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女神さまからのミッション  作者: チョコクッキー
3/4

うちのお嬢様は方向音痴なんです

「エルオーネさん、同棲してみない?」


女神様は言った。ここは、また、夢の中のようだ。


はあ、とわたしは相槌を打った。


「ほら、最近は、結婚する前に一度一緒に住んでみて、合いそうかみてみるのも有りっていうじゃない。わたくし、それ、とってもいい考えだと思うの」



「女神様。あのですね、それ、結婚前提の恋人同士がするものでして。わたしとノアさんは、ただのお友達ですよ」



わたしは女神様に言った。嫌な予感がした。



「お友達でも、ルームシェア、っていうんでしょう?とっても素敵!」



「それ、地球の話ですよね…?」



女神様は、それでね、それでね、と楽しそうに話した。



「良い物件があったの!きっとあなたも気に入るわ!とっても素敵なおうちだから。じゃあ、楽しみにしていてね」



うふふ、と光があふれんばかりに満面の笑みの女神様がだんだん白くかすんでいき、わたしは目を覚ました。



ちちち…、と鳥の鳴き声が聞こえる。










「神殿から、また神託があったらしくてね」



家族で朝食中、父が私に言った。母は、「あなた!私は反対ですよ!」と言った。父は。「まあ、まあ」と母をなだめた。わたしは無言で続きをうながした。



「神殿長から届いた手紙だ。読んでみなさい」



封筒を差し出された。神殿から届いた手紙を食事中に触っていいのだろうか。手にパンケーキのソースがついていないことを確認してから、手紙を受け取った。


神官長からの手紙には、挨拶と、女神様からの新しい神託について、書かれていた。



『魔法塔ノア・カーラントとルーナス文官の娘エルオーネは、王宮の『星の宮』に住みなさい。この神託を実行しない場合、月の女神が悲しむでしょう』



女神様。「良い物件」て王宮ですか…。わたしは、頭をかかえた。



「今回のは、嫌でも断れなくてね」


父は、うーん、と続けた。


「神官長と、王城の宰相とはもう話をしたのだが、エルオーネ、明日から『星の宮』に住んでくれないか」


わたしは、朝食のフルーツとクリームがのったパンケーキをもぐもく食べながら、うなづいた。

ノアさん、びっくりしすぎて引っくり返っていないかな、と思った。








あれよあれよというまに、身支度はすんで、星の宮に着いた。宰相様からの話では、使用人を連れて行っても問題ないということだったので、私の家からはメイドのアンと従者のローレルが付いてくれた。身支度よりも、母のほうが大変だった。嫁入り前の娘が、とか、なにかあってからでは遅いのよ、など、納得できることばかりなので、そうだよね、と相槌を打つしかなかった。


「エルオーネがかわいそうよ。どうして断れないの」


昨日、わたしを抱きしめて、母は言った。母はあまりこういったスキンシップをするほうではないので、わたしはうれしくて母にギュッと抱きついた。



父は、それがねえ、と言った。


「神託に『月の女神が悲しむでしょう』とあるからねえ…。月の女神の悲しみは、災いの別名だからねえ…」


母がその後も長い時間をかけて抗議していたが、結局、かなわず、星の宮へ見送りに来てくれた際、わたしにあれこれと、気をつけなさい、少しでもおかしいとか怖いとか思ったらすぐに逃げなさい、と口をすっぱくして何度も言った。わたしはうんうん、わかったとうなずいて、大丈夫、と笑いかけると、母はまた私を抱きしめてくれた。



「私とこの人の娘なのに、どうしてこんなに性格の良い子に育っちゃったの!」


「フィーさん、それどういう意味なの」



星の宮の入口まで見送ってくれた父母から心配そうな視線を受けながら、わたしは星の宮に入った。入る前に手を振った。

神託では、期限は1年、らしい。学校は今は長期休暇中だが、休暇が明けたらここから通うことになるらしい。




星の宮は、王城の敷地にある宮のひとつで、主に、嫁婿に行った王族が里帰りに使ったり、王族の友人が滞在するための部屋などがある宮のひとつだ。もう一つ、似たような用途で使われる(そらの宮のほうが王城へのアクセスが良いので、星の宮はたまにしか使われないらしい。初めて会った宰相補佐さんからそう説明された。私とノアさんは、それぞれ、東側と西側の最奥にある部屋を使うことになるらしい。女神様から「同棲」と聞いたときは、日本にいたときの感覚でもっと狭い家に一緒に住むことを想像したが、実際は、自分の家よりも広い宮の端と端に住むことになるので、同棲よりも学生寮のほうが近いと思った。私はほっとした。



「この宮は風呂や洗面所は東側と西側にそれぞれございます。食卓部屋、キッチン、書斎、休憩ルームは共用です。なにか、困ったことや要望がありましたら、私にすぐに言ってくださいね。私に言いにくければ、あなたのお父様でもよいですし、女性の使用人も宮におりますので、相談してくださいね」


宰相補佐さんは心配そうに言った。宰相補佐さんは、私の父よりも少し若い、お兄さん、という感じの人だ。星の宮を案内するとき、歳のはなれた妹がいることや、自分は甘いもの好きで、お酒が苦手なので、酒入のお菓子が少ししか食べられないことなどを話してわたしの緊張をほぐしてくれた、いい人だ。


ありがとうございます、と私が言うと、宰相補佐のお兄さんは頭をなでてくれた。


かたん、と音がしたほうを見ると、ノアさんが星の宮の入口を開けた音だった。人がもういると思っていなかったのか、ノアさんが少し目を見開いている。ノアさんの顔を見た途端、女神様が言った『同棲』という言葉を思い出してしまい、わたしは急に緊張した。わたしが固まっていると、宰相補佐さんがわたしとノアさんの前にすっと入り、ノアさんに挨拶をしたので、わたしからはノアさんが見えなくなった。侍女さんが部屋に案内してくれるそうなので、ついていった。通り過ぎるとき、宰相補佐さんの向こうにいるノアさんが見えて、ノアさんもこちらを見た。ノアさんも緊張しているようで、表情がこわばっている。そうだよね、家族以外の人と一緒に住むのも、よそのお家に住むのも、緊張するよね。ノアさんにぺこ、と会釈して、わたしは東向きの廊下に向かった。



星の宮の中は基本的に左右対称に作られていて、案内がないと迷ってしまいそうだった。案内された部屋は、入ってすぐが居間、東側に寝室、北側に化粧室、南側がバルコニーで、2階のベランダ越しに下の庭園がよく見えた。内装は穏やかな薄いグリーンが中心で、家具の装飾がかわいい。


案内してくれた侍女さんが部屋を出たのを確認してから、わたしはベッドにダイブした。



「うわあ、ふかふか!」



天蓋付きのベッドのフカフカ具合を堪能していると、メイドのアンが、はあ、とため息をついた。



「噂には聞いていましたが、想像以上のお顔でした…。お嬢様、よくあの方と普通にお茶をしましたね…」



私は悲鳴を我慢するの、大変でしたよ、とアンは思い出したのか、身震いして言った。



「アンは、ノアさん怖かった?」



私は気になって聞いた。



「ええ、どこぞの地獄からやってきたのかと思うくらい、恐ろしいお顔をしていました…!お嬢様から話を聞いて、中身は良い人だと知っている私ですら、反射で憲兵を呼びそうになりましたよ…。ていうか、夜中にぬぼっと立っていたらぜったい憲兵呼びます」



アンは疲れたように言った。



「そうかあ…」


先代の神さまの呪いはよく効いているようだ。



「わたしは、ノアさんは綺麗でかわいいと思う」



わたしが言うと、アンはわたしのおでこに手をあてて、熱を確認した。



「お嬢様、そんなこと言っていると、お嬢様のやさしさに付け込まれてそのうち神託に結婚させられてしまいますよ?ひとつ屋根の下で暮らすこと自体、ふつうにありえないんですからね。今回は極秘ですが、それでも一部の王族の方や神官長さまはご存じらしいですし。このことが噂にでもなって、お嬢様の将来に悪い影響があったら、私ゆるしませんから!」



アンが白熱してきたので、どうどうとなだめた。一応、わたしの将来への配慮として、今回のノアさんとの同棲(女神様談)の件は、神官長、限られた王族の方、宰相様、宰相補佐様、うちの両親と兄、星の宮に配属された王様直族の一部の使用人さん、ノアさんのみが知っているらしい。おおごとになってきたなあ、とわたしはため息をついた。



女神さまの「恋をしてほしいの」を考えた。難しんじゃないかな、と思う。


わたしは、正直、恋をしたいとは思わない。相手がノアさんだからではなく、もともと、そういったことにあまり興味がなかった。ノアさんの魂がもし、恋をせずにこの世界にとどまらなくても、それでノアさんが幸せなら、べつにいいんじゃないか、とも思う。それに、神託に無理やり引き合わされて、さあ恋をしろ、と言われると、逆にしたくなくなる気がする。女神様には悪いが、わたしはあまり乗り気ではなかった。神託に振り回されるわたしやノアさんだって大変だ。今度夢で女神様にあったら、その旨を伝えよう、と思った。そうしたら、ノアさんとはもう会ったりしなくなるのかな、と思うと少し寂しく感じるが、でも、いまの状況はふたりとも大変だ。別のやり方がないのか、女神様に言いたい。



「ノアさんにも相談したいな…」



女神さまの本当の目的をノアさんは知らない。知ったら、なんて言うのかな。ノアさんは国の中でも優秀な魔導士だ。会話をしていてもそれはすごくわかる。いつも、わたしの知らないことを、わたしから聞かれるままに、わかりやすくかみ砕いて説明してくれる。わたしはノアさんも一緒に考えてくれたら心強いな、と思った。でも、同時に、恋をすることを女神様から望まれていること、来世もこの世界にとどまってほしいことを望まれていることを知ったら、なんて言うのか想像がつかなかった。




夕飯の時、ノアさんは食卓に来なかった。ノアさん付きの、王家から星の宮に派遣された使用人のセバスさんに聞いてみると、ノアさんはひとりで考えたいから夕飯はいらない、と言ったらしい。急に環境が変わり、わたしもあまり食欲がなかった。軽い食事をとって、部屋に戻った。ノアさんと話すのは明日にして、今日はお風呂に入って休むことにした。






夜中、お腹がすいて目が覚めた。夕ご飯の残りがキッチンに保管されていますので、食べたくなったら言ってくださいね、とわたしの使用人のローレルが言っていたのを思い出し、キッチンに向かった。向かいの部屋にいるアンに持ってきてもらっても良かったが、もう夜中なので、起こすのはわるいなと思い、一人で行った。キッチンで夕ご飯の残りを温め、使用人用のテーブルとイスで食事をとった。実家でやったら母に叱られるが、たまにはこういう、気を使わない一人の食事も良い。洗浄魔法のかかった飴をなめて口を清潔にした。お腹がいっぱいになったことで、眠気で頭がぼうっとしてきた。これならよく眠れそうだ。部屋に戻ろう。左右対称な造りの建物内を歩き、たぶんこっちかな、と角を曲がった。見覚えのある廊下の奥のドアを開けて、正面の寝室に入った。廊下の照明に慣れた目からは寝室が真っ暗に見えるが、かろうじて、月明かりでベッドのふちが光っているのがみえた。わたしは眠気でぼうっとしたまま、ベッドに戻った。わたしが入っていた時のようにベッドの中は暖かく、すぐに眠りについた。






ごん、と音がした気がして、うっすら目を開いた。ねむい。ちちち…、と鳥の鳴き声がする。コンコンコン、とノックの後、おはようございます、とセバスさんの声がした。こんな朝早くにセバスさんが訪ねてくるなんて、なにかあったのだろうか。眠気が残る頭で考え、半覚醒状態で起き上がり、アンに指示を出そうとしたが、アンはまだ部屋に来ていないようだった。朝日に照らされた部屋内を見て、あれ、と思った。昨日見た時と内装が違ったからだ。昨日見た寝室の内装は、穏やかな薄いグリーンで花の装飾がかわいらしい部屋だった。今見える部屋の内装は、穏やかな薄いブルーの、つたの模様が優雅な部屋だった。わたしは、ある考えに至った。ぎぎぎ、とうしろを振り返ると、驚愕の表情で壁にはりついて、硬直している、ねまき姿のノアさんがいた。しばらくふたりとも無言だった。



また、コンコンとノックの音が聞こえた。


「カーラント様、もうすぐ朝食のお時間です。いかがなさいますか?」



ドアの向こうでセバスさんの声がした。まずい。ノアさんの寝室にわたしがいるのを見られるのはとてもまずい。わたしは、ノアさんに、ジェスチャーで自分を差し、×を腕で作った。ノアさんは、はっとして、ドアに向かって「朝食はとらない!しばらく一人にしてくれ!」と言った。セバスさんが了承して、離れていく気配がした。わたしはほっとした。



「ノアさん。ごめんなさい。部屋を間違えたようです」


わたしはベッドの上で、土下座ポーズで謝った。この国には土下座は存在しないので、ノアさんにはわからないかもしれないが。気分的に。



ノアさんは言葉がでないようで、茫然としている。寝起きのノアさんは、綺麗な黒髪が少し乱れていて、色っぽい。重い沈黙が続く。わたしは空気を軽くしたくて、




「ノアさん。パジャマパーティ、できちゃいましたね」




ネグリジェのすそをちょっとつまんでみせて、努めて明るく言った。




「……!!………!!!」




ノアさんが赤くなったり、青くなったりして泣きそうになっているので、申し訳なくなって、わたしはふたたび土下座で「まことに申し訳ありませんでした」と謝った。朝起きたら友人が同じ布団にいたのだ。ノアさんからしたら寝起きドッキリどころじゃない驚きだっただろう。本当に悪いことをした。




「こっそり自分の部屋に戻りたいのですが…」



わたしが言うと、ノアさんはやっと我に返ったようだ。「送ろう」と言って、私の手をとった。次の瞬間、少しの浮遊感の後に、薄いグリーンの内装の部屋に来ていた。私の寝室だ。寝室に突然現れた私と、私の手をとるノアさんをみたアンが悲鳴を上げた。




「いやーーー!!!お嬢様!!!!!!このやろう!お嬢様をはなせ!!」




アンはハンガーでノアさんに殴りかかった。




「アン、ちがうちがう!」



わたしがあわてて間にはいると、アンが背にわたしをかばった。



「だれか!だれか来てください!!!」



アンは叫んだが、誰も来なかった。



「防音の魔法を使ったから、最初から声は外に漏れていないよ」



ノアさんが落ち着いて言った。ノアさん、すごくありがたいです。すっごく悪役っぽいけれど。アンは、さらに警戒を強めたようだ。わたしは、アンに説明しようとしたが、アンはノアさんを警戒してそれどころではいようだ。ノアさんが瞬間移動で自室に戻り、部屋にアンとわたしだけになって、アンはわたしの話を聞いた。部屋の外に人を呼びに行こうとするアンをとどめた。




「大丈夫ですか!?ひどいことされませんでした!?」



「いや、まったく。なにも。ごめんね、部屋を間違えて」




落ち着いたアンから、今後ひとりで部屋を出るの禁止、と言われた。本当になにもされていないか、しつこくアンは聞いた。わたしは、ノアさんの名誉のために、なるべく詳しく説明した。昨日の晩、キッチンから帰るときに部屋を間違えたこと。



「朝目が覚めたら、寝室の内装が違ってね、起きたら後ろでノアさんが壁に張り付いていてね。部屋を間違えたことを説明したら、私の寝室にこっそり送ってくれたの。ノアさんは紳士なひとだよ。大丈夫」




「運がよかっただけですからね…!!!!二度とやってはいけませんからね…!!!!」




アンの説教は何時間もつづき、ローレルが止めるまでつづいた。朝食を食べ損ねてしまった。ノアさんは昨日の夜から食べていないから、お腹がすいているんじゃないかな。空腹でそんなことを考えながら、わたしは目が覚めたときのノアさんの表情を思い出して、くすっと笑った。





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