1話目
とりあえず起きたところ
ーーわたしのランドセルはどこ?
真っ暗な中で声がした。
悲しそうな声だった……誰の声だろう?
女の子の声
みつけなきゃ
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身体がひんやりとした。
固くてつるつしたものの上によこになってる。
目を開けるとつるつるした石の床の上だった。
「大丈夫?」
丁度目を覚ました時肩揺すられた。
ポニーテールでセーラー服の少女が心配そうに覗いてきた。
「……うん。俺は大丈夫。」
少し痛む頭を抱えて俺は起き上がった。
隣でも誰かが声をかけていた。
そちらを見ると、小学校低学年位の少女が横たわっていて、それを高校生位の線の細い少年が起こしている。
「ねぇ、起きてすぐで悪いんだけど…あなたここがどこか分かる?」
「えっ?」
辺りを見渡す。
赤い絨毯、品のいい壁紙。
正面に扉が二つ、木の扉で金の色のドアノブ。
左側には絨毯と同じ赤の階段に木の手すり。
全く身に覚えのない場所だ…
後ろを振り向くと大きな両開きのドア。
倒れていたのは大理石の床で出来た広めの玄関のようだ。
「ねぇ?わかる?」
不安そうに聞いてくる少女に、首を振る。
「ごめん、分からない。…何でこんなとこで寝てるんだ?」
ここに来る前の記憶を辿ってみる。
桜並木を見ながらぼんやりと高校からの帰り道を歩いていた。
夕日と桜ってきれいだなぁ…。
明日は土曜日だし今日は少し夜更かししようか、
そんな呑気な事をかんがえてたっけ?
その後……その後、どうしたんだ?
思い出せない。
なにか声が聞こえたような…
「ねぇ!こっちの子も起きたよ!」
ボーッと考えていたら隣りの少年から声がかかった。
どうやら女の子も起きたらしい。
白いワンピースを着た透明感のある可愛らしい少女。
真っ黒な髪と同じ真っ黒な大きな目で周りをキョロキョロと見渡し、不思議そうな顔で僕達を見て首を傾げる。
「どこ?だれ?」
「……そっか、君もここが分からないか。」
少年は残念そうに苦笑いする。
「仕方ないわね…。とりあえずここから出る方法探しましょう。」
「出るって…玄関なんだからここから出れば良いだろ?」
玄関のドアノブに手をかける。
「開かないわよ、とっくに試したわ…」
そんな声を聞きながら一応ドアノブを捻ってみると開かなかった。
『まだ支度が出来てないでしょ?せっかちさんね…。』
ドアノブをひねった瞬間どこからともなく女性の声がした。
ビックリしてドアノブから手を離した。
他の2人を見ると、同じようにビックリして固まっている。
女の子はよく分からない、という感じで首を傾げていた。
「…今のどこから声がした?」
恐る恐る2人に訪ねた。
「…天井?」
「いや、僕は分からないけどここ全体から声が聞こえた?気がする…」
「スピーカーでも入ってるのか???」
「分からないわ……。さっきドアを開けようとした時は何も無かったのに…。」
しばらくなんとも言えない沈黙になった。
「とっ!とにかくここから出ましょう!ここは開かなくてもどこか出られる場所があるはずよ!」
セーラー服の少女は皆に、自分に言い聞かせるように言った。
「そっ、そうだな。とにかく出口を探そう。」
「うん、えっと…何ちゃんだろう?君も一緒に行こうか?」
少年が女の子に手を差し出す。
「つきはつきだよ!小学校1年生!7才!」
元気よくにこにこと挨拶したあとつきは少年の手を取った。
「あー…そういえば、名前知らなきゃ割と不便だよな…。」
何となく気まずくて頭をかきながら二人を見た。
「それもそうだね。僕の名前は柿崎 剣時。高校3年生だよ、よろしくね。 」
柿崎は優しそうな、人の良さそうな柔らかい顔で微笑む。
「私は狭山 詩織。中2、よろしく…。」
狭山は少し不安そうな顔で挨拶した。
3人の視線が俺に向く。自己紹介は少し苦手だ。
「俺は、望月 隆也…。高校1年生、よろしく。」
「じゃぁ、自己紹介も済んだとこで。とりあえず窓とかどっか出れる場所探しましょう。」
狭山の声掛けて動き出す。
「どうする?とりあえず近くの扉から見てくか?」
2つの扉を見る。
扉の間にはさっきは気付かなかったが小窓があった。
変な位置に着いてるなぁとそちらを見ていると声がかかる。
「そうね!とりあえず迷った時は左から?とかなんかで見たし、左から見ない?」
「うん、分かった。望月君もそれでいいかな?」
「ん?…あぁ。」
「…?どうかしたの?」
「いや、なんか変なとこに窓着いてるなぁって。」
「窓?…あ、ほんとだ。」
ドアとドアの間ににある小さな窓。
暗くてよく見えないのか、飾りなのか?
「窓!?」
出られる窓かと思ったのか狭山が嬉しそうにこちらを見た。
「あ、ごめん。出られるやつじゃなくて、ほらあそこ。」
扉の間の窓を指さす。
「なんだ……。」
狭山はあからさまにガッカリした。
何となく窓に近づき覗いて見た。
向こう側は見えなくて、硝子には自分が映る。
飾りの窓?みたいだ……。
見ているとなんだか嫌な感じかした。
「望月くん、行くよ。」
俺が窓に寄り道してる間に3人は左の扉の方に行っていた。
「あぁ、今行く。」
変な窓を横目に3人を追いかける。
一体ここはどこなんだろう……。
読んでくださりありがとうございます。
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