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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
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一話 気がついたら短大生になっていた

『五十年前のJKに転生?しちゃった・・』の続編を始めました。

「おかえりなさい」と優しい女性の声が聞こえた。


「・・・ただいま」と答える。


「またよろしくね」そう言われた気がしたときに目が覚めた。


寝ぼけ眼で目覚まし時計を見る。まだ六時前だ。


あたりを見回すと、カーテンの隙間から明るい光が漏れていた。


隣の布団では若い女性が眠っている。


ここはどこ?・・・俺は誰?・・・最初はよくわからなかったが、徐々に記憶が蘇ってきた。


俺は十九歳になったばかりの女子短大生だ。・・・女子高生のことを俺の時代ではよくJKと言っていたが、女子短大生のことはJTと呼ぶのかな?普通JTと言えばタバコを売っている会社のことだ。この時代ではまだ「専売公社」と呼んでいるけど。


そんなことを考えているうちにここが下宿させてもらっているマンションで、隣に寝ているのは先輩の祥子さんだということも思い出してきた。


俺の名前は藤野美知子。生年月日は昭和二十五年五月十日。そして今日は昭和四十四年六月十六日の月曜日のはずだ。


そして俺には未来の記憶があった。


俺は確か昭和五十八年生まれの男だった。それがある朝目覚めたら昭和四十一年になっていて、しかも女子高生の藤野美知子になっていた。


俺はしかたなく藤野美知子として生活し、女子高の生徒会長になって、短大の入試に合格して、卒業した・・・。しっかりした記憶が残っているので事実だと思うが、短大入学後の記憶はなぜかもやがかかったようにぼやっとしている。


その間、どこか別の場所にも長くいた気がする。しかし思い出せないし、もう朝だから起きなければならない。


俺はそっと布団から抜け出すと、洗面所で顔を洗い、朝食の準備を始めた。


まずキュウリを薄切りにし、塩をふっておく。水が出たら軽く絞ってから布巾で水気を取る。


サンドイッチ用の食パンにバターとマスタードを塗り、片面にキュウリを並べ、その上にスライスハムを重ねる。そして食パンを重ね、耳を斬り落としてから三角に切る。


・・・俺の時代には厚いパンに厚い具材を挟んだサンドイッチが多かった気がするが、薄いサンドイッチの方が食べやすい。特に勉強をしながらの夜食にはもってこいだ。


お湯を沸かして紅茶を淹れていると、祥子さんが起きてきた。


「おはよう」あくびをしながらあいさつする祥子さん。美人の祥子さんだとあくび姿も様になる。


「おはよう、祥子さん。もうすぐ朝食の準備ができますから待っててね」


俺が下宿しているのは女子大生向けのマンションだ。2DKで、お風呂とトイレもついている。この時代にしてはなかなか豪勢だ。


マンションに本来下宿しているのは祥子さんと、まだ寝ている杏子さんだ。二人は従姉妹どうしで、それぞれの親が下宿代を払っている。


俺はこんなマンションを借りられる身分ではないが、二人の家事を手伝うという名目で、ただで同居させてもらっている。


家事を手伝うといっても二人に使用人扱いされているわけではなく、友人か妹かのように接してもらっている。ただ、二人とも家事、特に料理が苦手なので、それを俺が補っているのだ。俺は自宅で普段から家事を手伝っていたので、たいして苦労はしていない。


祥子さんが布団を片づけたところに折り畳み式のテーブルを出して、その上にサンドイッチや紅茶を置いていると、杏子さんも起きてきた。


「おはよう、祥子、美知子さん」


「おはよう、杏子さん」「おはよう、杏子」


杏子さんが顔を洗ってテーブルに着くと、さっそく三人で朝食を食べ始めた。


「今朝もおいしいわ」と本当においしそうに食べ始める二人。簡単なものでも喜んでもらえると嬉しい。


「今日の午後は講義があるの?上谷部長と一緒に浅草の松竹演芸場に行かない?」と杏子さんが聞いた。杏子さんは落語研究会(落研おちけん)の部員で(俺も部員扱いされている)、特に女子高時代は漫才に興味を持っていた。


「短大は毎日講義が詰まってるんですよ。四時頃まで外に出られませんよ」大学は受講する講義の選び方によっては平日でも講義のない日があるらしい。うらやましいことだ。


「そうよ、杏子、美知子さんを悪の道に引きずり込まないで」と注意する祥子さん。


「それよりやっぱり英研に入部しない?」と祥子さんが私に聞いてきた。


俺は英文学科の一年生だから、サークル活動で英研(英語研究会)に入ると何かと役に立つだろう。しかしなぜか四月に祥子さんに誘われたときは、まったく気乗りがしなかった。・・・そしてもう六月だ。今から入部するのはちょっと気が引ける。


「考えておきます」と言っておく。


食事が終わると食器を片づけ、洗濯物を洗面所にある洗濯機に入れて回しておく。その間に講義の準備を終え、洗い終わった洗濯物を窓の外に干しておいた。


なお、下着類は浴室に干しておいた。この部屋はマンションの三階にあるが、この時代でも下着泥棒は平気で壁をよじ登って来るので安心できない。


朝の仕事を終えて八時過ぎにマンションを出る。短大はマンションから歩いて十分ほどのところだ。余裕で通学できるので、このマンションに同居させてもらったことに心から感謝する。


女子大の構内で祥子さんと杏子さんと別れ、俺は短大の学舎に向かった。学舎内に入ると英文学科一年生の講義室に行き、机の上のカバンをおろした。


「おはよう、藤野さん」と、同じ学科の丹下佳奈さんから声をかけられた。


「おはよう、佳奈さん」佳奈さんは入学当初から同級生たちに苗字でなく下の名前で呼んでほしいと言っていた。丹下さんと呼ぶと丹下左膳たんげさぜんを思い出す人が多いから嫌なのだそうだ。


丹下左膳たんげさぜんとは時代劇の隻眼隻腕のヒーローだ。昭和二年の新聞小説で登場し、戦前戦後を通じて多数の映画やテレビドラマが作られている。最近では漫画も連載されていた。


「今日は雨が降らなくていい天気やね。・・・いい天気ね。どこかに遊びに行きたいわ」


佳奈さんは大阪出身で、標準語を話そうとしているのに所々に大阪弁が出る。大阪弁でも誰も気にしないのに、本人は気にしているようだ。


「ところで藤野さんはレポートをどのくらい書いたん?」


佳奈さんに聞かれて俺はどきっとした。一部の科目は学期末試験がない代わりにレポートを提出しなければならない。試験代わりだから、簡単に書けるレポートばかりではない。


「え・・・と、どのレポート?」


「英語小論文のレポートよ。何を書いてもいいけど、逆に何を書いていいのか迷っちゃうわ」


そのとき俺は思い出した。英語小論文のレポートの課題は「自分の好きなもの/ことについて英文で詳述せよ」というものだった。


「好きなもの/こと」は基本何でもいい。例題として示されたのが『ビートルズの楽曲』だった。ビートルズの曲を初めて聞いたのはいつか、そのときどういう衝撃を受けたか、その後聞いた各曲の評価と感想などが、英文で事細かに書かれたものだった。


自分が入れ込んでいる趣味がある人なら書く内容はすぐに決まるだろう。


女子高時代の同級生の良子がビートルズファンだった。あの人なら間違いなくビートルズのことを書くだろう。同じく頼子は、グループ・サウンズのスパイダースのファンだった。麗子は芸能全般が好きだったが、特に三年生になってからはグループ・サウンズのザ・タイガースの熱烈なファンになった。


幼馴染の恵子も、ザ・タイガースや裁縫のことを書けるだろう。


一方、一色なら当然推理小説を選ぶだろうし、喜子ならBL小説・・・はさすがに教授に提出するレポートの課題には選べないか。


俺の趣味はと言うと、・・・実はこれといった趣味がない。女子高時代は美術部と文芸部に入っていたが、似顔絵をよく描いていたというだけで、特に語れることはない。読書家でもないし。


「何を書いたらいいのかしら?こんな課題だと自分が無趣味だってことが思い知らされるわ」と俺は佳奈さんに言い、互いにうなずき合った。


「佳奈は『丹下左膳』のことを書いたら?」と横から声がした。同級生の嶋田芽以さんだ。


「そんなん書くわけないじゃん!」と言い返す佳奈さん。


「なら、来年開催される万国博覧会のことは?大阪が地元なんでしょ?」と芽以さん。


「まだ開催されてないから、あまり書けることがないわよ。それより芽以は何を書くの?」


「私もたいした趣味がないからなあ。・・・あ、そうだ!最近星座占いに興味があるから、星座について書いてみようかな」


芽以さんはカバンから一冊の本を出した。『西洋占星術』というタイトルの新書だった。


「誕生日で星座が決まって、星座からそのときの運勢などが決まるのよ。ちなみに私はしし座、佳奈はおとめ座。藤野さんは?」


「私は五月十日生まれだから・・・」と俺は答えた。何座になるんだ、美知子は?考えたこともなかった。


「じゃあ、おうし座ね」


「へ~、芽以は星占いについて書くの?」


「星占いの内容はいろいろ変わるから、占いじゃなくてそれぞれの星座の説明を書こうと思うの。星座の絵を全然思い描けそうにない星の配置の図を描いて、どう見ればこの絵になるのかとの考察を添えてね。十二星座あるから、字数を稼げるじゃない?」


「めんどくさそ~だけど、十分に書く内容があるわね。私も何か考えなきゃ」と佳奈さんは言って俺の方を向いた。


「そう言えば家政学科の・・・坂田さんだっけ?藤野さんが女子高時代に手相を観て、よく当てたって言ってたわね」


「え~、そうなの?なら私の手相も観てよ」


「ちょっとだけ手相の勉強をしたんで、適当に占ってただけよ。いつ結婚するかとか適当に言ってたけど、ほとんどの人はまだ結婚してないから、当たったかどうかなんてわからないのよ」


「でも評判だったって言ってたから、それなりに信憑性があったんじゃない?」


「どうかしら?・・・あ、そう言えば選択科目で取っている食生活論のレポートの宿題もあったわ」と俺は話を変えた。


「私たちは取ってないけど、どういうレポートを書かなきゃならないの?」と芽以さんが聞いた。


「何か目新しい料理のレシピを考えてまとめろって課題なのよ」


「ええっ!?新しい料理を考えるの?そんなの大変じゃない!」


「新しい、じゃなくて、目新しい、よ。あまり日本に知られていない洋食のメニューでも書けばいいんじゃないかしら。もっともそんなメニューがうまく見つかるかが問題だけど」


「洋食の本でも図書館で調べてみたら?家政学科の図書に何かあるんじゃない?」


「そうなんだけど、そんな本に書いてある内容って、家政学科の先生なら知ってるんじゃないかしら?」


「それでもいいんじゃない?適当なのを書いておけば及第点はもらえるわよ。もしどうしても、と言うのなら、本屋か区立図書館で探してみたら?」


「そうね・・・」俺の時代にあった料理で、まだこの時代ではあまり知られていないのを思い出してみよう、と俺は思った。


「あ!」


「今度はどうしたん?」と効く佳奈さん。


「そう言えば、英文の短編小説を訳して出すようにってレポートもあったわね?」


「うん、副読本のホーソーンの短編から好きなのを訳すようにって宿題だったね」


「あれもまだ全然書いてないわ!」と俺が言うと、佳奈さんと芽以さんは俺をあきれたような顔をして見つめた。


「まだ書いてなかったの?」と芽以さん。


「みんなはもう提出したの?」


「そうよ。七月には試験があるから、早めに出しておこうって藤野さんの前で話してたじゃない?にこにこして話を聞いていたから、もうとっくに出したものだと思っていたわ」


・・・その頃の俺は、ただぼーっとして二人の話を聞いていただけだった。全然危機感を持っていなかった。


「一晩や二晩じゃ書き上げられそうにないわ。・・・どうしよう?」


「がんばるしかないわね」と二人に言われる。


この三か月間、なぜかのんびりしすぎていた。気を引き締めてレポートを書かないと。・・・しばらくは週末に家に帰らずに、レポートに専念しなければ。


もちろん講義も他の宿題もあるし、家事もきちんとこなさなくてはならない。・・・今日の夕飯はどうしよう?


そこで俺は食生活論のレポートに書けそうなことを思いついた。


どうせならあの料理を作ってみて、祥子さんと杏子さんに食べてみてもらおう。


そしてうまくいったら、それをレポートにまとめればいい。


一話登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺) 主人公。昭和二十五年五月十日生まれ。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。平成時代の男として生きた記憶がある。

黒田祥子くろだしょうこ 美知子の女子高時代の先輩で同居人。秋花しゅうか女子大学二年生。英語研究会(英研)に所属。

水上杏子みなかみきょうこ 美知子の女子高時代の先輩で同居人。祥子の従妹。秋花しゅうか女子大学二年生。落語研究会(落研おちけん)に所属。

上谷葉子かみやようこ 秋花しゅうか女子大学四年生。落研部長。

丹下佳奈たんげかな 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

三笠良子みかさりょうこ 美知子の女子高時代の同級生。晨立大学一年生。

湯浅頼子ゆあさよりこ 美知子の女子高時代の同級生。晨立大学一年生。

白沢麗子しらさわれいこ 美知子の女子高時代の同級生。令成大学一年生。

小柴恵子こしばけいこ 美知子の幼馴染。洋装店に勤務。

一色千代子いっしきちよこ 美知子の女子高時代の同級生。明応大学文学部一年生。

山際喜子やまぎわよしこ 美知子の女子高時代の同級生。明応大学教育学部一年生。

嶋田芽以しまだめい 秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

坂田美奈子さかたみなこ 美知子の女子高時代の同級生。秋花しゅうか女子短大家政学科一年生。


映画情報


大河内傳次郎主演/新版大岡政談(第一編: 1928年5月31日〜解決編8月17日公開)

大河内傳次郎主演/丹下左膳余話 百萬両の壺(1935年6月15日公開)

大河内傳次郎主演/丹下左膳(1953年7月1日公開)

豊川悦司主演/丹下左膳・百万両の壺(2004年7月17日公開)など多数


TVドラマ情報


日本テレビ系列/山一名作劇場 丹下左膳(1958年10月7日〜1959年4月14日)

日本テレビ系列/丹下左膳 TANGE SAZEN(2004年6月30日)など多数


漫画情報


小沢さとる/丹下左膳(サンデーコミックス、1巻: 1968年2月20日〜2巻: 1968年7月10日初版)


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