ったことがない。実家に行けば雛子さんはいないが、妹たちとは会えるかもしれない。


「雪子ちゃんたちのお母さんも小さい子どもが三人もいると大変だろうから、家につれて来ていいか聞いてみるわ」と母に言った。


「お願いね」と頼まれる。「リンゴとビスコとカルピスはあるから大丈夫ね」


母は雪子ちゃんたちの世話がしたくてたまらないのだ。・・・早く弟の武が結婚して孫を作ってくれたらと思う。しかし武はまだ中学生だ。


俺?・・・俺は当分結婚する気がない。元男の意識を持っているので、男との結婚など考えられない。


母と雪子ちゃんたちのことを話しているうちに夕方近くになったので、俺は家を出て先週もお邪魔した祥子さんの家に行った。


ドアホンを鳴らすと、すぐに祥子さんが出て来た。手に何かの包みを持っている。


「それは何ですか?」と聞く。


「招待されたので、手みやげのお菓子よ。ビスケットの詰め合わせなの」


祥子さんの言葉を聞いて俺はしまったと思った。今まで二度古田さん家のパーティーにお呼ばれしたが、いずれも手ぶらで来てくれと言われ、手みやげを持参したことがなかった。言い訳するわけではないが、そのため今回も完全に失念していた。・・・明日香の家にもいつも手ぶらで行ってたし。


「わ、私は何も持って来ませんでした・・・」顔が熱くなる。


「なら、この詰め合わせを二人で持って来たことにしましょう」と祥子さん。


「そ、そんな。・・・悪いですよ」


「いいから、いいから」と、祥子さんは右手で包みを抱え、左手で俺の手を握った。


「さあ、案内して。私は古田さんの家を知らないから」


パーティーに呼ばれたときは二回とも古田さん家の運転手さんに送り迎えしてもらったが、最初にザ・タイガースのレコードを聴かせてもらいに行ったときは徒歩だった。だからだいたい道はわかる。


しばらく歩いて古田家の前に来ると、俺は祥子さんの手を離してドアホンを鳴らした。


誰かが走って来る音が聞こえて、すぐにドアが開かれた。古田さんだ。さすがに今日はドレスを着ていなかった。古田さんの後には美里さんたちの顔も見える。


「いらっしゃい、美知子先輩!そして祥子先輩!」満面の笑顔で俺たちを迎え入れてくれる古田さん。


「今日はご招待ありがとう」と先にお礼を言う祥子さん。


「また会えて嬉しいわ」と祥子さんの言葉に続ける。


「どうぞ、入ってください!」と古田さんに招かれて、祥子さんに続いて玄関に上がらせてもらう。・・・祥子さんの方が礼儀正しいので、その所作を参考にする。・・・前に来たときはそこまで気を遣っていなかった。


食堂に通されると、古田さんの母親が出迎えてくれた。


「こんにちは、藤野さん。お久しぶりね。そしてあなたが黒田さんね。和歌子からお噂は聞いています。どうぞおかけくださいな」とにこやかに話す古田さんの母親。


俺が最初に古田さんの家に行ったとき、古田さんの母親から値踏みするように見られたが、祥子さんは一目で合格点を取ったようだ。


「これはつまらないものですが、どうぞ。・・・私と美知子さんからです」と言ってビスケットの詰め合わせを渡す祥子さん。


「あらまあ。気を遣っていただいて申し訳ありません」とにこやかに受け取る母親。気を遣ったことがなかった俺は萎縮してしまう。


「どうぞ、おかけになって」と再度言われて、俺たちはテーブルに着いた。


手前の中央が祥子さん、その左が俺、右が古田さんだ。そして向かい側に、左から芳野さん、みすずさん、美里さんが並んだ。


「お久しぶりです。大野美里です」と美里さんがまず祥子さんにあいさつする。


「お久しぶりね。・・・大野さんは、確か一年生のときは三組の副委員長だったわね?」


「はい、そうです。覚えていただいて嬉しいです」


「わ、私は和歌子と同じクラスの矢田みすずです。初めまして」


「こちらこそ初めまして」とにこやかに微笑む祥子さん。この微笑に一瞬で心を奪われたことだろう。


「お、同じく、和歌子と同じクラスの葉山芳野です」と芳野さんがあいさつした。


「こちらこそよろしくね」と祥子さん。たちまち芳野さんの頬が赤くなる。かつて同級生だった柴崎さんが俺のことを女たらし(プレイガール)と呼んでいたが、その呼び名は祥子さんの方がふさわしいだろう。


「あ、藤野先輩もお久しぶりです」と俺のことを思い出して声をかける美里さんたち。別に気を悪くしたりしないよ。


「ところで今回は私たちもお料理やお菓子を作ったんです。藤野先輩も黒田先輩も、感想をお聞かせください」とみすずさんが言った。


改めてテーブルの上を見ると、古田さんの母親が作ったと思われる数々の料理の真ん中に大皿が二枚並べてあった。


「これは何なの?」と祥子さんが聞く。ひとつの大皿には、パイ生地の上に卵、ほうれん草、ベーコンを混ぜた生地が焼かれて固まっていた。


「これはほうれん草とベーコンのオープンパイです」と芳野さん。


俺の時代で言うキッシュのようなのだな、と思った。


「これはオーブンで作ったの?」と聞く。


「いいえ、フライパンで作ったんです。・・・オーブンは持ってないので」


「すごいわね」と俺は感心して言った。


「こっちは?」ともうひとつの大皿を指さす祥子さん。


「それは私が作ったアップルパイです」とみすずさんが言った。


「これもフライパンで作ったんです。パイ生地は芳野と一緒に手作りしました」


「それはすごいわね」と祥子さんと一緒に二人を褒めた。


「とりあえず席に着いて、乾杯しましょうよ」と古田さんが言って、全員で席に着いた。


古田さんのお母さんがファンタ・グレープの瓶を持って来て、全員のグラスに注ぎ合った。色がワインみたいで雰囲気がある。


「じゃあ、黒田先輩と美知子先輩との再会を祝って、かんぱ〜い!」と古田さんが言って、全員で唱和した。


すぐに芳野さんがキッシュを包丁で切り分け、小皿に載せて私たちに配ってくれた。


みんなが受け取ったのを見て、手に取ってかじってみる。


「おいしいわ」とすぐに感想を言う俺。


「食いしん坊の美知子先輩が言うのなら間違いないわね」と古田さん。俺って食いしん坊ってイメージ?


「ほんとうにおいしいわ。日本の家庭でこんな料理を作れるなんて、素敵だわ」と祥子さんも言った。


「後でレシピを・・・作り方を教えてね」と芳野さんに言う。


「そう言ってもらえるのはほんとうに光栄です」と喜ぶ芳野さん。


「デザートはまだ早いかもしれませんが、私のアップルパイも味を見てください」


今度はみすずさんがアップルパイを切り分けて配ってくれた。


「これもおいしいわ。洋菓子店で出せるようなレベルね。すごいわ」と褒めると、みすずさんも満面の笑顔を見せた。


「最近、芳野の妹のさくらちゃんと一緒にいろいろなお菓子が作れるようになったんですよ」


「とてもおいしいわ」と祥子さんも褒めた。


「美里は美知子先輩の幼馴染の小柴先輩に倣って、今、ドレスを縫ってるんですよ」と古田さんが美里さんのことを言った。


「あら、そうなの?ケイちゃん・・・恵子さんに会ったのね?元気にしてた?」


「はい。洋装店ブティックに行ったら会っていただきました。お店ではウェディングドレス作りに力を注ぐそうで、小柴先輩も熟練した手つきで縫っていました。・・・私もドレスの縫い方のコツをいろいろ教わりました」


「今度の松葉祭しょうようさいでは美里が縫ったドレスを披露するから、必ず見に来てくださいね」と古田さん。


「それは楽しみだわ。・・・もう演し物は決めたの?」


「それは見てのお楽しみです」と古田さんが舌を出した。


「和歌子は生徒会改革に乗り出しているんですよ」と、今度は美里さんが古田さんのことを話し始めた。


「生徒会の民主化を目指して、来年からは生徒会長選挙を全校生徒の投票で選ぶよう画策中なんです」


「まあ、それはすごいわね。私のときには考えもしなかったわ」と俺は褒めた。・・・生徒会長選挙のことは明日香からちょっと聞いていたが、初耳のふりをする。


「黒田先輩の美しい歌声、美知子先輩の第二校歌に続いて、和歌子も松葉女子高校の生徒会の歴史に名を残すわね」と美里が言って古田さんが顔を赤らめた。


「私の歌なんて記録に残らないけど、古田さんの業績は残るわね」と祥子さんも古田さんを褒め、古田さんは照れ笑いをした。


「でももう七月か。・・・夏休みが終わると修学旅行、体育祭、松葉祭と続いて、あっという間に卒業ね」とみすずさんが感慨深げに言った。


「みなさんは卒後の進路を考えたの?」と祥子さんが聞く。


「私は秋花しゅうか女子大学を第一志望で目指しています」と古田さん。


「美里も大学進学組でしょ?」


「はい。私も大学に進学するつもりです。秋花しゅうか女子大学も有力候補の一つです」


「みすずさんと芳野さんは?」


「私たちはお料理やお菓子作りに目覚めて来たところなので、調理師や栄養士の資格を取得できる短大か専門学校を考えています」とみすずさんが言った。


秋花しゅうか女子短大でも資格を取れますか?」と聞く芳野さん。


「家政学科なら資格取得が目指せたと思うけど・・・」よく知らないので言葉を濁す俺。今度坂田さんに聞いてみよう。


「ところで、ザ・タイガースの新しい映画を来週観に行く予定なんです。私たちと、芳野の妹も来るのですが、先輩方も一緒に観に行きませんか?」と古田さんに誘われた。


「残念だけど、そろそろ試験期間になるの。みんなで楽しんで」と俺は断った。


「私もそうなの。今度会ったら感想を聞かせてね」と祥子さんも言った。


「ちょっと残念ですけど、芳野の妹が友だちをつれて来るみたいなので、多人数になりそうです。近くの席に座れないかもしれないので、今回はあきらめます」と古田さん。


「その代わり、クリスマスパーティーや卒業祝いパーティーを開きますので、お二人も参加してください」


俺たちは快諾した。ただし、今度は手みやげを持って行くことを忘れないようにしよう。


食事と歓談が終わると、また車で送ってくれると言われた。今夜は祥子さんもいるので同乗者が五人になる。みすずさんと芳野さんが二人で助手席に乗り、ちょっときつそうだった。


それでも何とか送ってもらい、最後に運転手さんにお礼を言って帰宅した。


十一話 登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

黒田祥子くろだしょうこ 美知子の女子高時代の先輩で同居人。秋花しゅうか女子大学二年生。英研部員。

古田和歌子ふるたわかこ 松葉女子高校三年生。美知子たちの後輩。生徒会長。

斉藤雪子さいとうゆきこ 女子高時代の友人の雛子の妹。小学一年生。

加藤雛子かとうひなこ 孝子たちの元クラスメイト。新婚。旧姓斉藤。

斉藤月子さいとうつきこ 雛子の妹。幼稚園年少組。

斉藤蕗子さいとうふきこ 雛子の妹。二歳くらい。

大野美里おおのみさと 松葉女子高校三年生。美知子たちの後輩。

矢田やだみすず 松葉女子高校三年生。美知子たちの後輩。

葉山芳野はやまよしの 松葉女子高校三年生。美知子たちの後輩。

柴崎由美しばざきゆみ 美知子の女子高時代の同級生。徳方大学一年生。

葉山はやまさくら 市立中学一年生。芳野の妹。

小柴恵子こしばけいこ 美知子の幼馴染。洋装店に勤務。

水上明日香みなかみあすか 松葉女子高校二年生。黒田祥子の従妹。

坂田美奈子さかたみなこ 美知子の女子高時代の同級生。秋花しゅうか女子短大家政学科一年生。


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